みぞの鏡

今日は、ハリーがクィディッチシーカーになってから初試合の日。かつてグリフィンドールの凄腕のシーカーだったジェームズの子と。下手な訳がないし、むしろそのジェームズを上回るかもしれない飛び手だ。飛行訓練の時に見た飛行技術は目を見張るものだったからこそ、自信を持って言える。
だが、今の心の状態のまま試合を見に行っても、きっとフィーはハリーとジェームズを重ねて見てしまう。だから今回は行かないことに決めたのだ。
そんなフィーにとても残念そうな三人だったが、今日は偶然にも予定があった。その旨を三人に伝えると物凄く怒られたが(「どうしても外せない用事なの!?」と特にハーマイオニーに怒られた)、「やっぱり行く」とはどうしても言えなかった。

――そして今、フィーは“癒しの部屋”に来ている。


「……よし、やろうか。」


利き杖である右手で杖を持って、眠っているジェームズとリリーへと目を向ける。死んだように眠る二人に自分の不甲斐なさが募っていくが、反省や後悔は10年前嫌という程した。だから今は、一刻も早く二人を目覚めさせる事が大事だ。


「.…早く目を覚ましてね、二人とも。」


あの頃のように目を細めて笑い、呪文を唱えていく。杖先に光が溜まっていくのを見ながら自分の中の魔力を全て使い切るかのように没頭した。


――それから、数時間。

もう声が掠れて上手く呪文を言えない。無言呪文が出来る所もあるけれど、それよりも出来ない箇所の方が多いため、どうしても喉を使ってしまう。
だんだんと意識も朦朧としてきた。魔力が足りなくなってきたのかもしれない。人よりも多い方に属するフィーでも、何時間も魔力を使い続ければ当たり前に枯渇する。もう意識が事切れる――そう頭の端で思った瞬間、体が暖かいものに包まれた。


「……っ、え……?」
「ほっほっほ。大丈夫かの?フィー。」


その暖かい何かは……、


「アルバス………、」


ホグワーツの校長、アルバス・ダンブルドアだった。


「どうして、ここに……。」
「君がクィディッチの試合を見に行かないと風の噂で聞いての。ここに来たのはただの爺の勘じゃ。」


それはそれは愉快そうに笑うアルバスに思わずフィーも笑ってしまった。ホッと息を吐いた瞬間、フィーの意識は遠いどこかへと飛んでいってしまった。







何かの、薬品の匂いがする。
忙しなく動く音も聞こえる。
その音にフィーは瞳をゆっくりと開けた。


「――…んん……。」
「…あらあら、やっと目が覚めたのね。」


つい最近聞き慣れた声がするりと耳に入ってきた。その声のする方へ重たい頭を動かして目を向けると、困ったように眉を下げたポンフリーがいた。


「…ぽっぴー、」
「まったく…、貴女は何回ここに来れば気が済むんですか!」
「へへ…、わかんない。」
「まったくもう…。ほら、これ飲んでもう一度寝なさい。」
「……はーい。」


その言葉とともにポンフリーがフィーに渡したのは、何やら緑色に似てる色の液体。ゴブレットをぐるりと回せば粘質なせいかどろりとした液体が器にへばりついた。
それを見て余計に飲む気が失せ、フィーは「うえぇ…、」と顔を歪ませて薬を見つめる。

…そう言えば、


「薬に砂糖を入れたら効き目がなくなるの嫌だなって…よく話したなあ…。」


懐かしい親友と言い合ったそれを思い出してクス、と笑う。そして意を決してなるべく薬を見ないように飲み干した。どろりとしているせいで喉になかなか通らなかったのは最悪だったが。


「……え?まだここにいないといけないの…?」
「当たり前です!まだ体調も万全じゃない。それに加えて魔力もあまり戻ってない。そんな生徒を寮へ帰すわけには行きません!」


ピシャリと反論の余地もなくそう言われ、フィーはしゅんと項垂れる。ポンフリーの言うことは患者を思えば当然のことだが、フィーだって自分の体だ。いつも以上に体がだる重いのだって気づいてる。
…だけど、いつまでもここにいたくなかった。いつまでも医務室にいたらみんなに心配をかけてしまう。いつだってそうだったからこそ、もう誰にも心配かけたくないのだ。


「…わかった、けど…いつまで?」
「クリスマス後には寮に戻れるでしょう。」
「く、クリスマス後!? え、嘘、やだ!ポッピーの鬼!悪魔!」
「何とでも言いなさい。」


ツン、としてポンフリーはまた薬の入ったゴブレットを側にあるテーブルの上に置いて医務室から出て行った。