ミスユーガール 苦しい。 たまに、昔の夢を見ると寂しくなる。寂しくなると、苦しくなる。息の仕方を忘れてしまう。吸ってから吐くのか、吐いてから吸うのか。どうやって吸うのか。どうやって吐くのか。忘れてしまう。分からない。考えれば考えるほどわからなくなる。どうにも上手くできない。 その日も昔の夢を見た。両親が揃っていた時の夢だ。母も父も笑っていた。真ん中にいる私も、笑っていた。お母さんは朝食を作っていて、私とお父さんはそれを待ってる。暖かい部屋の中で、優しくて美味しそうな匂いに満ちていた。昔の私が笑っていると苦しくなる。今の私が不幸みたいだ。とても寂しくて、虚しくて、苦しくなる。慣れたはずの感覚は、最近またぶり返していた。 「やだ、な……」 覚束ない足でリビングに向かう。時計はもう8時を回っている。もしかしたら、彼は先に起きているかもしれない。 ドアを開けると、懐かしい匂いがした。喉の奥がギュッと締め付けられた。また、苦しい。 リビングの中を見回し、いるはずの姿を探る。 ちょうどピアノの前に、長身の影が佇んでいた。そちらへと足を運ぶ。 「おはようございます、name」 「……おはよう、ございます」 「二日酔いですか」 「昨日は、少ししか飲んでないです」 ぽすっとその広い背中に頭突きする。頬にスペアミントの髪が触れた。懐かしい匂いに混じって、違う匂いが鼻孔を満たす。縋りつくように、手のひらでその背中に深い皺を刻んだ。頬や額に感じる彼の体温に、体が弛緩する。 「どうかしたのですか」 「……」 「……仕様のない」 「……」 吐息混じりの声が零れ落ちた。その言葉に手のひらに力を込める。離すまいと顔を押し付けた。すると彼は身を捻ろうとする。負けじと力を入れた。 「離しなさい」 「……」 「いつまでも立ち尽くしているのは疲れるでしょう」 「……」 「name」 「!」 無理やり引き剥がされ、何だか泣きそうになった。考え過ぎなのは分かる。しかしどうにも、拒絶されるのは辛い。しかし離れた彼により、すぐに頭を撫でられた。顔を上げると、苦笑を浮かべた彼の顔があった。 ゆっくりとソファーへと向かう背中を目で追う。座るなり、手招きをする彼のそばに小走りで寄った。そして辿り着くなり迷わずその体幹に身を寄せる。 「恐い夢でも見ましたか」 「……逆です」 「? では、幸せな夢」 「昔を思うと、寂しくなるものです」 「今が不服ですか」 「そんなんじゃ」 「私が不服ですか」 *** ここで挫折。 |