ハロウィン3

漸く訪れた平和を四人は暫くの間堪能していると、急にドアが開いた。。その後に続いて複数の足音も。
すると一番に出入り口から飛び込んできたのはマクゴナガルだ。そのすぐ後ろにスネイプとクィレルも。クィレルは倒れているトロールを見た途端に弱々しい声を上げながら胸を押さえ座り込んでしまった。


「(……クィリナスってこんなに怖がりだった…?)」


ふとした疑問に首を傾げる。そういえばクィレルはマグル学の教師だったはずだ。それがどうして防衛術の先生に…。と、浮かんだ疑問は一度浮かんでしまえば解決するまで消えることはない。顔を蒼白にして怯えるクィレルを見て、フィーは意識をマクゴナガルへと向けた。


「いったい全体あなた方はどういうつもりなんですか。」


厳しいマクゴナガルの声色から分かるように、彼女は怒りに満ちていた。しかし怒るのも無理はない。大事な生徒がこんな目に遭ったんだ、しかも勝手な行動で。
フィーが横目でハリー達を見やると、彼らもクィレルに負けず劣らず顔を青くさせていた。


「殺されなかったのは運が良かった。寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」


そのマクゴナガルの言葉にスネイプは素早くハリーへと視線を投げかける。フィーがどう誤魔化そうかな、と悩んでいると、


「マクゴナガル先生、聞いて下さい。――三人とも私を探しに来たんです。」
「ミス・グレンジャー!」


ハーマイオニーはそろ、と小さくフィーの背中から出てきた。今までフィーの背中に手をやっていたからか、ハーマイオニーの手はほんのりと血で濡れていて、目に見える程に震えていた。


「私がトロールを探しに来たんです。私……私、一人でやっつけられると思いました――あの、本で読んで、トロールについてはいろんなことを知っていたので。」


スラスラと口を開くハーマイオニーにフィーは驚いて彼女を見つめる。確かにその言い訳はハーマイオニーだからこそ成り立つ嘘で。
けれど、ハーマイオニーがそんな見え見えな嘘をつくとは思わなかった。何よりも規則に厳しいハーマイオニーが――。

そうこうしているうちに話はどんどん進み、結局はハーマイオニー一人が規則を破ったことになってしまった。そしてミネルバはハーマイオニーから五点減点、そしてフィーとハリー、それからロンに五点ずつくれた。


「では、私はダンブルドア先生に報告しておきます。帰ってよろし、」
「っあと、もう一つ…!」


やっと寮に帰れる、と早く背中の傷を癒したいと思っていたフィーにとって裏切られた感満載だった。ハーマイオニーがミネルバの言葉を遮った事に誰しもが驚く。だが次のハーマイオニーの言葉に、この場にいる全員がもっと驚いた。


「あの、フィーが…フィーが私をトロールから庇って、背中から血が出て止まらないんです!!」


その言葉に誰よりも早く動いたのはスネイプだった。スネイプはフィーをハーマイオニーら引き剥がして背中を少し強引に見た。
その直後、トイレにはみんなの息をのむ声が響く。


「ああディオネル…あなたはどうして…!」
「いや、あの、これ見た目程痛くないんです…!だ、だから、そんなに心配するほどのことでもない、」
「我輩が医務室に連れて行きます。」


間髪なしに言ったスネイプの言葉にマクゴナガルは震えながら頷いた。その頷きを見たスネイプは、フィーを横抱きにして早足で医務室へ向かった。


「……まったく、お前は何をやっているんだ。」
「…ごめん、セブルス。」
「…あまり心配をかけるな。」
「……ふふっ、うん…。」


最後の言葉にクスクス笑いながら答えると、スネイプの雰囲気も柔らかくなった。
暫くフィーはスネイプに運ばれていると、漸く医務室が見えてきた。スネイプは閉じられていたドアを躊躇いもなく開けて、ズカズカと偉そうに中へ入る。


「まあまあスネイプ先生。今日はどうし……フィー!?」
「ポッピー、コイツを頼む。背中の炎症と打撲がひどい。」
「っ……あなたって子は…本当にどうしようもない子ね!ほら、早くこっちに来なさい!」
「いたっ、ポッピー痛い…!」
「我慢なさい!」


フィーが痛い痛いと喚いている姿を見て、スネイプは薄く笑った。その笑顔はいつも授業で見てる、ハリーを馬鹿にするようなものではなくて。
安心するような、そんな笑顔だった。

その日は一応治療も終わったけれど、ポッピーの言いつけで一日医務室で寝ることに。やっと落ち着いて周りを見渡すも気付いたらスネイプはいなくなっていて、ただサイドテーブルに一言、メモが置いてあった。

『無茶をするな』

不器用なそのメッセージは、彼なりの精一杯の励ましの言葉だったのかもしれない。これを書いた時のスネイプはどんな顔をしていたのかな、と想像して、胸がほっこりした。


あの後、ハーマイオニーはロンとハリーと仲直りした後友達になったみたいで、嬉しそうに三人でフィーのお見舞いに訪れた。フィーもその三人を見てまた頬を緩めたのだった。

一年に一度のハロウィーンは、こうして幕を閉じたのだった。


「こんなハラハラするハロウィーン、ジェームズ達も味わいたかっただろうなあ…。」


誰もいなくなった医務室で、ぽつりと呟いたその言葉は静かに癒しの部屋へと消えていった。それは、フィーさえも知らない出来事……。