ホグワーツ特急

今日はホグワーツに行く日。そのために、まずはホグワーツ特急に乗る時間に間に合うように、朝が弱いフィーも早く起きて支度をして、レイテルと共に姿現しをした。

バシッと姿現し特有の音がしたかと思うと、突然の浮遊間に襲われすぐにキングス・クロス駅に到着した。


「いつもありがとう、レイテル。」
「滅相もございません!これが私のお仕事でございます!」
「ふふっ、そうだったね。……っと、それじゃあもう行かないと。
この子以外のお世話もよろしくね。特に白蛇の“サリン”を。あの子すぐに機嫌悪くしちゃうから。」


そう言って、フィーはゲージの中にいる梟のチェイルを指で一撫ですると、チェイルは煩くない程度にホー、と愛らしく鳴いた。

本当は両方連れてこようかとも思ったが、それではあまりにもみんなの視線を集めてしまいそうだから、手紙を運んでくれるチェイルを連れて行くことにしたのだ。
本当に、サリンには申し訳ない。


「お任せください、フィー様!! このレイテル、責任を持ってお世話させて頂きます!!」
「……ありがとう、レイテル。やっぱり私のしもべ妖精は、後にも先にもレイテルだけだよ。」


最後に休暇には帰るようにするね、と言い、フィーは列車に乗り込んだ。
後ろで啜り泣く声が聞こえたから、一瞬だけ振り返って満面の笑みを見せた。

まだ少し早すぎたのか、コンパートメントは空き室が目立った。
だが、まずは荷物を置く事が先決だ。少し高い位置にある荷物置き場に、背伸びをしながら荷物を置く。

けど、荷物の内の一つが上からポロリと落ちてきてしまい、慌てて拾おうとするもあとちょっとのところで届かない。
落下してくる物は割れ物だったため、落ちた衝撃で音がするだろうと感づき思わず目を瞑るが、いつまで経っても音がしない。
そろそろ、と目を開けると、間一髪で拾ってくれた人がいた。


「ふー、危ねぇ」
「お、相棒やるなぁ」
「まぁな…これ、君の?」


赤毛の双子に驚いていると、フィーの物を拾った方が訪ねてきた。


「あ、はい、私のです。拾って下さってありがとうございました!」
「いーや、どうってことないさ。」
「そーそ、人として当然のことだし?」


飄々とした態度でそう言った二人は、四つの目をフィーに向けてきた。


「で、見慣れない新入生のお嬢さん、お名前は?俺はフレッド・ウィーズリー。」
「俺はジョージ・ウィーズリーだ。見ての通り双子だ、よろしく。」


やはり双子だったのか。
聞き覚えのあるファミリーネームにフィーは自然と頬をほころばせた。
その姿形はそっくりだが、いつだったか…彼らの両親から送られてきた写真をずっと眺めていたせいか、どっちかどっちかがすぐに分かる。
こればっかりはモリーとアーサーのおかげである。


「私はフィー・ディオネルです。今年入学する一年生です。どうぞよろしくお願いします、ウィーズリー先輩!」


すると、二人はぶすっとした顔で大げさに声を荒げた。


「先輩なんてもんはいらねーよ、な、相棒。」
「そうだとも。ここは出逢った証に名前で呼ぶことを許そう。」


改まった言い方にフィーはくすくすと笑ってしまう。こんなお調子者が今年もホグワーツにいるなんて、今からでも楽しくなりそうだ。


「じゃあ、フレッドとジョージって呼ばせてもらうね。」
「「ぜひどうぞ!」」


途端に嬉しげに瞳を細めた二人だが、バツが悪そうに額に手をついた。


「もう少し一緒にいたいが…何せ、俺らは悪戯を企てなければならない」
「………悪戯?」


企てるって……まさか、


「「左様、我らは悪戯仕掛け人でございます。」」
「悪戯仕掛け人……!?」


まさか今もそう呼ばれる人達がいるだなんて思ってもみなかったフィーは、恭しく礼をしたフレッドとジョージに驚く。


「フレッドとジョージは…グリフィンドール?」
「もちろんさ!」
「僕たちは家族みんなグリフィンドールさ!」
「今年弟が入学するんだけど、間違いなくグリフィンドールだ。」


やはり悪戯だなんてことをするのはグリフィンドールぐらいらしい。予想通りのことにフィーはふわふわとする気持ちをそのままに口を開いた。


「あの…私も、入れて欲しい、です」
「「………へ?」」
「だから、その……私も、悪戯仕掛け人の仲間に入れて、ください!」


顔を真っ赤にしながら頼み込む。何の反応もないから、恐る恐る二人を見上げると、彼らは一瞬驚いたものの、ニヤッと口角を上げて微笑んだ。


「フィー、悪戯好きなのか?」
「もっちろん!! むしろ大好きの部類だよ!」
「よしっ、そうと決まれば早く行こう!」


グイッとフレッドに狭い通路の中腕を引かれ、後ろからはジョージが手を握ってついて来た。
どこに行くのかさっぱりわからず、ハテナを頭に浮かべているとある一つのコンパートメントでフレッドが止まった。


「ここが僕たちのコンパートメントさ!」
「あともう一人、仕掛け人ではないけど一緒に連んでる奴がいる」
「「さ、行こうか!」」


フレッドがコンパートメントの入り口を開けてくれて、そろっと中に入る。すると、中にいたのは勿論とでも言うべきか、男の子だった。
ドレッドヘアーの男の子は、双子を見るとニカッと歯をみせて笑った。


「遅かったじゃねーか、フレッド、ジョージ」
「そう言うなよリー。ほら、フィーこっちに座って」


リー、と呼ばれた男の子を適当にあしらい、ジョージは私を窓側の方に座らせた。そして私の隣に座る。フレッドは何故かジョージを睨みながらも、リーという男の子の隣に座った。


「その子は?」
「僕らの新しい仲間さ!」
「三人目の悪戯仕掛け人だ!」
「へ〜、物好きがいるもんだな。俺はリー・ジョーダン、よろしくな」
「フィー・ディオネルです。どうぞよろしくお願いします」
「あー、敬語とか止めてくれよな。俺そういうのどうも慣れないんだよな」
「ふふ、わかったよ、リー」


互いにニコリと笑い、改めてよろしくと握手を交わした。


「そういやリー、あれは?」
「捕まえたんだろ!? 早く見せろって!」
「あぁ、捕まえたけど……フィーは大丈夫なのか?」
「私?」


どうして私なんだろう。それでも双子はリーが何を言っているのかわかったみたいで、突然オロオロし始めた。


「本当だ、フィーどうしよう!」
「僕たちは見たい、だけどフィーを一人にするわけにもいかない!」
「「どうしよう!!」」
「………ね、何が?」


とうとう気になって聞いてみたら、双子はビクッと飛び上がった。…そんなにビックリする?


「……フィーは生き物、ていうかクモ、嫌い?」
「クモ?」
「リーがでっかいタランチュラを捕まえたんだけど、フィー、」
「タランチュラ!? 見たい見たい!見せて!」


フレッドの言葉に私は身を乗り出す。それに三人とも驚いて、私を凝視した。


「………?なに?」
「……怖くないの?」
「何を言ってるのジョージ!私、生き物は大好きだよ!!」


特に梟と蛇が!って答えると、またもや目を丸くして驚いた。
やっぱり蛇と答えたのがいけなかったんだろうか、と思っているとジョージが恐る恐る口を開いた。


「僕たちの見分け……つくの?」
「ほ?僕たちって……フレッドとジョージの?」
「「うん…」」


そんなの当たり前じゃない、という意味を込めてニッコリと頷いた。


「まあ…見分ける、っていう言い方は違うかな?」
「……?」
「どういう意味?」
「(ずっと写真を見てたから…なーんて言えない…。)まあまあ、とにかく合ってるならよかった!」


はいおしまい、と曖昧にごまかしてリーに「タランチュラ見せて!」とせがんだ。
だけど、圧迫感が私を襲った。
…そう、フレッドとジョージがまた抱きしめてきたからだ。


「「やっぱり君は最高だよ!」」
「……?うん、ありがとう?」


訳がわからなかったけど、とりあえず誤魔化した件に関しては気づいてないらしい。礼を言うとやっと離れてくれて、その後漸くタランチュラにお目にかかることができたのだった。

そうしていると車内販売がコンパートメントにやって来て、私は蛙チョコレートを五箱購入した。
それを見ていた三人はとっても驚いた顔をして、積み重なった蛙チョコを見つめている。


「そんなに食べるのか?」
「やだなぁリー、何を言ってるの?」


ふふっと笑うと、安心したように強張っていた顔を少し緩めた。
……それもほんの束の間、


「これは私の一日分のお菓子!家でケーキ食べてくるの忘れたから、甘味補給しないとね」


ペリペリ、とお菓子の袋をめくって、蛙が飛び出さないように素早く口の中へ放り込む。そんな私を見て、やっと気がついたみたいで、三人共様々な反応を見せてくれた。


「そんなに食べるのか!?」
「それは食べすぎだろ……」
「見てるこっちの胃がムカつきそうだ」


…食べ過ぎじゃないし。やっぱりこれを共感してくれるのはあの人だけかな、なんて思ったのは内緒だ。
一箱目を食べ終えた所で、いきなりコンパートメントのドアが開いた。反射的にそちらを見ると、栗色の髪の毛がフサフサしていて、少し前歯が大きい女の子が立っていた。


「誰かヒキガエルを見なかった?ネビルのがいなくなったの」


その言葉に私たちは顔を見合わせるも、勿論誰も知らない。心苦しくも首をふるふると横に振った。


「ごめんなさい、見てないわ」
「…ふぅ、……そう。ありがとう」


女の子はまたか、と少し疲れたような表情を見せた後、髪を翻して出て行った。


「今の子も新入生だね……というか大変そう。疲れてた」
「あー、けど友達の為になかなかいないヒキガエルを探してやるなんて普通出来ないぞ」
「ね。…あの子、きっとグリフィンドールだね」
「だな!」


ニッ、とフレッドが笑い、その後はまた他愛もない話で盛り上がったり、悪戯の話に真剣に話し合ったりしていた。

話の区切りがついたところで、フレッドとジョージが思い出したようにポンッと手を叩いた。そんな二人に、私とリーは首を傾げて先を促す。


「「この列車にあのハリー・ポッターがいたんだ!」」
「ハリー・ポッター!?」
「(ハリー、無事に来れたんだ…良かった…。)へぇ…ごめん、私ちょっと席外すね」


カタンと席を立つと、フレッドとジョージは少しムスッとした顔を向けてきた。リーはそれを見て、声を押し殺しながら笑っている。
私はそれを疑問に思いながらも、また後で帰ってくるから!と安心させるように言ってからコンパートメントを出た。


「ハリーがいるんだ……」


夢にまで見た、あの二人の大事な子ども。
『ハリー』という名の重み。
それらを背負って彼は…ハリーは生きていかなければならない。その重みに、いつか彼は倒れてしまわないか。

少しの不安を抱えていると、前方にプラチナブロンドの髪を見つけた。ジッと見つめると、あるコンパートメントの入り口で話しているようだ。
彼はあのアブやルシウスの血族。何を言い出すかたまったもんじゃない、と内心溜め息を吐いて近寄った。


「ウィーズリー家やハグリッドみたいな下等な連中と一緒にいると、君も同類になるだろうよ」
「…Mr.マルフォイ、お久しぶりです」


先程の言葉にカチンときたけれども、そこは我慢。私は目上の人に話しかけるように声をかけた。


「フィー……!」
「まさか、この列車でお会いできるとは思いませんでした」


ふふ、と微笑むと、彼の白かった頬に少し赤が映えてきた。


「やあ、君を捜していたんだけどなかなか見つからなくてね」
「そうだったんですか?それは申し訳ございませんでした」
「いや、いいんだ。それより……その喋り方はやめてくれ」
「ですが無礼では……」
「君にならいいよ」
「……じゃあ、改めてよろしく。ドラコ」


話し方を変えると、気をよくしたのかドラコは笑みを浮かべながら帰って行った。


「き、君……」
「おっと…ハリー、久しぶり。会えて良かったよ。それと、あなたは……」
「あ、あ…僕、ロナルド・ウィーズリーって言うんだ」
「ウィーズリー……?もしかして、あなたがフレッドとジョージの弟?」
「え、うん…って何であの二人を知ってるの!?」
「ふふ、さっき仲良くなって、今同じコンパートメントにいるんだ」


それに驚いたロン(本人がそう呼んでくれと頼んだ)は固まった。


「ハリー、会いたかったよ」
「あの……僕もだよ」
「ほんと?良かった…。それと……これ、あの時言ってたプレゼント!」


ずっとポケットに忍ばせておいたハリーへのプレゼントを渡すと、とても喜んで受け取ってくれた。


「これは……?」
「小物入れ。これからきっと何かと小物がゴチャゴチャしてくると思うから、適当にその中にポイポイ入れると、勝手に中で整理されるの。かっこいい物とかじゃなくてごめんね」
「ううん!すごく嬉しい!ありがとうフィー!」
「ん、どうしたしまして。っと、じゃあ私戻るね。そろそろ着替えなくちゃいけないし。フレッドとジョージとリーを待たせてるから」


またホグワーツでね、と残し、ハリー達のコンパートメントを出て行く。その後、フレッド達のコンパートメントに戻り、手早く着替えた。