ダイアゴン横丁2

「さて、次は……っと、」


店の絵でキョロキョロと辺りを見渡すと、トンッと軽く誰かにぶつかった。やはりホグワーツからの手紙が届き、必要物を揃えるためにたくさんの人が来ているのか、今日はぶつかるのが多い。フィーはすぐに慌てて謝った。


「ごめんなさい!私の前方不注意で…。」
「全くだ、気をつけろ……って、き、君は……?」
「あ、私はフィー・ディオネルと申します。今年ホグワーツに入学するんです。……失礼ですが、貴方は?」


ガッチリと固められたプラチナブロンドの髪に、薄いグレーの瞳。肌の色は少し青白い。
そんな姿が、フィーはある男に似てると思った。


「僕はドラコ、ドラコ・マルフォイだ。」

「(やっぱり…マルフォイ家か。)これはとんだ失礼を致しました。申し訳ございません。」


片足を下げ、スッと慣れた作法で礼をすると、「別にいい、頭を上げろ。」と言われる。慣れたような言い方にフィーも素直に頭を上げた。
あらためて目の前の男の子を見つめると、やはりというべきか、父親によく似ている。


「貴方も今年ホグワーツに入学?」
「ドラコでかまわない。それと、僕も今年入学する、」
「ドラコ、何をしている。」


ドラコの言葉を遮ったのは、まさしくドラコをそっくりそのまま大人にしたかのような男――ルシウス・マルフォイだった。


「ち、父上!」
「まったく、無駄話は後にしろ。…ん?君は……、っ!」
「ドラコのお父様?初めまして、フィー・ディオネルと申します。」


ドラコにしたように礼をする。顔を上げる。そこには思っていた通り、とても驚いているフィーの旧友――ルシウスがいた。
「(知らないフリをして。)」と目で訴えると、一つ瞬きしたルシウスはフィーから目を離しドラコを見た。


「ナルシッサが待っている、早く行くぞ。」
「は、はい!」


急いでいても綺麗な足並みで去って行く二人の後ろ姿を見送っていると、不意にルシウスが振り返り、フィーをグレーの瞳に映した。


「また君に会えて良かった。」


音もなくそう言って綺麗に微笑むと、また前を向いて歩いていく。
フィーは最後までその姿が見えなくなるまで、動くことが出来ずにいた。


「……相変わらず、キザな人なんだから。」


変わらない友を見て安心したからか、フィーは眉を下げて笑んだ。


「そういえば…もう買う物ってない、よね?手紙を送るのに必要な梟はもういるし、自分の杖もある。
うんっ、買い物終了!」


さっきまで悩んでいたのが嘘みたいに即決したフィーは家に帰ろうと踵を返すと、前方に本日二度目であるハグリッドを見つけた。
やはりあの図体は、この人混みだとより目立つ。


「ハーグリッド、さっきぶり。」
「フィー!よく会うな!」
「まあ…ハグリッドはすぐ見つけられるから!」
「それはお前さん……仕方ねぇよ。あ、フィー!ハリーだぞ!」


グイッとハグリッドは、隣にいた男の子をフィーの方へ力強く押す。すると、どこかおずおずとした態度でフィーを見た『ハリー』。
フィーが最後に見た数年前よりかは背が伸びたものの、顔つきはやはり全然変わってなかった。
いや、むしろ彼の父親そっくりだ…――。


「あのー……、」

「あっ、ご、ごめんなさい!っと…私はフィー。フィー・ディオネルです。貴方は…、」
「あ、僕、僕ハリー・ポッター!」


「あなたは?」と聞いたとき、驚いたような、でも嬉しそうなハリーを見て、やっぱり魔法界の人はみんな知ってるから、今日ここに来たハリーとしては息苦しかったんだろう。
それだけ魔法界から闇の帝王を退けた『ハリー・ポッター』という存在は、大きいのだ。


「ハリーね!…ねえ、ハリーも今年ホグワーツに入学するんでしょう?」
「あ、うん。でも…僕、魔法とか全然わかんなくて……」
「そんなのまだ何も習ってないんだから当たり前だよ。それに…マグル生まれの子もいるんだから、大丈夫!」


これからだよ、とフィーが笑って言えば、ハリーもやっと穏やかな表情になった。どうやら不安だったようだ。


「あれ、それハリーの梟?」
「あ、うん。さっきハグリッドが買ってくれたんだ」
「へぇー、ハグリッドが……。もしかしてハリー……誕生日、とか?」
「! どうしてわかったの!?」
「え、やー…プレゼントだからそーなのかなぁと思って……って、どうしよう!誕生日プレゼント!」


今からじゃあ間に合わない…。ああもう!どうしてハリーの誕生日を覚えてなかったんだろう!
フィーが頭を抱えていると、ハリーが戸惑いながら話しかけた。


「僕、別に気にしてないよ!それに今日知り合ったばかりなんだから、用意してなくて当たり前だし!」
「出会った時間は関係ないの!あー…今度、今度渡すから!それまで待ってて!」


フィーの気迫にハリーは戸惑いながらもコクンと頷いた。気圧されたという方が正しいのかもしれない。


「よし、そうと決まれば早速探しに行こっと!じゃあね、ハグリッド、ハリー。またホグワーツで!」
「おう、またなフィー。」
「うん、また会おうね!」


眩い笑顔を焼き付けながら手を振り、フィーはハリー達と別れた。
その後、漏れ鍋に行く途中に素敵なショップを見つけ、シルバーの小物入れを買った。これなら何でも入れれるだろう、なんて自分の物差しだけれど。
…喜んでくれるといいなあ。

そうこうしていると、もう空は茜色に染まっていた。煌々と輝く夕陽に目を細めていると、漸く漏れ鍋に到着した。


「どーも!」
「ん?……フィーじゃないか!久しぶりだなぁ!」
「そうだねぇ、っと、…ゆっくり話したいんだけど、私忙しいから…また今度、飲みながら話そう!」
「そうか…仕方ないな。ならとびっきり美味い酒を用意しておこう!」
「本当!?ありがとう!」


漏れ鍋の店主であるトムと別れて暖炉の前に立ち、家の暖炉とこのパブの暖炉のネットワークを繋げる。できた、と側に置いてあった煙突飛行粉を手に取り、深呼吸した。


「着地失敗しませんように……!」


祈りをポツリと呟いてから、暖炉に向かって煙突飛行粉を投げ入れた。


「ディオネル邸!」


目的地を口にすると、世界が反転したかのようにグルグルと回り、フィーの姿が漏れ鍋から消えた。