二つの顔をもつ男2

騒がしかった夕食を終え、フィー達三人は足並みを揃えて寮の談話室で座り込んだ。周りにはさっきの出来事で人だかりが出来ている。「凄かったわ!」「最高だったぜ!」などと声を掛けられるたびに嬉しそうに応えていると、人と人との隙間から見えた輪から外れた人影三つ。
ハリー達だった。誰も彼らを気にとめない。そんな光景にフィーは無性に苛立ちが募った。この両脇に居る双子もそうだ。規則を破る事に関してはいいが、寮の点数をあんなに激減させてしまった事に腹を立てているらしい。さすがのフレッドとジョージもこれだけ減点されたことはない(バレないように細心の注意を払っているのだ)。

しかし三人もそんな周囲を気にせず、むしろ放っておいてくれと言わんばかりのオーラを放ちながらどこか真剣な顔で話し合っていた。


「(まさか石のこととかじゃないよね…?)」


そのまさかが当たっているだなんて思いもせず、フィーはチラチラと三人を見ていると、突然フレッドに話を振られて思考を逸らした。

夜も更け、寮生達はパラパラと自室へ戻っていく。フィーも腰を上げると、視界に入ったのはまたもやあの三人。もう嫌な予感しかしなくなってきた。


「フィー、寝ないのか?」
「リー!…ううん、寝るよ!やっと試験が終わって疲れたしねぇ。」


笑って「おやすみ」と声を掛けると、フィーは女子寮に駆け込んだ。部屋に入り、すぐにデスクの引き出しを開ける。そこに入れていたのはリーマスから貰ったあの小瓶だ。ツツ…と小瓶に指を滑らせ、ちゃぷ…と中身の透明な液体を揺らすと、グラスにお茶を注いでその中に一雫垂らした。ぽちゃん、とお茶の中に落ちて溶けていく様を見届けると、フィーは全部飲み干した。


「んぐっ…!ケホッケホッ、味の改良してなかった…。」


たった一滴だけなのに、それはお茶の味をかき消すほどに不味くなってしまい、フィーは思わず咳き込んでしまう。顔を歪ませると、次第にフィーの体は透明になっていく。数秒後には完全に透明になっていた。

――そう、あの小瓶の中身の正体は、透明薬だったのだ。ジェームズの透明マントからこれを思い立ち、悪戯仕掛け人で作り上げた代物だ。これの欠点はただ一つ、味だ。なんとか味を改良しようとあれこれ考えたのだが、やってみる側からたちまち効能が無くなる為、結局不味い薬になってしまった。


「さて、と…三人はいるかな…。」


まだハーマイオニーは女子寮に上がってきていない。ということは必然的に談話室にいることになる。三人が何かしら動く前に止めなければ、とフィーは談話室へと向かう。けれどそこに居たのは、


「…ね、ネビル……!」


スネイプから減点されまくってる、少しおっちょこちょいのネビルだった。


「何てことを…Finito Incantatemフィニート・インカンターテム(呪文よ終われ)。」


杖をネビルに向けて呪文を唱えると、石のように固まっていたネビルはピキピキ、という音と共に動き出した。


「ッ、あ、あれ……?」


キョロキョロと辺りを見渡すネビルが可愛くて、フィーはつい笑ってしまった。どうやら自分に何が起きていたのかがイマイチ把握出来ていないようだ。勿論、こうして笑っているフィーの姿も見えている訳がなくて。
ネビルが未だに首を傾げながら自室へ戻るのを見届けてからフィーは寮を抜け出した。


「あら、こんな夜更けに貴方もお出かけ?」
「さすが婦人、私の姿が見えるんだね…と言うか『貴方も』ってことは…やっぱり先に抜け出した生徒がいたんだ?」
「えぇ、何だか急いだ様子だったわ。しかもあの子達…今噂になってる子達だったから心配になっちゃって。ほら、ここ最近寮の子達がピリピリしているものだから…。」
「婦人…ごめんね、そのピリピリも今日…今夜で終わると思うから。」
「ふふ、そう…。だからと言って貴方が無茶しちゃ駄目よ?貴方が夜に抜け出してまともに帰ってきた日なんてないんだから。」
「ふふ、気をつけまーす。じゃあ、行ってきます!」


心配された照れ臭さを誤魔化すように手を振り、フィーは寮から出た。向かう先は、四階の隠し扉だ。







「おやおやぁ?そこにいるのはだーれだ?」
「……ピーブズ…。」
「ヒッ!! こ、これはこれは!お姿が見えなかったもので気づかなかったのでございます!ええ、どうぞお許しを!」
「わかった、わかったから静かにして!」


ここまでくるともう末期だな、と怯えているピーブズを呆れ顔で一瞥してから横を通り過ぎて暫く歩く。漸く辿り着いた部屋の扉を何の躊躇いもなく開けると、中に居たのは三頭犬――フラッフィー。
ぐっすり眠っている様子からして、もう目当ての人物達は中に入っていったのだろうと安易に予測は着く。


「最悪……。」


きっともうハリー達も、そして「彼」も、奥に進んでいるんだろう。ダンブルドアをいない今日を狙ったこの仕打ちに、フィーは深い息を吐きたい気持ちをぐっと堪えて、既に開いている隠し扉へと足を踏み入れた。…否、落ちて行った。