フローリシュ・アンド・ブロッツ書店

結界も張り終わり、漸くゆったりとした日常が戻ってきた。レイテルもあれから涙を流すことはなく、今まで通りの給仕に勤しんでいる。もちろん、ヴォルデモートも動きを見せてはいない。


「んーっ…。今日はダイアゴン横丁に行ってこようかな。リストも届いたことだし。」
「では、煙突飛行粉フルーパウダーをご用意して参ります!」


フィーのボソッとした言葉にさえ過敏に反応し、煙突飛行粉を素早く持ってきてくれた。正直これで行くのは嫌なのだが、姿現しで行くと目立つ危険性があるため仕方なく、だ。


「無事着地できますように…。」


そう祈りながらフィーはキラキラ光る粉を一つまみ取り出すと、暖炉の火に近づいて炎に粉を振りかけた。すると、ゴーッという音とともに暖炉の炎はエメラルド・グリーンに変わり、普通の炎の背丈を軽く超えて燃え上がる。


「よし、じゃあ行ってくるね、レイテル。」
「行ってらっしゃいませ、フィー様!」


レイテルの声に見送られ、フィーは声高に叫んだ。


「ダイアっくしゅん!…ゴン、横丁……。」


まさかここでくしゃみをしてしまうとは思ってもみなかったし、何より自分の不甲斐なさに最後の声は消えかけだった。
目をぎゅっと閉じて、頭が回るのを防ごうとするがあまり意味もなく、急激な吐き気に追われながらもフィーは必死に耐える。


「(ダイアゴン横丁には着かないな…。)」


どこか他人事のように思った瞬間、フィーはズベッとうつ伏せになって地面へと放り出された。手をつくことすらままならず、フィーは顔面から地面に着地したのだった。


「うぶっ!…………つらい…。」


顔が地面にこすれ、しかも身体中煤まみれだ。フィーは哀しさと虚しさを抱えながら、自分の身体能力の無さを改めて再確認したところで、ここは一体何処なのかと辺りを見渡した。


「……ノクターン横丁、か。」


また面倒なところに出てきちゃった、とフィーはパンパンと煤を払いながらフードを深く被る。ここにいる連中に顔を見られては厄介になるからだ。

だんだんと人が集まってきた。物珍しさからか、それとも獲物を見つけたハイエナのように捕らえようとしているのか、少なくともこんな場所にいる奴らがまともな考えを持っているはずがない。


「お嬢ちゃん、さっき顔をぶつけていたねぇ?痛かったろう?どれ、見せてみなさいな。」
「いえ、大したことありませんから。」
「そう言わずに。ほれ、皆お嬢ちゃんのことが心配なようだよ?」
「だから、そんな心配はいりません。」


断っても断ってもしつこく声をかけてくる老人に、こうなったら無理やりにでも出て行こうとした瞬間、後ろからぐいっと腕を引かれた。


「何をしているのですかな?」


よく通る声、それでもってとても懐かしい声だった。ぐっと肩を寄せられ思わず顔を上げて見てみると、思い描いていた通りの人の顔があった。


「こ、これはこれはマルフォイ様!奇遇ですねぇ。」
「そのようなことを言っているのではない。私は『何をしている』と聞いているんだが。」
「い、いえいえ!そ、その娘が煙突飛行でやって来まして、上手く着地が出来ていなかったものですから心配で…。」


どうしてありのままを言っちゃうかな、この老人は!

フィーは羞恥と怒りで顔を赤くし、ふるふると震える。それとは反対に、ルシウスは笑いを堪えるかのように震えていた。


「…、っ、…そ、そうか。ならばこの娘は私が面倒を見よう。」
「か、閣下自らとは…!では、私はこれで失礼致します…!」


足早に去った老人の姿が漸く見えなくなった。と思ったら、ルシウスはもう我慢出来ないとでもいうように吹き出した。


「クククッ…ハッハッハッ!まだ着地が上手く出来ないのか、フィーは…。」
「う、うるさいな!笑うな!しょうがないでしょ?頭回るし目は瞑ってるし、気付いたら地面なんだもん!」
「ックク…相変わらずだな。」
「…君もね、ルシウス。」


いや、少しおでこが出ちゃってるぐらいかな?茶目っ気たっぷりにそう言うと、ルシウスはフィーの髪を強引に乱した。紳士でまかり通っているルシウスだが、フィーに対してはこんなことをしてくるのだ。


「どうしてここに?」
「それは私の台詞だ。なぜノクターンにいる?」
「……言ったらまた笑うから言わない。」
「ほう……。大方煙突飛行に失敗したとかか?」
「うぐ……。」
「クス…図星のようだな。」


また楽しそうに笑うから、もうフィーも怒る気力なんて無くなり、早くノクターンから出ようと歩き出した。そんなフィーに着いてくるルシウスに、もう一度尋ねてみる。


「で、どうしてここに?」
「ドラコの買い物だ。ノクターンにはついでだ。」
「ついでにノクターンって……。で、その肝心のドラコは?」
「つい先ほどダイアゴン横丁に行ったのだが、私がノクターンの用事をまた思い出してな、私だけ引き返してきたんだ。ドラコは先に買い物をしているだろう。」
「ほー…なるほど。」


ポケットからリストを取り出してそれを眺めながら返事をする。どうやらノクターンに来たのは今日で2回目らしい。絶対ろくなことしてない。

一緒に歩いていると、ダイアゴン横丁に到着した。付近の店の近くではドラコがウィンドウに飾られてある品々を見ながら、あっちへこっちへと目移りしている。ルシウスはそんな自分の息子を見て、溜め息にも似た息を吐き出した。


「……何をやっているんだ、あれは。」
「楽しんでるようで何よりじゃんか。ルシウスも二年生の時は目をキラキラさせて、いろーんな所を見て回ってたじゃない。」
「わっ、私はそのような事はしていない!」
「えー?してたよ?」


ニヤニヤと笑いながらルシウスを見上げると、彼は色白の顔を赤くして更に語尾を強めて否定する。そんなところも可愛いんだから!と言うと、少し不機嫌そうな表情をしたのでまた笑ってしまった。


「ドラコ、」
「っ、フィー?と、ち、父上!? なぜ二人が……、」
「偶然会っただけだ。それよりも買い物は済んだのか?」
「あとは教科書だけです。」
「そうか…ならば早く行くぞ。ミス・ディオネル、君はどうする?」
「私は……、」


リストを取り出して中を読むと、ずらっと並ぶ“ギルデロイ・ロックハート”の文字。いつだったか書店でこの著者の本を見たことがあったが、なんとも内容の割には分厚かったことを思い出した。


「私は他のものを揃えてから書店に行きます。またお会いできたら、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。では、我々は失礼する。」


格式ばったような話し方で別れ、ドラコに手を振る。ドラコもちらっと父親を見てから小さく手を振り返してくれた。
やがて人混みで見えなくなった二人から、また羊皮紙で書かれたリストを見る。七冊も同じ著者の教科書があるなんて思いもよらなかった(事前に家でリストを読んでいなかった)ため、少し憂鬱な気分だ。ましてや内容もろくなものじゃなく、こんな物にお金をかけるぐらいなら高級な茶葉を買って帰った方がよっぽど有意義だ!とフィーはリストをぐしゃりと潰す。


「…“基本呪文集(二学年用)”はもうあるし、…やっぱりこのロックハートって人のを買いに行かなきゃいけないかしら…。とりあえず、羊皮紙とインクを買いに行こう。あとは……新しい羽ペンも欲しいな…。ついでに大鍋も新調しておこうかな?使いすぎて溶けちゃったから、予備がなくなっちゃったんだよねぇ…。」


ぶつぶつと独り言を言いながら、長年愛用している店へと向かう。羊皮紙はなるべく書きやすそうでインクが滲まないものを選び、インクはいつも使っているものを、羽ペンは羽の部分が派手じゃなく、かつペン先が尖っているものを慎重に選んだ。
大鍋も同じように、あれやこれやと見比べながら見ていく。大鍋一つで、魔法薬の仕上がりが違うと言っても過言ではないため、こちらも慎重に選ばなければならない。

漸く満足のいくものが買えてフィーはにんまりと頬を綻ばせながら書店へと向かったのだった。が、後々になってフィーは思う。

――書店なんかに行かなければよかった、と。

すべての教科書が揃う、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店。勿論揃うのは教科書だけではなく、世界の様々な本がこの書店に集まるのだ。フィーも何度も世話になったことがあり、ここの店長も何人も代替わりをしたがその誰もがフィーと仲が良い。
久しぶりに書店に行くなあ、と思いながら歩いていくが、書店に近づくにつれて段々と人が多くなっていることに気づく。今日は何かイベントがあるの?フィーはふと思いながらやっとのことで書店に着くと、店の上階の窓に大きな横断幕が掛かっているのが目に入る。
そこに書かれてある文字を読んで、フィーはげんなりとした表情を浮かべた。


サイン会
ギルデロイ・ロックハート
自伝「私はマジックだ」
本日午後12:30〜4:30



「嘘でしょ…。あんな物語ストーリー性のある本を教科書に指定するくらいの人物だもの……一癖も二癖もある奴に違いないって…。」


時間的にはどうやら始まっている頃らしい。だからこんなに人が多いのか、と思いながら中を覗くと、何故かハリーがロックハートと思われる人物と握手を交わしていた。周りはカメラマンで溢れていて、シャッター音も仕切りなしに聞こえてくる。更に目を疑ったのは、あのモリーとハーマイオニーがサインの列に並んでいる光景だ。


「う、嘘だ……!モリーとハーマイオニーが、そんな…!」


軽くショックを受けていると、先ほど別れたドラコの声が耳に入り込んできた。それは父親とフィーに対する、嘘偽りのない声ではなく、ハリー達に対しての嫌味ったらしい声色だった。
自分の位置からハリー達のところまではあまり遠くないが、何だか面倒そうなのは目に見えている。もうこのままロックハートの本なんて買わずにさっさと帰ろうかと悩んでいると、今度はルシウスの声が聞こえてきた。流石のフィーもマルフォイ家とウィーズリー家との間にある確執は知っているため、このまま見て見ぬ振りも出来ないと、重い足取りで人の合間を縫って近づいた。


「お役所は忙しいらしいですな。あれだけ何回も抜き打ち調査を……残業代は当然払ってもらっているのでしょうな?」


薄ら笑いを浮かべたルシウスはジニーの大鍋に手を突っ込み、やけに豪華に仕上がっているロックハートの本の中から、使い古した擦り切れの本を一冊引っ張り出した。それは一年生が使う「変身術入門」だった。


「どうもそうではないらしい。なんと、役所が満足に給料も支払わないのでは、わざわざ魔法使いの面汚しになる甲斐がないですねぇ?」


そんなルシウスの容赦の欠片もない言葉に、アーサーは顔を真っ赤にさせた。もう我慢ならないらしい。


「マルフォイ、魔法使いの面汚しがどういう意味かについて、私たちは意見が違うようだが。」
「さようですな。」


ルシウスの目がゆったりと辺りを見渡し、やがてはなりゆきを見守っていたグレンジャー夫妻の方に移った。夫妻を目にした瞬間、ルシウスはさも嫌そうな、汚らわしそうな顔を隠しもせずに目を逸らす。


「ウィーズリー、こんな連中と付き合ってるようでは……君の家族はもう落ちるところまで落ちたと思っていたんですがねぇ――。」


瞬間、ジニーの大鍋が宙を飛び、ドサッと金属の落ちる音がした――アーサーがルシウスに跳びかかり、その背中を本棚に叩きつけたのだ。分厚い呪文の本が数十冊、みんなの頭にドサドサと落ちてきた。


「やっつけろ、パパ!」


双子のどちらかが叫んだが、その反対にモリーが悲鳴をあげた。フィーは静かに一歩を踏み出し、パンパン!と手を叩く。その音は小さかったはずなのに、みんなの耳には何故か自然と入り込んできた。掴み合っていたアーサーとルシウスはそのままの状態で固まり、恐々とした様子でフィーを見つめる。


「そこまでにして下さいな、御二方とも。ここはどこで、貴方方は誰ですか?書店にも迷惑ですし、何より貴方方はいい大人です。みっともない喧嘩をするくらいならここに来ないで下さい。」


敬語で話すフィー。それが何故だか途轍もなく恐ろしい。アーサーとルシウスはやんわりと互いの胸倉から手を放し、杖を振ってみせた。するとたくさん落ちていた本がふわりと浮き上がり、元のあった位置へと戻っていく。その様子を満足気に眺めるフィーは、思いついたようにルシウスへ話しかけた。


「そうだ、ルシウス。」


慣れ親しんだその呼び方に、息子のドラコだけでなくハリー達も驚く。ハリー達は最初誰のことを呼んでいるのか分からなかったが、ドラコの驚きようにそれがマルフォイ氏だと気付いたのだろう。
そんな子どもたちの驚きようなど露ほども気にしていないフィーは、ルシウスに背を向けたまま言葉を紡いだ。


「さっき、使い古された本を見て、『給料も満足に支払われていない』だとか『魔法使いの面汚し』だとか好き勝手言ってたけど――、私だって、教科書はずっと使っているものだし、マグルの世界にもよく行くわ。そんな私のことも、貴方は『魔法使いの面汚し』って言うんだよね?」


誰が気を利かしたのか、ハリー達もには声が聞こえていないようだ。恐らく書店の店長だろう、フィーの気持ちを知っている店長だからこその思いやりにフィーは感謝した。
だから思いっきり言えるそれを口にすれば、ルシウスは顔を真っ青にさせながら弁解する。


「ち、違うんだ。これは、その、」
「もういい。私は帰るから、あとは好きにしたら。手紙も送ってこないで。」


店長に礼をし、みんなに別れの挨拶をしたフィーはさっさと帰ろうと漏れ鍋へ向かう。だが、後ろからクンッとローブの裾を引っ張られてそれもあえなく失敗した。
引っ張ってきたのは双子のウィーズリーズだった。フレッドとジョージは逃がさないとばかりに目を光らせ、ぎゅうぎゅうとフィーを閉じ込める。


「ふ、フレッド、ジョージ?」
「「やっと会えたのにもう帰っちまうのかよ!?」」


シンクロ口調で残念そうに言う二人に、フィーはうっと狼狽える。この休暇中、二人から来た手紙は山程あったが、そのどれにも『遊びに来て欲しい』『泊まりに来て欲しい』といった類が書かれてあったのだ。だがフィーはそれには応じれず、ただただ手紙の返事を書いて送っていた。


「あー、えっと、」


この可愛さに負けそうになっていたフィーだが、名案と言わんばかり二人に向き直る。


「それなら、今から私の家においでよ!家を空けることは出来ないけど、フレッドとジョージが来るなら大歓迎だよ。」
「「!!」」


思ってもみなかったお誘いに、フレッドとジョージはパァァ!と顔を輝かせて頷いた。するとそれを聞いていたロンやハーマイオニー、ハリー達も泊まりたいと言い出した。


「ご両親の許可があったらいいけど…ハリーは今はロンの家に泊まってるんだったよね?ならいいんじゃないかな?ハーマイオニーは……、」
「許可ならもらったわ!」
「ん。ならオッケー!」


着々と増えてゆくお泊まり希望者に、双子はブスッと不機嫌な顔をした。けれどフィーの家は初めてなのでウキウキした気分はそのままなようだ。


「じゃあ、ちょっと待っててね。」


みんなを置いて向かうのは、アーサー達のところ。アーサー達はフィーに気づいて手を振る。


「いきなりこんなことになっちゃってごめんなさい。子どもたちを預かっても大丈夫?」
「フィーなら安心して預けられるさ!ね、モリー?」
「そうね、貴方なら安心だわ。特にフレッドとジョージは落ち着きがないけれど、よろしくね。」
「任せて!」


そのあとはグレンジャー夫妻にも挨拶をして、漏れ鍋へと向かった。ハリー達の足取りは軽やかで、それだけで楽しみなのが目に見えて分かる。道草をしながら漏れ鍋に着くと、トムが笑顔で出迎えてくれた。


「今日は大所帯だな、フィー?」
「ふふ、いいでしょ?」
「全く、羨ましいことだ!ところで聞いたぞ?ここに来るとき、煙突飛行で失敗してノクターンに出ちまったこと!」
「え!? フィーもノクターンに出たの!?」
「(恥ずかしいことをこの子達の前で言わなくたっていいじゃない!トムの馬鹿!………って、) わたし……『も』?」


詳しく聞こうとしたが、このままだと増えていくお客さんの邪魔になりかねない、と早々に家へ帰ることに。
暖炉の前に行くと、フィーは杖を持って呪文を唱える。家から出て行く分には支障がないのだが、外から家に帰るとなると結界が邪魔をして家には入れないようになっているのだ。
フィーが杖を使っている事は誰も知らない。トムが上手い具合に誤魔化してくれているのだ。そうして数秒にも満たないそれは終わり、暖炉が煌々と燃えだした。


「じゃあ、私が先に行くから……みんな、ちゃんと発音して来てね。『ディオネル邸』って言えば着くから。」
「分かったわ。」
「じゃあ……、」


フィーはゴクリ、と生唾を飲んで煙突飛行粉をガッと掴んだ。行きと同じように炎に粉をかけると、炎はゴーッ!と燃え上がりエメラルド・グリーンへと変色する。
そして、決心したようにフィーはスゥ…と息を吸い込んだ。今度は失敗しないように。


「ディオネル邸!」


ぐるぐると景色が回りだす。急激な吐き気に襲われながらもなんとかそれを耐えると、やがてぼふっとした柔らかいものに包まれた。それはシルク生地で作られた大きなクッションだった。マット、と呼んだ方がいいのか、人三人分くらいの大きさのそれはフィーを柔らかく包み込む。
暫くそれに堪能していたい気分になったが、今回は自分一人ではないためすぐに起き上がる。


「ただいま、レイテル。」
「お帰りなさいませ!フィー様!」


深々とお辞儀をするレイテルは、早速大型クッションを片付けようとするがそれを止めた。途端にレイテルはくりくりとした大きな目を更に見開いて大きくさせたが、そんなレイテルに説明する前に誰かが暖炉から飛び出してきた。
「ヒャッ!!」と驚くレイテル。しかし、次々と人がやって来て、レイテルの肩は引っ切り無しに飛び上がる。全員が家に無事に来れた頃には(「すっげー!これ手触り最高だなっグエッ!!」「ちょっとフレッド!いつまでここに…って、何このふかふかなクッションっウグッ!」)、レイテルは驚きすぎて何も言えずにいた。


「みんな無事に来れたみたいで良かった!それと、紹介するね。」


ぱちぱちと目を瞬かせるレイテルの頭にそっと手を置く。するとやっと覚醒したのか、ハリー達をその大きな目に映した。


「この子はレイテル。この家の屋敷しもべ妖精だよ。レイテルはいきなり発狂したり、自分で自分をお仕置きしたりしないから安心してね。」
「れっ、レイテルと申します!」


ぺこりとお辞儀をしたレイテル(その角度は180度くらいあったかもしれない)に、目を丸くするのはフレッド達だ。


「すっげー!ハウスエルスだ!」
「ホグワーツ以外で初めて見たぜ!」
「それって、ドビーと一緒の?」


ハリーが尋ねると、二人は「「そう!」」とシンクロして頷いた。一方でフィーは、“ドビー”という名前に聞き覚えがあり首を傾げる。


「ドビーって……、」
「あぁ、あのね、この夏休み中に僕に手紙を出してくれた?」
「うん?出したけど…返してくれなかったよね?」
「違うんだ!僕の手元には一切届かなかったんだ!」
「え?」


詳しく話を聞くと、どうやらそのドビーという屋敷しもべ妖精が、ハリー宛の手紙を止めていたらしい。そのせいでハリーは自分には一通も手紙が届いていないと勘違いしていたらしい。


「屋敷しもべ妖精がそんなこと……まあ、詳しい話はまた後で聞かせてよ」


ガチャリ、とある扉が自然と開く。その先の部屋には、長いダイニングテーブルの上に所狭しと並べられた豪勢な食事が用意されていた。宙吊りになっているシャンデリア、キラキラと光沢で光るカーテンに艶めく床。どれもがみんなの目を奪うには充分すぎた。


「食事でもしながらさ!」


にっこりと笑うフィーに、一同皆同じような笑顔で頷いた。