再会
しばらく歩いていたら、ぐらりと視界が歪んだ気がした。
脳裏に、人の姿が浮かぶ。
俺は、こいつを知っている。
小学校低学年の時、学校の帰り道によく行った場所を思い出した。
最初にその場所に行ったときも同じように急に視界が歪んだ。
直ぐに歪む視界は元に戻る。
だけど俺はそのまま家に帰らなかった。
確かあの時は次の曲がり角を右に曲がる。
その次を右。次は左。そして壁に大きめのポスターが貼ってある。
それを剥がすと穴があいていて、そこをくぐれば……。

「廃ビルがある」

目の前には、あの時と変わらない崩れまくった廃ビルがあった。

「久しぶりなのに、ちっとも変わってないだろ?」

声が聞こえた。
男の人の声、すごく懐かしく感じた。

「久しぶり、七紫。元気そうでなによりだ」

俺は、崩壊したビルの入口の所に座る少年を見る。

「久しぶり、名前覚えててくれたんだな」
「まあな。あ、アリス様がお呼びだぜ?」

目の前の少年は立ち上がり、建物の中を指差す。

「アリス様って?」
「わからない。俺もさっき此処に久しぶりに来たくなって来てみたらビルの中にいてさ、意味不明なこと言われた」
「意味不明なこと?」
「ああ。ま、詳しくはアリス様に聞くといい。聞いた後に俺と同意見になれば、また明日な」

そう言って少年は去っていった。
彼の名前は、篠原咲良。
最初に出会ったのは、小学校低学年の時に此処でだった。
どちらが此処を秘密基地にするかで喧嘩したりしたのを覚えてる。
まあそんな思い出に浸ってる場合じゃない。
アリスって一体何だろう。
俺は建物に足を踏み入れた。
ゾワッ…寒気がした。

「七紫」
「!?」

女の人の声が聞こえた。
ビルの奥の方からだった。
俺は恐る恐る一歩ずつ奥へと進んで行く。
くらりとさっきとは違う感覚で目眩がした。
ドクンドクンと自分の心臓の音が煩い。
何故こんなにも俺は緊張しているのだろうか。
ただ名前を呼ばれただけだ。
俺の名前を呼んだ主の姿を見る為に奥にむかって歩いているだけなのに…。

(なんだってんだよ……!)

ダンッ、と力強く足で床を一回叩く。
音が反響する。
俺は一度深呼吸をする。
再び奥へ進もうとしたら、後ろから手が伸びてきた。

「七紫、遅すぎる」

手は俺の首にナイフを突き付けた。

「……君がアリス様?」

そう聞けは、後ろにいる人物から小さな笑い声が聞こえた。

「残念ながら私はアリスって名前じゃない。さっきいた、えーっと…名前は……」
「篠原?」
「そう。篠原が勝手に言ってただけ。私は、ルーナ・ラズルシェーニエ」
「ルーナ・ラズしぇ……?」
「略してルナでいい。私もわざわざこんな長い名前じゃなくていいと思うから」

スッ…とルナは俺から離れる。
そしてナイフを俺に渡してきた。

「チョコだから食べていいよ」
「……ありがとう」

本物かと思ったナイフは確かにチョコだった。
でも、それはいいとして、俺はルナと名乗った人物を見る。
俺の金髪より明るい色の髪。青い目。青と白が印象的な服装。
確かに見た感じ、アリスと呼びたくなるのはわかる。

「七紫、後悔しないのなら明日ここに来て」
「……なんで」
「面白いものが見れる。だから、絶対…何があっても後悔しないのなら来なさい」

ルナはそう言って、近くにあった廃ビルには似合わない椅子に腰掛けた。

「明日来たら、何がある?」
「変わるのよ。世界が」
「世界が変わる?」
「詳しいことは明日のお楽しみ。七紫はこの世界に満足してる?してるのなら此処に来ないことをオススメするよ。だけど、この世界を退屈なものだと認識するのなら来ればいい。以上。話は終わり。早く帰りなさい。もうすぐ君の愛しい幼なじみさんが探しに来てしまう」
「相原のことも知ってるのか?」
「ノーコメント。もう会わないかもしれない人間に教える必要はない。明日ここに来るなら、多分その謎は解けるけどね。それじゃあ七紫、さようなら」

ルナは俺に手を振りながら微笑んだ。
それだけは覚えてる。
だけど、どうやって帰ったか分からない。
気がつけば俺は家の前にいた。

「………夢、なわけないよな…?」

そう呟いてから、俺は家の中へ入っていった。
明日行けば全てが分かるのだろうか。
でも、行ってみるかなと考える度に、意味深に告げられた[後悔しないのなら]って言葉が頭を過ぎる。
どうすればいいのだろうか。
俺は行っても後悔せずにいられるだろうか。

「……後悔すること、か…」

後悔とかそんな先のことを考えるよりも、俺はいま、もしかしたら俺の日常になかったことが起こるのではないかと期待していた。
あれだけ望んでいたんだ、もしかしたら神様とかが聞き入れてくれたのかもしれない。
だとしたら、俺は後悔なんてしないと思う。
非日常を手に入れる為には、多少の犠牲はつきものだ。
決心はついた。
もしも非日常が手に入らないとしても[面白いもの]が見れるというのなら、それはとても気になる。
だとしたら答えはひとつ。

明日俺はもう一度、あの場所へ行ってみる。







bkm
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