梟便

ミーン、ミーンと蝉の鳴き声がする朝。フィーは窓からコンコン、という何かに突つかれる音で目が覚めた。

タオルケットに身を包んでいたからか、露出された肌はジトリと汗をかいている。それにほんの少しの不快感を抱いた後、ベッドから降りて窓へ足を進めた。
すると、そこにいたのは普通では考えられないであろう動物……―――梟だった。


「あ、アルバスからの手紙……ふふ、久しぶりだなぁ。ホグワーツの梟を見るのも久々だし……遠い所までありがとう、梟さん」


魔法界では有名な学校、“ホグワーツ魔法魔術学校”で校長を務めている昔からの旧友、アルバス・ダンブルドアからの手紙で舞い上がる。
届けてくれた梟にお礼を言い、頭を優しく撫でたのが嬉しかったのか、指をかみかみと甘噛みしてくる。そんな梟にくすりと笑いながら、フィーは手紙を開いた。


《Dear フィー
久しぶりじゃのう、フィー。さて、早速で済まないが本題に入ろう。時間がないのじゃよ。
今年、ハリー・ポッターがホグワーツに入学するんじゃ。それで、フィーにもぜひ入学してほしい。
陰ながらハリーを守ってほしいんじゃ。
いきなりこんな勝手な事を言ってすまんの。じゃが、フィーも久しぶりにホグワーツの地を踏んでみてはどうじゃ?

良い返事を期待しておるぞ。
From アルバス・ダンブルドア》



アルバスからの手紙を読み終えたと同時に、文中に出てきた“ハリー”という文字に指を滑らす。最後に見たのはまだ赤ちゃんの頃だっけ、とフィーは思いを走らせた。
「(今までマグルの世界で暮らしていたから、いきなり魔法なんて言われても全然実感湧いてないだろうな…)」と思いながらフィーはペンを取った。


「えー…っと、確かここら辺にレターセットがあったはず……、」


引き出しをガサゴソと探して、やっとお目当てのレターセットを見つけた。
レターセットもペンも、両方ともマグル製品だ。これが使い易いのなんの。もうこれを使ってしまえば、羽ペンや羊皮紙なんて使いにくいの何者でもなくなってしまった。
それに、マグル製品大好きなアルバスも、これで書いた方が喜ぶでしょう、とフィーはアルバスの喜ぶ顔を思い浮かべながら文字を綴っていった。


《Dear アルバス
久しぶりのお手紙、ありがとう。とっても嬉しかったよ。
入学の件なんだけど、勿論OKだよ。ハリーも、もうそんな歳なんだねえ…。なんだか月日が経つのって早いよ。
ジェームズとリリーはまだ目が覚めない?何かあったら絶対知らせてね…と言ってももうすぐそっちに行くけどね。
アルバスもあまり無理しないように。あと、入学許可証をお願いします。
From フィー

P.S.ミネルバやセブルス、それからクィリナス達にもよろしく伝えておいて下さい。》



「ふぅ……書けたっと。あ、最後に“これはマグルの“クロペン”と呼ばれる物で書いたんだよ”…っと。これは絶対書かないと!」


すべてを書き終え、ガタッとイスから立ち上がりずっと待ってくれてた梟の足に手紙を括り付ける。
ちゃんと躾されてるのか、終わるまでジッとしてる梟に、いい子いい子と頭を撫でてあげた。それにもっと気を良くしたのか、ホー、と一鳴きした後、バサリと音を立てながら飛び去っていった。

その姿を最後まで見届け、フィーは「レイテル、」と広い部屋で呼びかけた。


「おはようございます、フィー様!本日のご朝食は何に致しましょう?」


バシッという音と共に部屋に現れたのは、ロイナール家、所謂フィーに仕える屋敷しもべ妖精。名はレイテル。
レイテルは他の屋敷しもべと違って大人しく、頭をぶつけたりだとか大泣きだとかはしないのだ。


「そうだなぁ……フレンチトーストをお願いできる?」
「かしこまりました。お飲み物は如何致しましょう?」
「いつも通りミルクティーで。茶葉は任せるね」
「かしこまりました。ご用意が出来次第お呼び致します!」
「はーい、ありがとう」
「いえ、フィー様の為ですので!」


最後にぺこり、ときっちり90度の礼をしてから(とてもきれかった)、またバシッと音を立てて消えた。
数分後、レイテルの作った朝ご飯を食べながら予言者新聞を読む。あまりこれといって事件はない。ここ一番の出来事といえば、ハリーが生き残ったことかなあ、などと思っていると、先程と同じ梟がフィーの肩にちょこんと止まった。


「もう?早いなぁアルバス。暇なのかな…いやいや、忙しいって言ってたし…」


独り言をポツポツ言いながら手紙を開くと、中には入学許可証と便箋が入っていた。
書かれていたのは「さすがはフィーじゃ!」とか「持つべきものはフィーじゃのう」だとか「マグルのペンじゃと?また今度持ってきてくれんか?」とかくだらないことばかりだった。


「はぁぁ……何してんのよアルバスは…」


なんて悪態をつくが、アルバスが喜んでくれたのだと思うとやっぱり引き受けてよかったなとか、今度いろんな色のマグルのペンを持って行こうと思う私も、相当おかしいのかもしれない。


「ありがとね、梟さん。疲れたでしょう? すぐに梟用の飲み物、レイテルに用意してもらうね」


再び「レイテル、」と呼ぶと「かしこまりました!」と言い、すぐに用意してくれた。


「さすがレイテルだねぇ」
「勿体無いお言葉です!」


飲み物を飲み終えると、またホー…と鳴く。それはまるでお礼を言ってるみたいだった。


「さて、梟さんもいなくなったし……リストは…、」


パサリと紙を広げるとズラリと並んだ文字。うわ、多いな…と苦笑しながらカレンダーを見やる。
予定は……8月31日が空いてるかな。よし、この日に行こうと決め、31と書かれた数字をグルグルと丸でを囲んだ。


「レイテル、私は今から暫く書斎に籠もるから、何かあったら呼んでね」
「かしこまりました!」


レイテルの返事を聞き、私は溜まっている仕事を片付けるため、書斎へと向かった。

31日まで、あと一週間……―――。