Darkwave Surfer


少女を詰めた檻を挟んで、シエル様と白衣の男は対峙していた。
といっても、白衣の男は無邪気に商売をしているだけだった。

「これ、は、人だよな。人身売買は禁じているはずだが?」

「まさか!これは人じゃない、人を超えた機械ですよ。」

白衣の男は、次第に饒舌になる。

「サヴァン症候群の少女達を電極で繋いでいる、これはつまり超速計算機ですよ。」

「サヴァン症候群、だと?」

その名前は聞いたことがあった。
カレンダー計算のできる者、並外れた暗記力のある者、一度聞いた音楽を完璧に弾きこなす者。
その他、様々な能力で秀でたギフトをもらった人間のことだ。

「彼女達の頭を繋ぐ事で、その計算能力はより素晴らしいものになる。あとは筆記の彼女が紙にアウトプットする仕組みなんです。」

「最悪だな。」

シエル様の顔が歪む。

「いつも素材を探すのが大変なんです。基本は受注生産なんですよ。今回もブラウンズバーグ男爵の注文を受けてから、最高の素材を探し当てたんです。」

「わ、私の……少女達……。」

虫けらのように転がるブラウンズバーグ男爵が、唸るようにして呟いた。

「気色悪い。」

思わず口をついて出てしまう。
気色が悪い。
こんなものを作るバカも、こんなものを欲しがるバカも。
人間は時に悪魔よりも醜悪で残酷だ。

「貴様を殺して、彼女達を解放する。」

「私を、殺しますか。」

白衣の男はそれまでの笑顔が嘘のように無表情になった。

「お前達、計算だ!私はどうすれば殺されず、ここから脱出できるか?」

白衣の男が叫んだ。
それを合図に、少女達は小さなうめき声を上げる。
口に布を噛ませてあるため、くぐもった小さな悲鳴に聞こえた。

筆記係の少女が、ペンを凄まじい速さで走らせる。
白衣の男がその紙を覗き込んだ。

「おい、計算が遅いじゃないか!」

白衣の男が檻を蹴り飛ばす。
少女達の悲鳴は次第に明確になっていく。
4つの悲鳴が折り重なって、絶望的な音楽を奏でる。
思わず耳を塞ぎたくなるけれど、塞ぐこともできないような切なさが胸にこみ上げる。

少女達の口に噛ませてある布が、じわじわと赤色に染まり始める。

「おい!セバスチャン、止めさせろ!」

「おい、どういう事だ!相手はガキと男と女3人だけだろう?」

彼の覗き込む紙面には、絶望的な事しか書かれていないのだろう。
セバスチャンさんが白衣の男の腕をねじり上げた。

「ガキと、男と、女?人間ならすぐに計算が終わっただろうな。早く、無駄な計算を止めろ!」

そう、彼女達は知っている。
分かって計算をしている。
人間と、悪魔2匹からどう逃げおおせるかを。

「この機械は、計算を終えるまで止まらないよ。ハハッ、ハハハッ!」

白衣の男が、セバスチャンさんと私を交互に見た。
少女のうちの一人が、ひときわ大きな悲鳴を上げると、がくんと首から力が抜けたように俯いた。
それに続くようにもう一人、もう一人、次々と俯いて悲鳴を止める。
最後に筆記係の少女が、咥えた布では吸いきれない程の血液を吐き出して、筆記を止めた。

シエル様は檻に近付くと、彼女が落とした紙を拾い上げた。

「計算は合ってるじゃないか。お前は僕達から逃げ出せない。ここで死ぬだけだ。」

その紙を白衣の男の目の前にかざして見せる。

「あ、くま、だと……?悪魔?悪魔!悪魔!」

白衣の男は私とセバスチャンさん、そしてシエル様を見て叫ぶ。

「教えてやろう。悪魔は実際にここにいる。ご自慢の計算機はちゃんと仕事をしたのに、残念だったな、望んだ結果が出ずに。」

「悪魔……。」

「さようならだ。」

セバスチャンさんはねじり上げた腕を更にねじると、白衣の男の腕を折った。
そして、その頭をゴミのように踏みつけた。
奇妙な悲鳴が聞こえた気がしたが、私の耳には、まだ、先ほどまでの悲鳴が反響していた。

「おい、アリス、何を呆けて突っ立ってる。」

「あ、す、すみません……!」

ブラウンズバーグ男爵を蹴り転がすと、檻の柱を曲げて開いた。
彼女達の目隠しと噛ませた布を外していく。

「大丈夫、息はあります。」

「坊ちゃん、彼女達はどうされるんですか?」

彼女達がヤードに引き渡されたとして、十分な証言も出来ぬまま野放しにされてしまうだろう。
生きる力の弱い彼女達が、そのまま今よりも酷い状態になることは容易に想像ができた。

「寄付をしている孤児院があるだろう。あれだけ寄付金を遣っているんだ、そこに引き取らせる。」

「お優しいんですね、シエル様は。」

彼女達の拘束を全て外し、檻の外へ運び出す。

「僕は優しくなんかない。」

シエル様はそう言うと、先に倉庫から出て行った。

「私、何かまずい事言っちゃいました?」

「いいえ。アリスさんは何も間違えていませんよ。」

セバスチャンさんはにこりと笑うと、シエル様の後を追って出て行った。
私は彼女達を両肩に担いで、その後を追った。


FRAGILE



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