■唯一の友に捧ぐ
追憶の旅、その最後の地。
邪竜の影を斃してからよく晴れるようになったクルザスは、今日も快晴だった。
白い息を吐き出しながら、お墓に祈りを捧げる。
彼を喪った直後は立ち寄ることすら苦痛だったキャンプ・ドラゴンヘッドも、今では静かな気持ちで訪れることができるようになった。少し前まで、主を失った席を見る度にあの時の光景を思い出して、しばらく疎遠になってしまっていたのだ。
立ち上がり、膝に付いた雪を払う。伸びをしながら、肺いっぱいに空気を吸い込んだ。肺が痛む程に冷たい、澄んだ空気が体に染み渡る。
本当に、色々あったものだ。ウルダハのゴタゴタでは、政治の世界はこれだから関わりたくないんだと幾度思ったことか。
そんな中で、『雪の家』だと、『帰る場所』だと言ってくれて、私達が……私が、どれだけ救われたか。
初めてできた『友』だった。光の戦士でも、英雄でもなく、『私』を見てくれた唯一の人だった。あれから、寝る前にホットミルクを飲むようになったと知ったら、貴方はなんと言うだろうか。
イシュガルドに入ってからはお互いに忙しくて、最後に酒を酌み交わしたのはいつだったろう。もう随分と前な気がする。
伝えたかったことがたくさんある。恩もまだ返せていない。語り合いたいこともある。話したいことがある。私の冒険譚を聞いてほしい。貴方のことも聞かせてほしい。
でも、まあ、何だかんだと伝わっていたとは思う。私が助けてほしいときには来てくれたし、ヤケ酒にも付き合ってくれた。
蒼天のその上で待っていてほしい。老衰なんか望めない生活をしているんだから、私もきっといつか死ぬ。その時には、たくさん話そう。これからも、貴方が好きそうな冒険譚は増え続けるだろうから。
ふと、視界の端に、風で舞い上がる手紙らしきものが見えた。手紙はどんどん空に吸い上げられていく。
何故かはわからないが、その手紙の先で、彼が笑っている気がした。