Dream Factory
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ひざまくら

 360度に広がる水平線。その中にぽつんと浮かぶモビー。小さいころ親父さんに拾われて、もう何年経ったのだろう。最初は世界で一人ぼっちな気がして好きになれなかった光景も、今ではすっかり見慣れてしまった。
 偉大なる航路グランドライン―――特に新世界の海は機嫌がころころ変わるし、身の程知らずが攻めて来たりと大変だけど、この生活は楽しい。
 私に割り当てられた仕事が終わり、甲板でモビーに背を預けて、末っ子エースが追いかけられているのを見守る。今回は何をやらかしたのか、サッチの髪が爆発していた。

「悪かったって、サッチ!」
「エース、これで何度目だてめぇ! 今日の晩メシは抜きだ!」
「え〜〜〜!!」

 海賊船とは思えない平和な光景に、思わず笑みがこぼれる。皆なんだかんだ言って、末っ子が可愛くてしょうがないらしい。本当にご飯が抜かれたことはそんなにないし、抜かれても皆こっそりあげているのだ。曰く『可哀想になってくる』とのこと。
 そんな息子たちの姿を見て、目を細めグラララと笑う親父さん。我らが一番隊の隊長であらせられるマルコも、その横で呆れていた。書類を手に持っているから、マルコはまだ仕事中なのだろう。
 どこを見るわけでもなく景色を眺めていると、「紗良!」とマルコが私を呼ぶ声が聞こえた。自主練中の隊員を避けつつ、「何?」と返しながら近くに寄ると、どうやら次の島への偵察に一緒に出てほしいらしい。

「別にいいけど、今から?」
「ああ。今日は向こうで泊まる予定だよい」
「わかった。ちょっと準備してくるから待ってて」
「助かるよい。次の島は冬島だからコート持って来いよい」
「オッケー」

 小走りくらいの速さで部屋に戻る。私は性別上の配慮から、2人部屋を与えられている。相方とは仲が良い方だし、男たちみたいに4人も6人も詰め込まれていないから快適と言えた。
 待たせるのは悪いので、手早く準備する。準備と言っても、防寒着と電伝虫をカバンに詰めて、少々のお金を持ったらほぼ完了だ。親父さんと隊長たちのビブルカードは常に持ち歩いているから問題はない。ついでに言えば、偵察中の必要経費は隊費から出るので、お金は用心のためでしかない。
 防寒着で膨れたカバンを背負い甲板へ出ると、もうマルコが待っていた。

「お待たせ」
「気にするなよい。捕まれ」

 ボウッと青い炎が吹き出し、マルコが不死鳥の姿になる。眠そうな半眼の顔をして、早く乗れとばかりに嘴をくいと動かした。私がマルコの体を跨ぎ、親父さんに手を振ってから出発する。
 ここから島までの距離は、不死鳥のスピードで約半日。今は昼過ぎだから、着くのは日が沈んだ後になるだろう。
 島に着いたら、まず宿を取る。次にマルコが酒場で『そういう女性』を相手に情報を収集し、私が物価や治安などを調べる。この時点で問題があったら、モビーに連絡した後、すぐに引き返すことになる。肉体的にも精神的にもしんどいので、あまりそうなってほしくないが。
 いつもの通り、半日もぼーっとしておくのはしんどいので、「おやすみ」と一言呟いてから目を閉じた―――のだが。

「……何よ」
「………」

 ぐん、と急に高度を下げられて、内蔵が浮かび上がるような感覚に襲われた。

「今日は起きてろよい」
「暇なんだけど」
「いいから」

 はあ、と溜め息をついて、大人しく島が見えてくるのを待った。
 やっと着いたと思ったときには、もうすっかり夜の帳が降り切っていて。ここからもう更に6時間は働かなければならないと思うと気が滅入る。
 さっさと終わらせてしまおうと足を踏み出したところで、マルコから「待て」と声がかかった。

「もう、宿は取ってあるんだよい」
「はい?」
「この前、ここに飛んだことがあってな」

 そう言えば、確かにマルコの居場所がわからない日が何回かあった。親父さんの用事でも済ませているのだと思っていたけど、ここもそれで来たことがあるのだろうか。
 だけど、それなら何故、今日ここに来る必要があったのだろうか。治安も物価もわかっているなら、明日でも良かったはずだ。これじゃあ、酒場を貸し切るくらいしかやることがない。

「あー、その、何だ」
「………」
「親父から、休めって言われてよい。モビーが来るまで、この島でバカンスを楽しんで来いって言われちまってねい」
「それ、私に関係あるの? 余計な荷物が増えただけなんじゃないの」

 私は海を自力で渡れないのだから。

「と、とりあえず、宿に行くよい!」
「いいけど……」

 ずんずんと大股で通りを歩いていくマルコ。遅れないように付いて行くと、右側に立派な建物が見えてきた。
 マルコが何の躊躇いも見せずに中に入っていったので、「うそ、ここ!?」と小声で問いただしながら受付まで進む。
 本当に予約していたらしく、名前を名乗るとスムーズに部屋まで通された。ふかふかのカーペットに足音が吸い込まれ、落ち着かない。部屋には大きめのベッドがあるが、1つだけだ。恋仲でもない男女が同衾するなんて……!
 何の問題もないと言うかのように、ずんずんと部屋の奥に進んでいくマルコ。
 どれだけ文句を言っても「よいよい」で済ますマルコの手から自分の荷物を死守して、何とか別の宿に行こうと出口に向き直る。が、伸びてきた手に袖を掴まれ、中に連行された。

「……来いよい」
「えっと、その……どうしたの?」

 明らかに様子がおかしい。今まで同じ部屋に泊まったことなんてないのに、何でいきなり―――。

「うん、いきなり、だね。それで寝るの?」
「………」

 ボボッと青い炎を出して、マルコが不死鳥の姿をとる。しかも、ベッドの上で。鳥、とは言うものの、元は成人男性なので、かなりの面積を占領されていることになる。……私はソファーで寝ればいいのだろうか。
 くい、と嘴を動かして私を呼ぶマルコ。
 一晩中そのままで居てくれるなら、別に同じベッドでもいいかもしれない、なんて。普段なら絶対に考えないことを思ったのは、場の雰囲気のせいだ。

「お、お邪魔しまーす」
「………」

 不死鳥に触れないようにして、端で丸くなる。もう諦めて寝てしまえ。お風呂にも入ってないけど。
 目を閉じた瞬間、ぐいっとマルコに引き寄せられる。え、と声に出す間もなく、不死鳥の羽に頭を預ける体勢になる。「どういうつもり?」と問いかけてみるも、眠そうな半眼でじと、と見られるのみだ。

「ああ、もう……」

 安定するように体勢を整え、不死鳥のふかふかの羽を枕にして、諦観の境地で目を閉じる。



ひざまくらじゃなくて羽まくら


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