禁じられた森

フィーがハリー達と一緒に行動しなくなって数日。あれからまた三人でこそこそしているのを見かけていたけれど、もう自分には関係ないと全く関わっていなかった。心寂しく思う時だってある。だって今までずっと一緒に居たのだから。


「ふぁぁ……眠た…。」
「あ、フィー!あなたこれ知ってた!?」


朝いつも通りに大広間へ行こうとしたら、大声でパーバティとラベンダーがフィーの元へ駆け寄ってくる。フィーは不思議そうに首を傾げると、今度はラベンダーがさっきのパーバティに負けじと声を張り上げた。
まるで、その場にいた生徒全員に聞かせるように。


「ハリー・ポッターとその他何人かが寮の点数を一気に百五十点も減らしたの!」


その言葉に驚いたのはフィーだけじゃなかっただろう。現に周りの生徒も困惑の表情を浮かべている。


「いったい何が…、」
「それは私たちにも…だから良くハリー達と一緒にいたフィーなら何か知ってるかなぁと思って…。」
「ハーマイオニーに聞いても何も言ってくれないし。」


ねえ?とお互い顔を見合わせて小首を傾げる二人に、フィーが首を横に振ると少し驚かれた。
私の知らないところでまた問題を起こしていたのね、なんて思いながらそろりと周りを見渡す。そこには予想通りと言うべきか、あの三人の姿は見えない。


「どうして知らないの?あんなに一緒に居たじゃない。」
「あー…ほら、私最近一緒にいないから…、」
「そう言えばそうねぇ…何かあったの?」


心配そうに聞いてきたパーバティに「ちょっとね、」と努めて明るく答えると、二人は顔を見合わせてにっこりと笑った。


「そう…なら、これからは私たちと一緒にいましょう?」
「えぇ!私達、もっとフィーとお話がしたかったの!」


パーバティの問いにラベンダーは嬉しそうに目を細めて頷いた。フィーは一瞬目を見開いたけど、二人の嬉しそうな笑顔に自然と頬が緩まる。誰だって好意を向けられるのは嬉しいものだ。


「うん、よろしくね。パーバティ、ラベンダー。」
「「ええ!!」」


そうしてフィーを真ん中にするように二人は腕を組み、大広間へと向かう。そこでフィーの朝食(たったのミルクティー一杯)に対して驚かれるのは、フィーにしてみれば慣れたものだった。
楽しく弾んだお喋りに夢中になったせいで、次の授業に遅れそうになったのも仕方がない事だろう。







翌朝、フィー、パーバティ、ラベンダーは一緒に朝食を食べに大広間へと向かう。席に着くと同時に何十羽もの梟が飛び交った。
フィーの手元には少し小さい包みが一つとお手紙が。チラッとハリー達の方を見ると、ハリーとハーマイオニー、それからネビルの元へ手紙が届いた。


「あれって絶対罰則の通達よねー。」
「あの三人だったのね…というか、三人ってことは一人五十点の減点ってこと?」
「そうみたいだね…ネビルは巻き込まれた、ってとこかなぁ。(ロンじゃなかったのね…ならロンは何処に…?)」
「可哀想…ってフィー…それ何?」


ラベンダーがネビルたちから視線を外し、今度はフィーの手元にそれを向けた。パーバティも何々?と興味津々だ。
そんな二人の視線に応えるように、ラッピングされた物を取り敢えずテーブルに置き、まずは手紙から開ける。


「んー、手紙には…、
“親愛なるフィーへ

学校はどうだい?無茶はしていないかい?まぁ、そう尋ねたところで君が無茶をしていないわけがないだろうけどね。
だからこそ、これを渡しておくよ。ちょうど荷物を整理していたら見つけたんだ。
僕はいつも傍観していたとは言え、それでも仲間の一人だ。それに…君たちの後処理係りだったんだよ?君がどんな事を仕出かしているのかくらいは想像がつくよ。
だから、これで少しでもフィルチに捕まらないように気をつけるんだよ。君達はいつだって危険を顧みないんだから。

それじゃあ、風邪には気をつけて。手紙待っているよ。

From ムーニー
Ps.寮の点数をバカみたいに減らさないようにね。もう僕はカバーしに行けないよ”


……だってさ。」


読み上げたあと、フィーは物凄くため息を吐きたくなった。まるで今現在もフィーが寮の点を減らしているとでも言いたげな物言いに、今すぐ文句を言いに行きたくなる。だが、リーマスがそう思うのも仕方のないことだ。リーマス達と一緒にいたとき、ジェームズ達と率先して寮の点を下げていたのはフィーだったのだから。


「(やっぱりリーマスだったか…。)」と思いながら手紙を仕舞うと、二人がやけに静かなことに気づいた。二人を見やると、その目はキラキラと輝いている。


「ちょっとちょっと!! ムーニーって誰よ!?」
「まさか恋人!?」
「「聞いてるの?フィー!!」」


こ、ここでもシンクロか、と感心しながら喰い気味に聞いてくる二人にフィーは「違う違う!」と言いながら大きく首を横に振った。


「ムーニーとは友達だよ!」
「あら…そうなの?」
「つまんないわねぇ。」


人の友好関係を面白がらないでよ…、とげんなりする。目と鼻の先まで迫ってきていた二人にやっと解放され、私フィーはホッと息を吐いた。そして二人が食事を再開させたのを見計らってこそっと側に置いていた包みを開く。
――それは小さな瓶だった。だけどそれは、あの日フィー達が作った大切な物。フィー達の、努力の結晶だった。


「ふふ、リーマスったら…。」


傍観していたなんて嘘ばっかり。貴方も充分悪戯仕掛け人の重役を担っている一人だよ。こんなにも最高な物を贈ってきてくれるなんて、さ。


「最高だよ、ムーニー。」


緩む頬をそのままに、フィーはその包みと手紙をローブの中へ仕舞った。


その日の夜九時。フィーは校長室にいた。ほかほかと湯気が立っている紅茶を一口飲み、変わらない美味しさにほう…と息を吐いた。


「今日はダージリンなのね、アルバス。」
「ほっほっほっ、やはりフィーには分かるかの。」
「当たり前でしょ?しかもとっても美味しい。」
「それはただのダージリンではない。特別な地方で採れた茶葉なんじゃよ。」
「そんなものを私に?ありがとう!」


お茶請けのスコーンを食べながら茶目っ気にウィンクするダンブルドアにさすが、と舌を巻いた。いくら年老いても、人を、女性を喜ばせるにはまだまだ現役だ。
そうして数分が過ぎた頃、さて、とダンブルドアはようやく本題に入ろうとした。やっとか、とフィーは一息吐くと持っていたカップをカチャン、とソーサーに置く。


「今晩ハリー達が処罰を受けるのは知っておるかね?」
「処罰を受けるのは知ってたけど今晩っていうのは知らなかったよ。」
「ふむ、そこでじゃ。処罰の場所は森――禁じられた森なんじゃよ。」


真っ直ぐにそのキラキラした目で見てくるダンブルドアに、もう先の言いたいことが分かった。


「つまり、私に着いていって欲しいと…。」
「さすがじゃ。そう、ケンタウルスがいるからと言って安全だとは言いにくい。」
「それに最近…ユニコーンが殺されるって被害も出てる。そんな地に“ハリー・ポッター”が足を踏み入れるのは賢いとは言えないわね。」


はぁ、とため息を一つ零してダンブルドアが用意してくれたスコーンを口に入れる。じんわり広がる甘さに少し疲れが取れたような気がした。


「もちろん無理に、とは言わんよ。それに最近仲が良くないみたいじゃからのう。」


探るようなそれにぷい、と顔を背ける。至極楽しそうなダンブルドアの笑い声が室内に響いた。どうせ、この目の前の老人はどうして自分達が仲違いしたのか知っていてこう言うんだから、タチが悪い。
そんな時に目に入ったフォークスは此方を見て小さく鳴く。それはどこか自分を心配してくれているかのように感じた。


「……仲が良くない、と言うか…。」
「セブルスを疑っておる、からかの?」
「…分かってるなら聞かないで。」


ズバリと言い当てたダンブルドアに、フィーはガクリと力無く頷いた。本当に、彼は学校中に目を張り巡らせているんじゃないか、それこそ寮の中にまで。そう思わざるを得ないくらい、彼はよく周りを見ている。


「あの一直線なとこはリリーに似てるね。…あー…ジェームズにも似てるか。」


あのリリーへの告白とかね、と小さく笑うとダンブルドアも思い出したのか目尻を落として笑った。大衆の前で愛を叫ぶジェームズに、ダンブルドアはいつだって楽しそうな瞳で眺めていたのを今でも覚えている。


「それで…頼まれてくれるかの?」
「……了解、校長先生。」


畏まった返事に、ダンブルドアが楽しそうに口元を緩ませたのを最後に、フィーは校長室を後にした。