家に帰ろう

寮対抗は、土壇場の追加点でグリフィンドールがトロフィーを獲得した。そのときのスリザリン生は苦虫を潰したような顔をしていた(これでグリフィンドールとスリザリンの溝は更に深まったに違いない…多分、)。


「「フィーー!」」
「うぉっ……フレッド、ジョージ!」


列車に乗り込もうとした瞬間、後ろから物凄い勢いでフィーにタックルしてきた双子。あまりの驚きにフィーは変な声が出てしまった。驚きとともに二人に手を引かれ、どうやら先にリーが取ってあるというコンパートメントへ一緒に行くことに。


「ハリー達のとこに行くつもりだったんだろ?」
「よ、よくわかったね、ジョージ…。」
「やーめとけやめとけ!絶対フィーから謝るつもりだったろ?」
「その通りでございます……。」


思っていたことを次々と言い当てられ、フィーはなす術もなく項垂れた。そんな話をしていると、リーの待つコンパートメントに着いた。フィーとフレッド、ジョージは空いているスペースに座る。


「スネイプは確かに怪しい奴だが、それをそのまんま見て判断するのはどうかと思うぜ。な、相棒。」
「あぁ。ハリー達の勘違いで喧嘩が始まったってのに、なんでフィーが謝らなくちゃならない?」
「フィーが謝るのは、ロニー坊や達が謝りに来てからだ!」
「と言うか、そもそも俺たちは怒っている。」


改まってそんな事を口にしたフレッドに、フィーは言われなくても分かっていると言った風に頷いた。怒っていなかったらこんなに口煩く言ってこないだろう。
しかし、双子は「「分かってないなぁ!」」と口揃えて腕を組む。その様子を見たリーは、次に双子が言う言葉が分かっているのか、フィーを見て苦笑した。


「「列車の中くらい一緒にいたいんだよ!!」」


……時が止まった、ように感じた。
まさかそんな事を言ってくるだなんてフィーは夢にも思わなくて、一瞬フリーズしてしまった。こんな風に直球で言ってもらえたことは、数えるくらいしかなかったから。


「ホグワーツではさ、学年も違うから一緒にいれない。」
「その上フィーが常に一緒にいるのはハリー達だ。」
「「俺たちは一緒にいれないのに、ハリー達が一緒にいるだんてずるい!!」」


まるで子どもの独占欲だ。けれど、


「…なら、一緒にいようか。」


とても、嬉しい。
フィーは抑えきれない嬉しさから頬が緩むのを感じた。フレッドとジョージはフィーの言葉にパァァ!と喜び、そこにリーも加えて四人でいろんな事を話し合った。
え、何を話し合ったかって?そんなの決まってるでしょう?


「んじゃ、次の悪戯は――、」


ここから先は、まだ秘密。








キングスクロス駅に着き、フィー達は順番に列車から降りる。駅の構内は人が大勢居て、前に進むことすら困難だ。


「お、うちの親いるわ。じゃあな!」


最初に親を見つけたリーは、軽い挨拶でフィー達から離れる。その後ろ姿はほんの少しだけ、親に会えた嬉しさが出ていた。


「「あ、ママだ!」」


二人の視線がほんの少し遠くを見つめる。フィーもそれにならってその視線を追いかけると、そこには見慣れた、けれど久しく見ていなかった旧友の姿があった。
懐かしい。すぐにそんな想いが芽生える。けれどそんな気持ちをグッと押し込み、二人に別れの挨拶をしようとフィーは顔を上げた。


「じゃ、私もあっちにいるみたいだから!またね、フレッド、ジョージ。」
「え〜!? もう!?」
「泊まりに来いよ!」
「いや……ま、また今度ね!」


人混みの中ぎゅうぎゅうと二人に抱きしめられ、「おいでよー」「一緒に来いよー」と誘われるが、まだモリー達に会うわけには……というか、今のホグワーツ生にバレるわけにはいかないし、何より家を空けられない。


「いつでも会えるから……ね?」


そう言うと渋々納得したのか、最後に絞め殺さんばかりの力強さでフィーを抱きしめ、二人はモリーの元へ。その後ろ姿を最後まで見送り、フィーを待っているであろう、自慢の屋敷しもべ妖精の元へと向かった。
駅の外まで歩いて人が少ない辺りまで来ると、バシッ!と姿現し独特の音が響く。


「お待ちしておりました!フィー様!」
「ふふ、お待たせ。迎えに来てくれてありがとう、レイテル。」
「勿体無いお言葉です…!では、屋敷に帰りましょう!」
「うん。よろしくね。」


そうして、レイテルの姿現しによって景色はぐにゃりと歪み、次に見た景色は見慣れた我が家だった。


「お帰りなさいませ、フィー様!」
「うん、ただいま。レイテル。」


綺麗なお辞儀を見せるレイテルに返事をして、屋敷を見渡す。埃一つないそれは、レイテルが毎日毎日、主人もいないのに掃除を欠かさず行ってくれたおかげだ。


「頑張ったね、レイテル。」
「はい!フィー様もホグワーツ一年生お疲れ様でございます!」
「まぁね、今年は色んなことが起こったからねぇ。…いろいろと、対策が必要かな。」


椅子に座り、長年愛用している杖を見つめる。

果たして私は、彼に杖を向けれるのか。
――今はまだ、覚悟が足りない。


「まぁ、まずはレイテルの美味しいご飯が食べたいなあ。」
「かしこまりました!すぐにご用意致します!」


そうだ、難しい事を考えるのは後にしよう。
せっかく1年ぶりに家に帰って来たんだ。
美味しいご飯を食べて、ふかふかのベッドで眠ろうではないか。


「大丈夫。俺たちが側にいる」



遠い遠い昔に言ってくれたその言葉を、信じて。

さあ、長い夏が始まった。