Dream Factory
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父との組手

 合図と同時に、ミナトがハルカに迫る。ハルカは後ろに飛び退き、中段蹴りを躱す。と同時に、ミナトの左右にクナイを1本ずつ投合する。2本のクナイはワイヤーで繋がっており、迂闊に触れれば切れる仕様だ。
 が、そんなものに引っかかってくれる相手であるはずがない。
 ミナトは、ハルカに肉薄すると同時に、手にしていたクナイでワイヤーを切り裂き、その意味を無くしてしまう。

 自分より格上を相手に、近距離で印を結ぶような戦闘は愚策だ。
 ミナトに踏み込まれた時点で、ハルカの中から忍術という選択肢は消えている。今のチャクラ量では禄な術が使えないので、距離が開いていても忍術は使わなかっただろうが。
 よって、特注のチャクラ刀で応戦する。風遁をまとわせてあり、切れ味は抜群だ。
 纏わせるチャクラ量や形態を調節し、一瞬一瞬でリーチを変える。長く、短くといった具合に。

 『形態』とは、この場合、纏わせたチャクラそのものの『形』の事を指す。
 チャクラ刀の周りにも風を発生させて、近づくものみな切り裂く刃にしてみたり。真っ直ぐに整えて一刀両断に特化させてみたり。単純に細さを変えてみたり。
 形態変化は奥が深い。前世のあるハルカでも、極めたと言えるものではない。

 組手を始めて数十分。ハルカは未だ、ミナトに忍術を使わせる事ができないでいた。
 始めた当初は、元の体との齟齬を無くせれば目標達成としていた。戦も経験している為、それなりに戦える自信はあったのだ。
 一度、決まったと思った一刀があった。まだミナトがハルカの太刀筋に慣れていなかった時の話だ。
 だが、それが当たる事はなかった。前世から培った経験による『確信』を外すなど、ハルカにとって初めての事であった。
 それから、ハルカに火がついた。
 組手の目標を『得意の時空間忍術を使わせる事』に引き上げたのだ。
 しかし、その目標がまだ成されていない事実に、ハルカは内心、愕然としていた。
 これはない。
 いくら幼い体で4年のブランクがあるとは言え、本来なら自分より年下の男に良いようにあしらわれるなど、自分のプライドが許さない。

 ハルカは自分の判断ミスに気づいていなかった。
 "次期火影相手に組手が数十分も続いている"という事実が驚くべき事だと気づいていないのだ。更に言えば、ハルカが当たり前のように使った『性質変化』や『形態変化』は、本来4歳児が使えるような技術ではない。
 もちろん、ハルカとて『普通の子供』が使える技術ではない事は解っていた。しかし、所謂『天才』の部類ならこれぐらいこなすだろう、と予想した事が悪かった。
 天才路線で進めよう、と決断した事それ自体に間違いは無かったのだ。下手に実力を誤魔化そうとして失敗するより、初めから晒してしまったほうが良い。それは間違いない。演技が上手なわけでもないのだから尚更だ。
 ―――現在進行形で晒し続けている戦闘技術は、どんな天才でも独学では習得できない。
 その一点を見誤ったのが間違いだ。

 突然、ミナトの姿が視界から消える。
 "どこに行った"と思う前に、ハルカの体は地面に押さえつけられていた。

「ん! オレの勝ちだね」
「………参りました」

 立ち上がって向き合い、和解の印を結ぶ。
 そして、父に頭を下げた。
 悔しい。

「ありがとうございました」
「どういたしまして」

 ニコッと屈託なく笑う父に困惑する。
 やりづらい。
 変なプライドが融解していくのがわかる。

「予想より強くてびっくりしたよ。ハルカは誰かに修行をつけてもらったりしたのかい?」
「いや、別に……。ああでも、家にある巻き物はいくつか読んだよ」

 これは、前々から用意していた言い訳だ。
 今使った技術が載っている巻き物が、家に保管されているのは確認済みである。

「さて、反省会だよ。まずは良かった点から」

 両脇の下に手を入れられ、持ち上げられる。公園でよく見る、『たかいたかい』の格好だ。
 脇の下という急所に触れられる事にびくりと体を震わせたものの、危険はない事に安堵して力を抜いた。

「修行、よく頑張ったね。こつこつ努力した事がわかる動きだったよ」
「!」

 体が小さいので、簡単に抱き上げられる。片腕で支えられながら頭を撫でられれば、顔に熱が集まるのが解った。
 恥ずかしい。
 優しく笑う父は、本当に嬉しそうだ。

「体術と剣術の合わせ技には、慣れるまでにかなり時間がかかった。あの形態変化もすぐにはできなかったよね。ちゃんと修行した証だよ」
「う、うん。頑張った」
「クナイや手裏剣の使い方も解ってたね。忍術を使わない勝負には、戦略を組み入れる事が難しい。だから忍具を使わない人が多いけど、ハルカは忍具の重要性が解ってた。これは凄い事だよ」
「ありがとう………」

 ここまで自分の努力が認められた事は、今までなかった。それは前世でも。
 気を抜くと緩みそうになる頬が恨めしい。
 父は「まずは良かった点」と言った。つまり、これから「悪かった点」を言われるという事だ。それらを差し引いても、嬉しかったのだ。

 ゆっくりと地面に下ろされる。
 ポンポンと撫でられる頭が熱い。

「じゃ、次は悪かった点だね。んーと、自分ではどこだと思った?」
「途中、勝負を焦った。あとは……体格差を考慮しない策が多かった事、かな」
「正解だよ。付け加えるなら、最後の最後、オレの『飛雷神の術』への警戒が甘かった事だね」
「わかった。気をつけるよ」
「ん! 良い返事だ」

 また頭を撫でられる。
 これは癖なのだろうか。

「次は………そうだね。チャクラコントロールは問題なさそうだから、巻き物に載ってない術を教えてあげようか」

 それは願ってもない。
 今の自分に必要なのは術の知識だ。時代が流れ、新しい術も多く開発されたはずだが、子供であるハルカにはそれを仕入れる手段が限られる。
 それに、あの術は昔見た事がある。
 "千手扉間"が好んで使っていた忍術だ。違う時空間忍術の可能性もあるが、ハルカはほぼ間違いないと見ている。

「あの、父さん」
「何だい?」
「さっき父さんが使った術を教えてほしい。すぐにできるようなものじゃないのは解ってるけど、数年後に出来るようになるかもしれないから」
「そっか。じゃあ、『飛雷神の術』からやってみようか」

 組手のラスト、父が背後に突然現れる事ができたのは、予めハルカの背中に"マーキング"していたからであった。
 体に術が施された事に気づかなかった失態に、ハルカはショックを受ける。戦から離れて鈍ったとしか思えない。
 だが、今それを言っても詮無き事だ。
 だらだらと反省を続けるのではなく、早く以前の状態に戻す事こそが重要なのだ。
 過剰な反省や後悔は時間の無駄である。

 そして、数時間後。

「ハア、ハア……っ」

 『飛雷神の術』は一朝一夕で習得できるものではなかったようだ。息抜きとして『螺旋丸』という術を教えてもらったが、これのほうが早く習得できる気がする。
 元々、形態変化はハルカの十八番オハコだ。地道な修行を重ねれば、数週間後には実戦レベルにもっていけるだろう。第一段階の"回転"はクリアしたから、あとは第二段階の"威力"と第三段階の"圧縮"だ。とは言っても、第二段階はほとんどできている。
 『飛雷神の術』は、マーキングした後に少し休憩を挟めば、半径5m以内なら飛べるようになったのだが、その後には気持ち悪くなり、吐いてしまう事もある。簡潔に言うと、まだまだ、という評価しか付けようがない。
 そもそも、術の合間に休憩を必要としている時点で、実戦では使えない。飛んだ後の体勢制御にも課題が残る。一回一回、地面に転がっているようでは落第点だ。

 納得できない状態のまま、夜ごはんの時間、つまり修行の終わりが来てしまった。
 次に教われるのがいつになるか解らないこの状況では、どちらも形にできなかったのは痛い。
 昔だったら説教ものだ。

「ん! そろそろ終わりにして帰ろうか。焦っても習得速度は変わらないからね」
「……わかった」
「飛ぶよ。掴まって」

 行きと同じく、父の傍に立つ。
 視界が、森から玄関へ。
 "掴まって"と言った次の瞬間には変わる景色。
 わざわざ術を使って移動して、誰にも見られないように配慮していたのか、と今さらながら気づく。
 同時に湧き上がる不安。
 "黄色い閃光の子供"という肩書きは、そこまで警戒しなければならないものなのか。

「ただいまクシナ」
「ただいま母さん」
「おかえりってばね。夜ごはんは肉じゃがよ! でも、まずはお風呂に入ってくるってばね」
「わかった」

 ドロドロの服を洗濯機に放り込み、箪笥たんすから新しい服を引っ張り出す。術を発動する度に砂に塗れたせいで、久方ぶりに服が土色に染まった。
 手早く髪と体を洗い、湯気の出る温かいお湯が張った湯船に体を滑り込ませる。綺麗なシャワーと湯船に、時代の流れを感じた。
 少し温まると、すぐにお風呂を出た。
 昔からの癖で、お風呂に時間はかけられない。暗器の一つも忍ばせておけないような"裸"は、不安で仕方がないのだ。

「上がったよ母さん」
「じゃあ、ご飯にしましょうか!」
「クシナ、お箸とって」
「はいはい」

 その後は、特に何もなく寝た。
 寝る前には『飛雷神の術』と『螺旋丸』についてしっかり復習して、覚えている事すべてを巻き物に記した。この巻き物は、ハルカの血が無ければ開かないようになっている。
 今日は1日が楽しかった。
 もし叶うなら、こんな日々が続けばいい。
 その為にも、明日からはもっと素直になろう。

「ハルカは寝たってばね。それで、ミナト。修行はどうだったの?」
「……天才、だね。ダンゾウ様が目をつける理由も解った気がするよ」
「そんなに!?」
「うん。"性質変化"と"形態変化"の技術は上忍クラスだ。まだチャクラ量は少ないけど、それをカバーできるだけのものを持っている。チャクラは修行で増やせるしね」
「………心配だってばね。全部自分でやろうとしたりしないように、ちゃんと見ておかないと」
「ん! それは大丈夫だよ。あの子は自分の手が届く範囲をよく解ってる。自分に才能がある自覚がないのが少し不安だけどね」
「じゃあ、私達は上層部からあの子を守らないとってばね!」
「そうだね、クシナ」


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