二つの顔をもつ男

暑い暑い中、とうとう始まってしまった筆記試験。フィーはカンニング防止魔法のかかった羽ペンをゆったりと動かしていた。そんな彼女とは正反対に、周りはカリカリと忙しなく動いている。ゆらゆらと揺れる羽がその書く速度を表していた。
もう解き終えてしまったフィーは何もすることがなく、くるくると羽ペンで遊ぶことに。けれど最近寝不足が続いていたせいか、いつの間にかぐっすりと寝てしまっていた。

その後の実技試験も何の障害もなく終えることが出来た。何度もやっているフィーが出来ないという方が可笑しいのだが。
フリットウィックは生徒一人一人を部屋に呼びパイナップルをタップダンスさせること。マクゴナガルはねずみを嗅ぎたばこ入れに変えること。スネイプは忘れ薬を作ることだった。

すべての試験を終え、知らず知らずのうちに張り詰めていた緊張も緩み、うんと伸びをする。ハリー達三人は何を思い立ったのか、どこか急ぎ足で走り去っていく後ろ姿を眺めながら、少しだけツキリと痛む胸を知らぬふりして目を逸らした。


「「ようフィー!」」
「わっ、ジョージ、フレッド!」
「試験はどうだった?」
「スネイプの奴に意地悪されなかったか?」


突然現れてフィーの肩を叩いてきたのは双子のウィーズリーズ。おちゃらけた風にくるくると話し手が代わるのを目で追いながら、フィーも笑顔で答える。


「試験はまあまあかな。筆記試験なんて解き終えた後は寝るか悪戯考えてたもの!スネイプ先生には何もされてないよ。ていうか試験中なんだから何かされたらそれこそ退職処分でしょう?」


どうだ、と胸を張るとポカンと口を開きこっちを見てきたが、すぐにそれは笑みへと変わりついには大爆笑しだした。


「アハハハハッ!さすがフィー!」
「試験中に悪戯のこと考えててどっからその自信が来るんだよ!」
「てか、確かに試験中にスネイプが何かしたらダンブルドアが黙ってないな!」


バシバシ!と互いの背や腕を叩く。ヒーヒーとお腹を捩る二人に、フィーはそうだ、と思い出したように口を開いた。


「ね、もう試験も終わったし…、」
「「終わったし?」」


二人はフィーの言いたい事が分かっている筈なのに先を促してくる。知らないふりをしたいのならまずはそのニヤけた顔を何とかしなさい、とつい口から出そうになったが、楽しそうだから放っておこう。


「悪戯しよう!」
「「さんせーい!!!」」
「そうと決まれば早速“アレ”だろ!」
「じゃあ二人は生徒ね!私は…、」


ニヤリ、と三人で怪しげな笑みを浮かべ、足早に自室へ向かいそれぞれ悪戯道具を取りに行く。その後、フィーがフレッド達の部屋に行って最終確認をし、みんなが集まる唯一の機会である夕食(大広間)へと向かった。


「……よし、もう全員いるな。」
「でもダンブルドア校長がいない!」
「クソ、僕らの計画が筒抜けか!」


ダンブルドアがいないというのは、三人にとって由々しき事態である。何故かって?今回の悪戯でフィーが仕掛ける相手はダンブルドアだからだ。
二人が流石にダンブルドアには出来ないと言うから、そのお役目がフィーになったのだが、このままではフィーの悪戯相手が居なくなるし、盛り上がりにも欠けてしまう。


「んー…、どうしようか…。」
「他の先生にするか?」
「いや、あれはダンブルドアにしか出来ない。」
「フレッドの言う通り。私がしようとしたのは先生の髭を蛍光色のピンクにした後、頭を坊主にするってことだもん。他の先生にするなら、まずは髭を生やさなきゃ。」


一つの想像からこれを計画し、更にはそれを現実に起こさせようとして、最後には日頃の鬱憤を込めて盛大に笑ってやろうと思っていたフィーは、途端に裏切られた気分になった。


「それじゃあ計画変更だ。」
「プランB?」
「んにゃ、Cでいこう。」
「オッケー。なら先に二人からか…先発頼んだよ!」
「「任せろ!!」」


グリフィンドールの席でコソコソと話し合い、やっと話が纏まったところでフレッドとジョージが杖を取り出した。二人ともごそごそとローブのポケットを探り、出てきたのはピンクと青の二種類ある風船。
二人がフィーを見て、三人同時に首を縦に振った次の瞬間、同時に風船を宙に浮かせた。そのタイミングといったら、さすがは双子だと言いたいくらいだ。


「え、ちょ、ねえねえ何あれ!」
「なんだよ…って、はぁ!? なんだあれ!?」
「風船…?なになに?何か始まるの?」


そんな声が上がり始め、大広間にいる人の視線は徐々に上がっていく風船へと向けられる。もちろん生徒のみならず、先生達も。先生達はそれを見た途端にフィー、フレッド、ジョージを見たのだが、三人は知らんぷり。生徒達をぐるりと見渡して、互いにウィンクする。

ふわりふわりと上がっていた風船が止まり、空中停止する。勿論この風船を操っているのはフレッドとジョージだ。


「「one…、two…、three!!」」


二人のかけ声で、風船はパァアン!と音を立てて割れ、中からは花びらや金箔、更に星まで振ってきた。
両手を上に上げて手に取ろうとする者もいたが、残念。それは空気以外の何かに触れた瞬間に跡形もなく消えてしまうのだ。

感動している隙を狙い、お次はフィーの番だ。


「お楽しみはこれからだよ…ってね!」


大きな声を上げると、フィーは杖を一振り。すると大広間の明かりがすべて消え、唯一の灯火は風船から出てきた星と金箔と花びらだけ。それに感動の声が辺りを包む。フィーはニッ、と暗闇の中不敵に笑うともう一度杖を振るった。


「わぁ…!」
「綺麗……」
「もうすぐ夏なのに…!」
「雪の結晶だなんて…私初めて見た…!」
「それに花火まであるぞ!雪の結晶と花火って…絶対にないコラボレーションだよな…!」


フィーが出現させたのは、雪の結晶と色とりどりの花火。三つの光に加えてキラキラと光るそれは実に幻想的だ。もちろんこれでお終い、な訳がない。パレードにフィナーレは付き物である。
フィーはフレッドとジョージにアイコンタクトを取り、三人同時に杖を振った。

――パン!パァン!

まだ消えていないものが次々に音を立てて消えていく。花びらも、星も、金箔も、雪の結晶も、花火も。そしてそれによって創られた物、それは…――、


“悪戯仕掛け人、ここに参上”


カラフルな色で彩られたそれは、数秒するとじわり、じわりと消えていき、天井にある星空と同化していった。


「「「Thank you!!!」」」


大声でそう叫ぶと、三人は綺麗に一礼した。その後起きた大きな喝采と歓声は、どこかフィーにとって懐かしいもののように思える。
そんな生徒達にフィー達はお互い顔を見合わせ、ニッコリと笑い合ったのだった。