頭の天辺から爪先まで、すっかりずぶ濡れになって、わたしは一体何をしているんだろう。行く宛も無ければ、傘も無い。トボトボと歩くわたしの足音は雨音に消されることなく、日が暮れて一層人気のない路地に大きく響くように思えて仕方ない。

勢いに任せてドアを開けたとき、そこで止まらなかったことを後悔した。 雨が降ってることも知っていたけど、傘を取りに行くのはなんだか間抜けな気がしてそのまま飛び出した、そんなくだらない負けず嫌いを呪った。いつだってそうだ。子供なわたしと、大人なクロコダイルさん。さっきだって、あんな小さなことにムキになったりして、わたしはなんて子供だったんだろう。怒っていた理由なんて、途中からどうでもよくなっていて、些細な事にわあわあと騒ぐ幼稚さにイライラしていたんだ。それに気が付いたら、幼い自分が途端に恥ずかしくなって、飛び出していた。

雨は冷たくて、頭に上っていた血もすっかり引いた。今はただただ悲しくて、寒くて、早く抱き締めてほしかった。でも、どんな顔して帰れば良いの?ごめんなさいって言えば済む話だっていうのはわかってるけど、そんな素直さは持ち合わせていない。ねえ、だから迎えに来て!

「ここにいたのか」
「…なんで来たの」

せっかく来てくれたのに、すごくすごく嬉しいのに、わたしの口からは可愛くない言葉。目を見れない。睫毛の先をぽたぽた滴る雨が、補整されてない道に出来た大きな水溜まりへと落ちて融けるのを見詰めていた。

「どっかのガキが泣いてるらしい」

そう言って、俯いた顔に張り付いた髪を大きな右手が払ってくれる。

「家にまで聞こえてきて余りに煩ェから、黙らせてやろうと思ってな」
「泣いてなんかないし」

憎まれ口は、わたしを覆った真っ黒なコートの中で小さくくぐもった。雨を吸い込んで萎れた毛皮の下、クロコダイルさんの大きな体に、小さなわたしなんか、いとも容易く包み込まれてしまう。見上げれば、いつも綺麗に撫で付けられている彼の髪が、すこし乱れていた。そんな崩れた髪型でもかっこいいよ、なんて言ってあげない。

「雨は嫌いなんじゃないの」
「あァ。だが、傘の在りかがわからねェ。帰ったら教えろ」
「しょうがないなぁ」

もたれ掛かれば、クハハ、とクロコダイルさんは満足そうに笑った。なんだかまた、大人の余裕に負けた気がしてちょっと悔しい気もするけれど、でも、それも悪くない、なんて今は思う。

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