それからと言うもの、今日一日は双子+なまえの悪戯が炸裂した。授業中、休憩時間なんて関係なしに飛び交う悪戯道具に、ホグワーツ生だけでなく教師もヘトヘトだ。


「フレッド! ジョージ! なまえ!」
「うぎゃっ! ついに来たか…」
「あぁ。つっても遅いくらいか?」
「もうちょっと早いと思ってたもんな」


次なるターゲットを探しに行こうと廊下を歩いていた3人に大きな声をかけたのは、双子の兄であるパーシーだった。監督生を務めるパーシーに咎められない訳がないと予想していたが、もう昼過ぎになった今に来るとは思ってもみなかった。


「もうやめるんだ。みんな迷惑してるぞ」
「今年はそこまで迷惑になるような悪戯はしてないじゃん」
「そーそ。もしかするとパースもして欲しかった?」
「ならパース、トリックオアトリート?」


穏やかな声色でジョージが尋ねれば、パーシーは深い溜め息を吐いてローブのポケットから飴玉を三つ取り出した。毎年の事ながら、パーシーがお菓子を忘れたことなど一度もないのだ。


「チェッ、やっぱりもってたか」
「でも飴って…そんなのずるいよ」
「カンワイイ弟達の遊びに付き合ってくれないのか?」
「だれが可愛い弟達だ。お前達にはそれだけで充分。それよりも、だ! 一体どれだけ人様に迷惑をかけていると思ってるんだ! いい加減にしろ!」
「「あーあーあー!」」


パーシーのお説教に双子は耳を塞いで声を出す。隣にいたなまえは大人しくそのお説教を聞きながら、いつの間にか取り出していた白い玉をパーシーに見えないように杖でふわふわと浮かせていた。
まだまだ、とでも言いたげに声を荒げるパーシーの目は双子しか捉えていない。なまえはチャンスとばかりにその白い玉をパーシーの足元へと追いやった。


「だいたいお前達はいつもっ、……? なんだ、これは…」
「飴玉くれたお礼だよ、パーシー」
「お礼?」


なんの悪意もないような笑顔でそう言ってのけたなまえは、コツン、とその玉を爪先で突いた。するともうお馴染みとなった白い煙がパーシーを包む。なまえはフレッドとジョージのローブを引っ張ってすぐにその場を後にする。


「あっははは! 悪戯かんりょーう!」
「ナイス! なまえ!」
「あれは何だったんだ?」
「ん?」

ハックシュン!!!

「――くしゃみ玉!」


パーシーの大きなくしゃみを聞きながら言うと、2人はゲラゲラと可笑しそうに笑った。


「よりによってそれかよ!」
「今頃パースの奴、くしゃみしまくって涙目なんじゃないか?」
「見たかったねぇ」


周りの目なんて気にせずに笑いながら廊下を歩き、その後も授業を受ける。スリザリンの奴らにはとびっきりの悪戯を用意しておいたが、今日は合同授業が一つもなかったため、それを披露する事が出来なかった。


「あーあ、タイミング悪すぎ」
「まったくだ。もう晩ご飯だぜ」
「最後の大仕事だ、準備はいいか?」


ジョージの問いかけにフレッドとなまえは大きく頷き、大広間へと入る。大多数の生徒はもう悪戯被害にあったらしく、様々な動物姿の生徒達が大勢いた。勿論動物だけではなく、ハリーとロンみたいにひっつきボールでぴったりとくっついた生徒も。


「わあ、こうして見ると今日一日よくやったねぇ」
「確かに」


とりあえず腹ごしらえしようと大人しくご飯を食べ進める。しかし、当然ながら悪戯の準備はやめない。


「どうだ?」
「んー…あと、もう…ちょい……」


テーブルの下で杖を持ったなまえは口にオートミールを含みながら集中して無言呪文をかける。この日のために無言呪文を覚えたなまえは、ここぞとばかりにその力を発揮していた。


「……っし! できた!」
「なら、そろそろ動くか」
「おう!」


急いでオートミールを飲み込み、3人はわざと大きな物音を立てながら立ち上がった。
悪戯仕掛け人の3人が立ち上がった事に周囲の人間はすぐに気づいて警戒心を高めるが、それに構わずフレッドは杖を振って大広間の明かりを消した。


「え、なに!?」
「またあの3人か……」
「今度はなにをするんだ?」


なんて声がひっきりなしに上がる中、なまえが「ルーモス・マキシマ」と呪文を唱える。滑らかな発音で唱えられたそれは、大広間のあちこちに飾られてあるジャック・オー・ランタンだけに明かりが灯った。綺麗なオレンジ色に彩られたそれは何とも幻想的で、それでもって妖しい雰囲気を作り出していた。


ソノーラス


またも拡声呪文を唱えたなまえは、「あ、あ、」と声の出を確かめている。その後双子に頷くと、2人は楽しげに口角をつりあげた。


「本日お集まりの皆様!」
「今夜はハロウィン、皆様に至高の一時をお届け致しましょう」


スポットライトを浴びた2人は恭しく礼をすると、なまえがこっそりと呼び寄せておいた小さなぬいぐるみ達が様々な色光を浴びながらやって来た。可愛らしいぬいぐるみは行進するように歩き、やがて定位置に着く。


「「タラントアレグラ!!」」


双子ならではの息ぴったりさになまえは舌を巻いていると、ぬいぐるみ達はその呪文通りに踊りだした。最初はぬいぐるみ達だけだったのだが、突然そのぬいぐるみに引っ張られて強制参加させられた生徒も続出してきて、今では殆どの生徒がぬいぐるみ達と共に踊っていた。


「ふふふっ、楽しい!」
「うわ、このゆいぐるみステップ踏んでるぞ!スゲー!」
「あらやだ、ボーイフレンドよりも紳士だわ、このぬいぐるみさん」
「このふわふわ具合……さいっこう…!」


生徒達の笑顔になまえ達は顔を見合わせて笑う。そして最後の仕上げ、となまえは天井に向かって杖を振った。
途端に大広間には朝とは比べ物にならないくらいの光の雨が降り注ぐ。その光が人に当たると、当たった生徒は内側から光った。

やがて全員にその光が降り注ぐと、大広間はまるで明かりを灯したように明るくなった。


「うわぁ! すごい!」
「これどうなってんの!?」


そんな驚きの声に満足した3人は、その場で深く一礼する。見ている人も見ていない人もいる中、拡声呪文を解いて自分達の声量だけで言った。


「「「悪戯完了!」」」


今年のハロウィンも、ホグワーツは幸福の笑いに包まれたのだった。







「楽しかったねぇ!」
「スネイプの顔見たか?すんげぇ顔してたぜ!」
「スリザリンの奴らにはちゃーんとクソ爆弾仕掛けておいたしな!」
「なまえも久々に堂々と悪戯出来て良かったな」
「やっぱこの3人がしっくり来るよなぁ」
「…へへ、うん!」


そんな会話をしながら寮に戻ると、まだ引っ付いたままのハリーとロン、それからリス姿のハーマイオニーが待ち構えていた。


「なまえ!」
「あ、ハーマイオニー。やっぱりハーマイオニーはリスさん似合うねぇ」
「そうじゃないわよ! 貴女悪戯仕掛け人だったの!?」
「うん」


何の誤魔化しも無しに頷いたなまえに、ハーマイオニーは頭を抱えた。


「嘘よ…私、貴女はそんな事しないとばかり…」
「そういう反応が見たかったの!」
「随分とその…悪趣味だね」
「ハリーも随分と言うようになったねぇ?」


可笑しそうに笑ったなまえは、フレッドとジョージの間に挟まれながら綺麗に微笑んだ。


「ま、もう隠す必要もなくなったし。これからは私もじゃんじゃん悪戯していくから…覚悟しててね?」


果たして、もう一人増えた悪戯仕掛け人に、ホグワーツ一年生は耐えられるのか。
それはまだ、誰も知らない――。