IML


少女達は一度病院に運び込んだ後に、孤児院に引き取られるようだ。

「ああ、後味悪い。」

私は自室に戻ると、思い切り頭を振った。
まだ耳の奥で、あの悲鳴の合唱が響いている気がしたのだ。

こんな日は早く寝てしまうに限る。

着ていた服を脱ぎ捨てると、そのままベッドに潜り込んだ。
抱き枕を思い切り抱き締めても、胸のもやもやは消えなかった。

「シエル様は、優しいと思うんだけどな。」

紺色のリボンを指で撫でた。
檻の中の少女を見た時、シエル様の目の色が変わった事だけは覚えている。
檻に、それとも少女に、何か思い入れがあったのだろうか。
聞いてみたい気もしたけれど、そんな無粋な事、できる訳もない。
いつか話してくれるだろうか。
彼の持ち駒の中でも、強い駒になれば。

それとも、セバスチャンさんに?

それも間違えている気がする。
このもやもやした気持ちをどうしたら良いのか分からなくて、もどかしい。
早く朝になって、仕事でもして忘れてしまいたい。

そんな日に限って、夜は長いのだ。

瞼を閉じると、少女達の悲鳴が聞こえるようで眠れない。
ベッドから這い出ると、メイド服に着替えて、裏口から屋敷の外へ出た。
屋敷の裏手から、表へ回り込むところで、思わぬ人に会った。

「あれ、セバスチャンさん……。」

「おや、アリスさん。」

セバスチャンさんはしゃがみ込んで手を伸ばしていた。
その先には、猫がいた。

「猫、お好きなんですか。」

「ええ、猫は素晴らしく美しい生き物です。」

「かわいいですよね、猫。」

「アリスさんも猫好きですか。」

「はい、割と。」

その猫はセバスチャンさんにとても懐いている様子で、かざした掌に思い切り頭を擦りつけている。

「坊ちゃんは猫アレルギーですから、これは内緒ですよ。」

唇に指を当てながら、セバスチャンさんは笑って見せた。

「アリスさんは、今夜は眠らないんですか?」

「あんまりいい心地がしなくて、眠る気がしないんです。」

「アリスさんは、本当に悪魔とは思えない。その力以外は。」

「ずっと、何百年も人間と一緒に、人間のように暮らしてきたからですかね?」

猫はセバスチャンさんに撫でられるまま、転がってみせる。
可愛らしい。

「でも、その人間らしさが、アリスさんの強みでもあると思いますよ。」

「そうですかね?」

「……ええ。私は、そんな悪魔がいてもいいと思います。」

転がる猫を更に撫でると、突然猫は起き上がって、セバスチャンさんの手を引っ掻いた。

「ああ、すみません、気分を害してしまいましたね……。」

猫はそのまま、夜の庭を駆け抜けていった。

「女王の番犬だって、人間ですから。脆弱で儚い生き物ですから。」

「さあ、そろそろ冷えてきましたし、屋敷に戻りましょう。くれぐれも、今夜の事はご内密に。」

念を押しながら、セバスチャンさんは立ち上がる。
歩き出した彼の背中を、私はのろのろと追いかけた。
彼の言った意味を考えながら。


FRAGILE



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