あれから数日が過ぎ、今日はTGC本番の日。朝早くに緑さんからの連絡があり、待ち合わせは会場でのこと。

仕事が終わってから寝たら起きれない自信しかなかったため、俺は寝ずにそのまま起きていて会場までタクシーで向かった。



「あー…っと、総司さんの説明終わっちまったのか…。久々に話聴きたかったんだけどな」



亀梨総司。この大会の主催者だ。彼とは数年来の付き合いなんだけど…っとそんなのはどうでもよくて。

つか緑さん達はどこなんだよ、と寝不足で虚ろな目を少しばかりきょろきょろとさせていると、少し歩いたところに見慣れた背中を見つけた。



「はようざいます…緑さん、ふじもん、おいっちゃん」

「おはよう、悠ちゃん。ちゃんと遅れずに来れて偉いね」

「はよっス!ってイタイイタイイタイ!何で俺をつねるんスか!?」

「別に、むかついたから(緑さんに)」

「おはようございますっ、悠さん!」

「おはよ、おいっちゃん」



緑さんの子ども扱いにイラっとしてふじもんの脇腹をつねる。それに涙目で痛いと言うふじもんを無視しておいっちゃんがキラキラした目で挨拶してきた。



「…つか、今日の1回戦目…誰が出るんですか」

「どうしよっか?んー…、最初は俺と、ふじもんと、市でいこうか?」

「っあの!私…悠さんの戦ってるところ、見たいです!」



緑さんのメンバーに異議を唱えたのはおいっちゃん。…そういえばこの中で俺が戦ってるところを見たことがないのっておいっちゃんだけか。



「じゃあ、悠ちゃん出よっか」

「はーい」



俺は間の伸びた返事をして、ハンドガンを二丁手にする。銃を手にするのは久々で、その感覚に俺は少しの間酔いしれていた。

用意されていた軍服に着替え、横髪を留めているピンの調整をし、最後にまだ結っていなかった前髪をゴムでちょこんと結ぶ。そして前髪を帽子の中に入れれば、完璧だ。



「お、お似合いです…!悠さん…!」

「へへ、そ?ありがと」



おいっちゃんからのお褒めの言葉に素直に礼を言う。横でふじもんもなんか悶えているけどそれは無視だ、無視。



「さて、1回戦目のチームも決まったみたいだね。行こうか」

「はいっス!」

「頑張ってくださいね!」



おいっちゃんの応援に俺たちは笑顔で応える。



「…で、1回戦目の相手はどこですか?」

「あれ?言ってなかった?」

「…………」

「あわわ…っ!み、緑さんんん…っ!」

「ふふ、ごめんごめん。ほら、ふじもんも怖がってるから落ち着いて」

「…で、ど こ で す か ?」

「あはは。えっとね、」


――トイ☆ガンガンってチームとだよ


笑顔でさらっと言ってのけた緑さんとは反対に、俺は一瞬頭の中が真っ白になった。

だって、サバゲーのチームは3人から。でないとこのTGCは出られない。トイ☆ガンガン――正宗のチームは最近やっと3人揃ったチームだ。しかも今までサバゲーをしたことがないって奴が3人目だぞ。そんなチームがTGCに出るなんて…。



「あ、ほら、相手チームのトイ☆ガンガンだよ」



いつの間にか俯けていた顔を上げて、前を見据える。そこには今日の明け方まで一緒に仕事をしていた正宗の姿があった。それと、正宗のチームメイトである“ゆっきー”と“蛍”と姿も。



「4回連続優勝のホシシロと、復活カムバックしたトイ☆ガンガンが激突だ!!!」




周りの声がやけに小さく聞こえる。俺は驚きに満ちた目を正宗に向けた。



「…さっき言ってたこと本当になっちゃったね、立花君」



突然緑さんが立花君に話しかけた。彼は正宗に殴り込みにうちの店までやってきた子だ、確か。女の子にも見えなくもないけど…。



「それじゃ、お手柔らかに殺し合おうか」



清々しいほどの笑顔を浮かべた緑さんに、俺はほんの少し寒気がした。

正宗はまだ俺には気づいていないようで、緑さんを見て恐怖に顔を真っ青にさせている。昨日の正宗のあの顔は、もしかすると緑さんと何か関係があるのか…?というか正宗と緑さんは知り合いだったのか?



「そうだ、紹介するね」



もうすぐ始まるっていうのに、緑さんは急にそんなことを言い始めた。は?と思った瞬間、俺は緑さんにぐいっと引っ張られる。



「ホシシロの新しい仲間の西島悠。仲良くしてあげてね」



その言葉に、俺の目線の先にいる正宗はさらに目を見開いた。それもそうだろう、何せまさかこんなところに仕事仲間の、しかも俺がいるなんて思いもしなかったはずだ。



「え、な…っ、悠…!?」

「…………」



どうするべきだ。俺は、『俺』のまま接するべきなのか、それとも『僕』で接するべきなのか…。



「…悠……?」



不安そうな正宗の声に、俺はぎゅっと拳を握りしめた。そして、



「…朝ぶりだな、正宗」

「…え、…悠…?」

「…これが、俺の素だ。ホストの俺は作ったキャラ。…騙してて悪かったな」



ス、と帽子を深く被り、俺は正宗に背を向ける。緑さん達に目を向けると、緑さんにまにまと面白そうに、ふじもんは心配そうに俺を見ていた。正反対の二人にまたイラつくも、ため息を吐くことでなんとか抑えた。



「…松岡さん?」

「まっつん…?なに、知り合い?」

「…俺の、仕事仲間だ」



正宗の哀しそうな声がツキンと胸に響く。それに今すぐにでも振り向いて謝りたい。だけど、今は無理だ。今、俺と正宗は“敵同士”なのだから。



「…まさか悠ちゃんと正宗が知り合いだとは思わなかったなあ」

「…別に、そんなことはどうだっていいですよね」



楽しそうな緑さんに適当に返す。途中でふじもんが何故か頭を撫でて来たからお返しにと拳を一発くれてやった。



誰も予期せぬTGC一回戦

嵐が、来る