(side:土門)
「俺、お前が嫌い」

笑顔で言ってきた一之瀬に、今日は4月1日だったかな…と時計を確認
あれ、やっぱり3日だな

「エイプリールフールじゃないから」

日付くらい覚えておけよ、と笑って言う一之瀬

「……って、ことで…俺は帰るよ」

一之瀬がこちらに背を向けて歩いて行く

「待てよ、一之瀬……」

急に、こんな事言うなんて変だ
どうしたんだよ…

俺が一之瀬の手を掴む

「離せよ…土門……っ…」

一之瀬は相変わらず後ろを向いたままで顔は見えないが、声が震えてる

「……泣いてるのか?」

「………」

くるり、と一之瀬が振り返り俺に勢いよく突進……じゃなくて抱き着いてきた

「……俺…もう、サッカー…出来ないかもしれない…」

「え……?」

「…あと長くて1年で…死ぬって…」

「一之瀬……」

俺が、一之瀬を抱きしめる
腕の中で震えてる
よほど悲しいのか……

「いちの…」

「……っ、ははは」

急に一之瀬が笑い始めた
状況についていけないんだけど

「いやー、まさか土門が騙されてくれるなんてね」

「は?」

「冗談だよ、冗談!エイプリールフールに嘘つけなかったから」

4月1日は真面目に過ごしたんだから、今日はその代わりってことで許してくれよ!
なんて、一之瀬が俺から数歩離れて言う

「……はぁ…」

俺は呆れてため息をつく

(本気で心配した俺の気持ちを返せ)

そう言ってやりたかった

「俺は何があっても不死鳥のように蘇るんだから、死ぬわけないじゃないか」

「………確かに、一之瀬は不死身かもな」

俺は適当に返事を返す
とりあえず、疲れた
帰って寝よう

「ってことで、俺は帰る…」

一之瀬にそう言って去ろうと思った

「あ、土門!…さよなら、大好きだったよ……」

「……!」

バッと振り返る
一瞬、一之瀬が悲しそうな笑顔を見せた気がした

「一之瀬!」

俺が呼んだが、一之瀬は一度もこちらを見ずに背を向け歩いていく

「………どうしたんだよ、あいつ…」

俺は一之瀬を追いかけることも出来ずに、ただただその場に立ち尽くしていた


あれが最期だったなんて
知る術もなかったから……


***


それから約10日
一之瀬と話していない
あいつのどの言葉が正しくて何が嘘なのか
なんとなくは気付いていた
長く一緒にいたから分かりやすかった
だからこそ、どうしようか悩んだ

俺は一之瀬の病室の前で深呼吸をする
そして覚悟を決め、病室に入る
それと同時に一之瀬が倒れるのが見えた

とっさに体が動き、気づけば俺は一之瀬の下にいた

「ども…ん………ッ」

「大丈夫か?一之瀬…」

「……なんで…?」

一之瀬が戸惑った表情を浮かべる

「お前、何年一緒にいたと思うんだ?全部お見通しだ」

そういいながら俺は一之瀬を抱き寄せた
すると一之瀬は急に泣き出した

「……っ…土門……俺……死にたくない…っ…」

余程辛かったのだろう
もっと早く来ればよかったと後悔した

死にたくないってことは一之瀬の言ってたことはやはり紛れもない真実なのだろう

「一之瀬……」

それから連想した未来はあまりにも残酷で俺も涙が溢れてきた
このまま時間が止まってしまえばいいのに
そう、有り得るはずのないことを願ってしまった

しばらくして、落ち着いた俺達はベッドに並んで座る

「……ごめん、土門」

うつむきながら一之瀬が言う

「いいって、一之瀬の泣き顔見れたし…それに、珍しく本音を言ったしな」

「……」

ああ、場がもたない
それよりも俺は今日、一之瀬に伝えたいことがあり
それを伝えるタイミングを考えていた

「一之瀬…」

「ん?」

「こんな時に言うのもあれだけどさ…」

さあ、言え
言ってしまえ

そう思ってもなかなか言葉が出てこない

「……土門?」

不思議そうに見てくる一之瀬に俺はなんとか勇気を振り絞る

「でも、後悔するのは嫌だから…」

俺は一之瀬の左手をとり薬指に指輪をはめる

「……一之瀬、好きだ」

「……!」

一之瀬は驚いているようだった

「……プロポーズかよ」

笑いながら言われた
この精一杯な俺の気持ちが
このままじゃ誤魔化されてしまう
それだけは避けたい

「そうだな…一之瀬、愛してる。お前は最高の親友だ」

耳元でそう言った

「……俺も好きだよ…。愛してる…」

返ってきた言葉に俺は微笑んだ

(俺にとって、お前は世界で一番の親友だ)

***

その日は、特別に病院に泊めてもらえることになった

「土門、狭い」

「仕方ないだろ、ベッド一つなんだから。……俺はやっぱり椅子で寝るか?」

「それは駄目!!」

「…はいはい」

「……久しぶりだな、一緒に寝るの」

「そうだな」

「あーあ、秋もいれば一緒に寝られたのに」

「それはマズイだろ!ってか、この狭いベッドでか?」

「その場合は土門は椅子で」

「どーせ俺はオマケだ」

そう俺が言うと一之瀬は
笑いながら冗談だよって言ってきた
いつも一之瀬にされてばかりだからたまには仕返しをしよう

「一哉…」

「な、なんだよ」

名前を呼ぶと照れたのか顔をそらされた

一之瀬の体を引き寄せれば
腕の中におさまった
なんだろうか
この体制は

「なんかこれ、落ち着く」

「……なんだよそれ」

いつもはボケ役な一之瀬にツッコまれてしまった
だけど、一之瀬は笑顔で抱き締め返してくれた


なあ、一之瀬
俺はお前と出会えてすごく嬉しかった
出きれば永遠離れたくない
ずっとそばにいたい
お前のいない世界はどれだけ退屈になるのだろうか
考えるのすら嫌になる

あと何日一緒にいられるのだろうか
時計が時を刻む度に不安になる

だけど、でも
こう抱き締めておけば
明日はきっと笑顔で「おはよう」って言い合えるよな





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