日常
不思議なこと、非日常を望むのは当たり前だと思う。
未知への好奇心は、仕方のないこと。
だって、世界は退屈すぎる。
自由に生きたいのに、不自由ばかり強制させられて、正直飽き飽きだ。
だからと言って、退屈な日常を過ごしている人達が漫画の主人公みたいに非日常が欲しいとか願って、それを神様とか魔法使いとかが一々聞き入れていたら、世界が非日常だらけになり、それが日常に変わりいってしまう気がする。
そうなると次は普通の日常が恋しくなる気がする。
無限ループだ。意味がない。
つまり、俺達はこの不自由で退屈な日常を生が続く限り生き続けなければならないわけだ。

「七紫」

名前を呼ばれた気がした。
俺は足を止めて顔をあげる。
目の前に、漆黒の長い髪を靡かせる少女が立っていた。
彼女は、俺の幼なじみの相原優姫。

「どうした?相原」
「いま帰り?」
「見てわからない?学校終わったし、俺部活やってないから帰りだよ」
「そ、そうよね。当たり前のこと聞いてごめん」
「べつに謝る必要は…」

俺は言いかけてやめる。
目の前にいる相原の様子がいつもと違うのに気付いたからだ。
なぜか深呼吸を繰り返している。
意味が分からなかった。
相原は左手を広げて右手の人差し指で何か書いていた。
確か、緊張した時に手の平に人って書いて飲み込むと……という話を聞いたことがある。
そう思ってたら、相原は書いた文字を飲み込んだ。
こいつ、緊張してるのか?
緊張しているらしい様子の幼なじみに、俺は首を傾げる。
なんでこの場面で緊張する必要があるのだろうか。
ここは人通り少ないし、いまこの場にいるのは俺と相原だけだった。
幼なじみなんだし、今更気をつかう必要はない。
じゃあ、なぜ?
考えれば考えるほど疑問になるばかりだった。
頭上にクエスチョンマークを浮かべていると、相原と視線が合う。
相原の目は、何か決心したような目だった。

「七紫。あなたに言いたいことがあるの」
「言いたいこと……?」
「そう。私ね、あなたのことが……」

この続きの言葉は言わなくてもわかるだろう。
非日常を求めた矢先に、俺の日常ではありえないと思っていた光景が飛び込んできた。

「え……?」

突然の事で、一瞬思考がストップした。
情報の整理をしたうえでもう一度言おう。

「え……?ごめん、聞き間違えたかも。もう一度言ってくれるか?」
「だ・か・ら、あなたの事が好きなの!何度も言わせないでよ」

半ばやけくそのように言い切る相原に再び疑問が沸いて来る。
好き?相原が?俺を?

「七紫、返事は?」

俺の思考は、相原の言葉により遮られる。

「ちょっと待って。いま返事聞くの!?」
「当たり前でしょ。いま好きか嫌いかで答えればいいの。中途半端に期待させられるよりは、即答えてくれた方がいいわ」

確かに、返事を待ってる方は期待とか不安が大変かもしれない。
だからと言ってすぐに返事出来るわけがない。

「相原、あのさ…」
「私達……」
「え?」
「私達に、明日は無いかもしれないじゃない。だから…好きか嫌いかくらいは教えてよ」

明日は無い。
その言葉に、俺は一瞬……ほんの一瞬だけ、違和感を感じた。
確かに、明日生きてる確証はない。
だとしたら、今答えた方が良いのだろうか。
幼なじみの真剣な告白を、あっさり答えて良いのだろうか。

「七紫、返事は?」

真剣な表情で、相原は再び聞いてきた。

「……相原は好きだ。だけど多分友達としてなんだと思う」

これが返事だった。
幼なじみとして、今までずっと一緒にいた。
だから、他の女子と並べて考えるなら、俺は誰よりも相原が好きだ。
だけど、恋愛で考えるなら、それはやっぱり違うのだと思う。

「さすがね、七紫」

目の前にいる幼なじみは、微笑んだ。

「私の好きな七紫なら、そう答えると思った。だけど、やっぱりそっか……。私は、恋愛対象外だったか」
「……ごめん」
「謝る必要はないよ。ありがとう。真剣に考えてくれてうれしかった」

相原はそういいながら俺に背をむける。

「七紫、私帰るね」
「どうせ同じ道なんだから一緒に」
「あなたは本当バカね。私はフラれたんだよ。次に七紫にあった時にいつも通りでいられるように、一人で帰りたいの。今一緒に帰ったって気まずいんだから」

そう言って、幼なじみは一度振り返る。

「さよなら」

そう一言言い残し、相原は走ってその場を去っていった。

「相原……?」

今日の相原は全てがおかしかった。
何故わざわざこのタイミングで告白してきたのか。
どうしてすぐに返事を欲したのか。
明日という日が無いかもしれないと言ったのか。
いつものあいつなら、そんなのにこだわりはしないはず。
返事だって、待つだろうし……。

「……まあいいか」

色々な要素が胸にひっかかりまくったが、俺は全て気にしないことにした。
恋をすれば人は変わる。
漫画とかでよくある話じゃないか。
そういうことにして、俺は家まで残り5分くらいの道を歩こうと一歩踏み出した。




bkm
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