Dream Factory
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戦場見学1日目

 しん、とした室内。
 父も母も居らず、一人で朝食を食べた後、自分を迎えに来た中忍と里を出る。
 今日は戦場見学の日だ。
 帰還予定は明日の午後。それまでは中忍2人と行動し、戦場を見て回る事になっている。
 中忍達の表情は冴えない。
 それもそうだろう。『終戦』の2文字が見え始めている中、こんな子供のお守りをするなど嫌に決まっている。
 だが、こちらとて文句は言いたい。
 木に飛び移る動作一つ取っても、中忍達2人が自分より上の実力を持っているとは思えないのだ。敵の油断を誘う為の演技かもしれないが、どうにもそうは思えない。これで演技だったら天晴れだ。

「ここが一つ目の戦場だ。と言っても、周囲も含め安全確認は済んでいる。あるのは死体だけだ。ま、戦場跡地ってとこだな」

 木の枝から飛び降り、足下の額当てを拾う。
 雲のような模様が入ったそれは、両親がしている木ノ葉隠れのものではない。
 ならば、敵の物か。
 物言わぬ屍と、目が合った気がした。

「ここがまだ戦場だったのはいつですか」
「つい数日前だ。部隊同士が鉢合わせた事で突発的に起こった戦闘だった。おかげでまだ死体回収が済んでいない」
「そうですか」

 額当てを元の場所に戻す。

「言っておくが、ここにある死体は血継限界の類を持っていない。それが目的なら諦める事だ」

 何か勘違いされている気がするが、他人にどう思われようと興味がないので、言い返す事はしない。
 不満げな表情の中忍を無視し、目の前の景色に意識を傾け、彼が言った言葉を思い返した。
 "突発的に起こった戦闘"だったならば、作戦も何も無い乱戦にもつれ込んだはずだ。
 敵の拠点を破壊するわけでもなく、敵勢力を減らすためでもなく、"ただ鉢合わせた"から起こった戦闘で死んだ彼らは、果たして死に際に何を思ったのだろうか。
 空が曇り、太陽が隠れる。
 嫌な天気だ。

「次に行くぞ」
「はい」

 こういう不意の戦闘があった場合、死体の回収はその場限りの協定に従い行われる事が多い。お互いに死体回収の間は手を出さない、といった内容の協定だ。
 死体回収の為に戦闘をして死体を増やすなど、お互いにとって利がない結果となる。それを回避する為にも、案外こういった協定は多い。
 前世でもよくやった。
 一族同士の『戦』から国同士の『戦争』となり、その規模は大きくなった。
 それでも、争いの本質は変わらないものだ。

「!」

 人の気配。
 前方、約500mの地点に2人。
 中忍達はまだ気づいていない。

「止まってください」
「何だ、疲れたのか? 予定が詰まってるんだ、さっさと───」
「前方500mに人の気配です。このまま進むとぶつかります」
「何言ってやがる。ガキが忍者気取りか? ふざけんのも大概にしやがれ」
「お前よりオレ達のほうが戦場を知ってる。子供がおふざけで口を挟むな」

 無駄、か。
 中忍達に色々と反論したい気持ちを抑え、次の手を考える。
 敵なら排除すればいいだけだが、この幼い体でどこまでやれるのか。前世の体なら問題ないが、この体だと少し不安だ。
 その間にも、どんどん気配は近づく。

「「!?」」
「だから言ったのに」

 中忍達の前に飛び出し、クナイを弾く。
 大方、安全なルートしか通らないからと油断していたのだろう。中忍2人は動かない。
 いきなり攻撃してきた時点で敵だが、一応相手の額当てを確認する。
 木の葉のものでは、ない。

 数秒あるかないかの膠着状態に耐え切れなくなった中忍の1人が、震える手で手裏剣を投げる。
 余計な事を、とハルカは内心で舌を打つ。
 ハルカの年齢は明らかに低い。戦場に立つような年齢ではないのだ。その事を良いように誤解してくれたら、もしかすると戦闘を避けられたかもしれないのに。
 だがこれで、戦闘になる事が決まった。
 チャクラ刀に風を纏わせ、マスクで顔を覆った敵と対峙する。中忍からの援護は全くもって期待していない。できればもう1人を倒してくれ、とただ願うだけだ。

 予想に反して、拍子抜けするほど呆気なく決着はついた。
 相手が子供だと見下し、碌に印を結ぼうともしない敵に『瞬身の術』で近づいて、首を落とす。
 死んだのを確認し、すぐに中忍達の援護に入る。
 起爆札で距離を取って、態勢を立て直そうとした敵に向かってチャクラ刀を長く伸ばし、そのまま横に一線する。
 終わった。
 人を殺したのは4年ぶりだった。
 伏兵を警戒し、感知能力を最大まで上げる。が、敵は発見できなかった。
 まだ油断はできないが、ひとまず大丈夫だろう。

「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
「問題ねぇよ」

 その目に浮かぶのは、誰に対しての恐怖か。

「こいつらは雲隠れの忍だな」
「しっかし鮮やかな切り口だ。………テメェ何もんだ?」
「おい、やめろ」
「うるせぇよ。ただのガキが敵の気配なんざ解るわけねぇだろうが。なんかあるに決まってんだろ」
「……父から少し手解きを受けただけですよ」

 面倒だ、とハルカは思った。こういった詰問は慣れていないので、どう答えたらいいのか解らない。
 敵の気配だって、もう少し警戒していたら中忍達も解ったはずだ。安全なルートを通っているから、と警戒しなかったのは彼らの過失だった。
 ハルカは必死に解決の糸口を模索した。変に疑われては面倒なのだ。が、どうにもやり過ぎた感が否めない。
 中忍達が色々と話し合っている間、両方にトドメを差したのは失敗だったか、などとハルカは考えていた。

 結局、ハルカについての探りはお流れとなった。
 ハルカは中忍達よりも強い。それを2人も解っているから、無理に聞き出そうとはしなかった。そんな事をしたら自分の身が危ないからだ。
 これは任務。余計な事は知らなくていい。
 それが中忍達の出した結論だった。

 無言で次の戦場を目指す。今日はその近くの小隊に混じって野宿する予定だ。
 正直、面倒だ。今回ハルカが確認したかった事はもう済んだし、これ以上は無駄だった。が、判断を下せるのはハルカではない。それを解っている為、口に出す事はしなかった。
 それに、『戦闘行為』という予想外の事態の後なので、予定が変更され、木の葉に帰る事になるかもしれない。
 無言が続く。
 だが、空気が重いとは感じなかった。
 暫くして、薄らと血の臭いが漂い始める。それは中忍達にも感じ取れたようだ。
 そうして辿り着いた戦場で、何故かややこしい事態が発生した。

「ダンゾウ様からの命だ。その子供はこれより我らが預かる」
「えっ……いや、その」
「うずまきハルカ、来い」
「わかりました」

 ハルカは"ダンゾウ"という人物の事を知らなかった。だから、この時も、"担当が変わった"という認識しかなかった。
 面を被った男達に先導され、当初予定していたルートを大きく外れる。この辺りの地理に明るくないハルカだが、それでも前線に向かっているというのは解った。
 何故、と考える。
 ハルカはまだ子供。戦力として数えられているわけではないだろう。殺すにしても、わざわざ人のいる前線まで行く必要はない。ここで殺せばいい。しかし、面の男達はそんな素振りは見せない。
 どうすべきか決めあぐねているうちに、段々と音がするようになった。戦場が近いのだ。
 どう動くかは置いておき、近づく『戦』に向けて気持ちを整える。気がつくとあの世だった、という事も実際にあるのが戦場だ。余計な事を考えるべきではない。
 足音もできるだけ殺す。もし戦闘になった場合、敵の相手は面の人達に押し付けて、ハルカは隠れるつもりだからだ。
 できれば何事もありませんように、と願う。
 その願いは全く聞き入れられなかったようだが。

「ここだ。見ての通り、戦闘が始まって間もない」
「話が違います。戦闘状態が続いている場所に見学に行く予定はなかったはずです。今すぐ木の葉の里へ帰還する事を要求します」
「援軍の報告は済んでいる。彼らは我々の到着を待っているが、それでも無視するか?」
「それは………」
「選択するのはお前だ。この光景を見て、それでも見捨てるならそうするといい」

 森の中、眼下で今もなお続く"殺し合い"。見た目4歳であるハルカに迫る決断ではない。
 正解は"見捨てる"。ただでさえ実力を隠せているとは言えないのだ。これ以上、見知らぬ他人に手の内を晒したくはない。それに、どうにもこれは上層部に仕組まれたとしか思えない。
 だが、チラつくのは両親の顔。
 里の人達を守る為に働いている両親は、絶対に見捨てる事はしないだろう。
 迷っている間にも、戦場には怒号が飛び交う。その中には、「増援はまだか」と怒鳴る声もあった。

 近くで、一人の男が後ろを取られる。
 死ぬ。
 そう思った時、ハルカの体は勝手に動いていた。

 起爆札つきのクナイを取り出し、敵に投げる。避けられたが、味方との距離は開いた。
 起爆札が爆発した瞬間、ハルカが木の上から跳躍し、戦場に下り立つ。爆発に紛れて投げた千本が、敵の首に突き刺さる。
 仮死状態にするツボ、などではない。首の後ろに密集する神経系を断裂させたのだ。即死だった。
 敵は残り3人。味方は2人。
 面の男達は参加する気はないらしい。気配も消して傍観の態勢を整えている。
 敵の火遁を躱し、チャクラ刀を両手に・・・構える。
 微弱な雷遁を自分の体に流し、移動速度を大幅に底上げする。自分の視界がコマ送りになる程の速度で戦場を駆け回り、味方を救援しつつ敵を屠る。
 余りにも速すぎて直線的な動きしかできない上、雷遁で無理やり動かしている体には多大な負担がかかる。ハルカとて、急いでいなければこんな術は使っていない。
 早々に戦闘を終わらせたハルカは、とうとう最後まで手を出さなかった面の男達の傍に身を隠す。
 姿を捉えられない術を使ったのは、早く終わらせたかったからだけではない。戦闘終了後、質問攻めにされるのは都合が悪かったからである。
 体中が痛い。
 久しぶりに雷遁チャクラモードになったが、数分で骨が軋んでいる。

「これで満足ですか」

 ハルカが男達に問う。
 口寄せの鳥が飛んでいったのを見た。誰に、何の報告をしたのかは知らないが、ハルカの力を試していたのは明らかだ。
 本格的にややこしい事に巻き込まれたようだ。

「移動するぞ」

 ハルカの質問に答えようとはせず、男達は移動を始める。
 イラッとした。

「ダンゾウ様からの伝言だ」

 足を止める事はせず、淡々と男が話し出す。

「"その力、里の為に使え"………確かに伝えた」
「私はいずれ忍となる身です。言われずとも、木の葉の為に身を尽くすつもりですが」

 それ以降、男達が話す事はなかった。
 この時、ダンゾウとやらからの伝言の意味を深く考えていれば、あの悲劇を防げたのだろうか。

 数時間、森を走り通す。
 ハルカへの配慮が微塵も感じられない速度であったが、特に文句は無かった。早く帰れるなら、何だって良かったのだ。
 ひたすら走り続けて、ようやく当初予定していた通りの宿泊場所に着いた。

「引率はここまでだ。部隊に話は通してあるから、予定通り明日、帰還しろ」
「解りました。が、説明はないのですか?」

 無言。質問には一切答えないらしい。
 状況説明を諦めたハルカは、大人しく指示に従って休む事にした。
 そこら中から不躾に寄越される視線に耐えつつ、部隊と一緒に食事をとる。
 味は質素なものだった。昼食は移動途中に軽く済ませただけだった為、普通にお腹は空いていたのだが、がっつく気にはならなかった。
 それからも好奇心を隠そうともしない忍達に、ハルカは呆れる。
 視線が煩わしく、早々に布団に入った。
 朝、母の手料理が食べられないと思い至り、ただでさえ下がりっぱなしだったテンションが更に下がった。


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