「御幸」
「小湊先輩? どうしたんすか?」


唐突に名前を呼ばれ顔を上げれば、そこには部活の先輩が。いつも通りにこにことした笑顔を浮かべているのに、なぜだろう、恐怖しかない。しかし先輩をいつまでも待たせるわけにもいかず、御幸は亮介の元へ駆け寄った。


「お前、いつになったら言うわけ?」
「ぐっ……」
「そのヘタレ、いい加減なんとかしてくれる?」
「簡単に言ってくれますね…」


ストレートな言葉の数々に、さすがの御幸もダメージを食らう。しかし亮介がこれだけで終わるはずもなく、さらなるダメージを負わそうと追い打ちをかけるように言葉を続けた。


「今日告白しなかったら、なまえのことはきっぱり諦めてもらうから。」
「は!? え、なんスかそれ!」
「当然でしょ? 俺が大事な妹をそんなヘタレた野郎に譲るように見える?」


ああ、この目は本気だ。
御幸は亮介の目を見て、ぎゅっと拳を握った。


「……俺は、諦めません」
「…へぇ? じゃあ、今日中には言いなよ。言っとくけど「お互い忙しくて〜」みたいな下手な言い訳は無しだから」
「わ、わかってますよ!」
「そ? ならいいけど…。」


ふわりと微笑んだ亮介は、「ああ、そうそう」と壁に背中をつけた。


「どんな理由があろうと、なまえを泣かせたらぶっ飛ばすから。もちろん俺だけじゃないよ、春市もきっと同じこと思ってるから。」


可愛い笑顔でとんでもないことを言った亮介は、最後の最後まで御幸に釘を刺して、戻ってきたなまえと何事もなかったかのように振る舞う。
御幸は唐突にやってきた期限に、焦りを募らせる。
そして亮介も去り、御幸は動いた。思慮深い御幸は、この時だけ考えることをやめたのだ。


「す、す……っ」
「す?」


しかし、いざ本人を目の前にすれば口は噤んでしまう。そこへ、なまえと親しい友人が突然の告白。御幸の頭の中は真っ白だ。湧き上がる嫉妬に、胸がぎゅううっと締め付けられた。


「好きだ」


ああ、やっと、やっと言えた。
ずっと募らせた思いは、


「…わたしも、ずっと好きだったよっ…!」


今こうして、実を実らせた。