星を看る人
「ねえねえ、空、すごいよ!」
私はあてがわれた客室を離れ、シエルの寝室で窓に張り付いていた。
歪んだ硝子の向こうに、満点の星空と、いつもより大きな満月。
「一緒に見ようよ!」
「……早く部屋に帰れ、アリス。」
シエルはベッドに入り、上体を起こして本を読んでいた。
「今日の空は本当にすごいから、一緒に見ようよ!」
「空なんて、いつでも見れるだろ。」
「それなら、本だっていつでも読めるじゃない。」
私が言い返すと、シエルは黙って本を閉じた。
「寝る。部屋へ戻れ。」
「嫌だ、シエルと星が見たいの。」
私は窓に張り付いたまま離れる気はなかった。
一緒に星を見るまで、絶対に離れない。
「おい。」
ベッドから起き上がったシエルが、私の肩を掴んだ。
その手の上から、私は自分の手をそっと重ねる。
「月が大きくて、きれいなの。今日は星も、いつもよりたくさん見えるの。」
「だから、何だ?」
肩に置かれた手を離して、私はシエルを振り返る。
そして、そっとキスをした。
「星の光って、すごい時間を掛けて見えてるんだって。だから、もしかしたら、今見えてる光は、もう死んじゃった星かもしれないの。」
私の話の真意を探ろうとするその表情に、また惚れ直す。
「ね、シエル。」
今度はシエルをぎゅっと抱き締めた。
「シエルは私にとって、星みたいにきらきらしてるの。」
腕の中のぬくもりが愛しくてたまらない。
大好き、すごく大好きなの。
シエルは、私にとって、たったひとつのお星さま。
「だからね、私はシエルのきらきらを、最後まで側で見てるよ。」
シエルの腕が、私の背中に回される。
「星を、看るの。……だから、ね、一緒に――。」
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