(side:一之瀬)
「俺、死ぬんですか?」

そう問い掛けると、ドクターは答え辛そうにしていた

「全力は尽くしたのですが…持ってあと1年でしょう」

「……そう…ですか…」

ドクターの言葉を聞いて、俺は目の前が真っ暗になったようだった

それでも、残りを懸命に生きようと思った
精一杯生きようと思った
悔いのないように一之瀬一哉を生きようと思った

だけど、それから3ヶ月もするとサッカーがプレー出来なくなってしまった
覚悟していたことだったはずなのに、涙が零れた

(……多分、もう駄目なんだろうな)

俺は、入院することになった
入院は明日から…

誰にも、俺の余命の事等は話していない
だから…知られずに、そのままいなくなればいいと思った

なのに何故、君に会いに来たのだろう






「俺、お前が嫌い」

会った瞬間、土門に笑顔で言ってやった
自分でも、何故言ったか分からないくらい自然に出た言葉だった
言った後に凄く後悔する言葉だった
だけど、言われて辛いのは土門の方だと思う
俺は訂正しようと思った
目の前の土門は時計を確認している
今日って何日だっけ?
……3日だ
4月の……
よし、それを理由にしよう

「エイプリールフールじゃないから!ってか日付くらい覚えておけよ」

出来るだけ笑って言ってみた
だけどやっぱり何か違う
俺は彼に何を言いに来たんだ
全然分からない……

「……って、ことで…俺は帰るよ」

思考がまとまらない
このまま土門といると、死ぬのが怖くなってしまう気がした
無理なことなのに生きたいと願ってしまう気がした

俺は、土門に背を向けて歩こうとした

「待てよ、一之瀬……」

その言葉と同時に土門に手を掴まれる

「離せよ…土門……っ…」

気付けば涙が溢れていた
見られたくないから土門の方を見ずに俯いたままでいる

「……泣いてるのか?」

「………」

俺はどうしようか考えた後
くるり、振り返り土門に抱き着いた
やっぱり泣いてるところは見られたくない

「……俺…もう、サッカー…出来ないかもしれない…」

自分でも分かるくらい震えた声で絞り出した言葉

「え……?」

「…あと長くて1年で…死ぬって…」

「一之瀬……」

土門が俺を抱きしめ返してくれた
優しいな…

(やっぱり、土門がいると落ち着く)

だけど、俺は……
……心配かけたままなんて嫌だ

「いちの…」

「……っ、ははは」

出来るだけ明るい声で笑う
土門が、目を丸くして驚いている

「いやー、まさか土門が騙されてくれるなんてね」

「は?」

「冗談だよ、冗談!エイプリールフールに嘘つけなかったから!4月1日は真面目に過ごしたんだから、今日はその代わりってことで許してくれよ!」

なんて、言ってみた
大丈夫、ごまかせたよな?

「……はぁ…」

土門が呆れたように、ため息をついた

(よかった…バレてない)

「俺は何があっても不死鳥のように蘇るんだから、死ぬわけないじゃないか」

自分で言ってて何か辛くなった
本当に不死鳥だったら良いのに…なんて、思ってしまった

「………確かに、一之瀬は不死身かもな」

土門の言葉が、グサリと刺さった
不死身だったらどれだけよかったか…
……いや、一人だけ永遠生き続けるなんて嫌だな
だけど、やっぱり

(生きていたい……)



「俺は帰る…」

土門が言った
俺が顔をあげると、土門は既に後ろを向いていた

「あ、土門」

手を伸ばそうとしていた
だけどやめる

なんか泣きそうだ
もう多分これが最後
言いたいことは沢山ある
だけど、一つに決めるとしたら

「…さよなら、大好きだったよ……」

「……!」

土門が勢いよく振り返った
最後だから笑顔をみせようと思った
そして、後ろを向き歩く

(これでいいよな?)

今日は涙脆いな
涙が溢れてくるよ…

「一之瀬!」

土門が俺を呼んだけど
泣き顔はやっぱり見られたくない
俺は背を向けたまま歩いていく


***


「っ…」

それから10日もしないうちに、俺は限界になった
体が痛い…
呼吸も出来ない

(…思ったより…苦しいな…)

病院のベッドの上で、胸元を押さえながら、せめてもの抗いとして呼吸を整えようとする
無駄なのは分かってた
だけど……

(死にたくない……)

まだサッカーがしたい
円堂達とサッカーがしたい
土門ともっと話したかった……

「……ッ…あれ…」

ポタポタと涙がシーツに落ちる…

「……」

なんで、こんなに苦しいのだろう
病気のせい?
なにかが違う気がする

「……会い…たい…ッ…」

自然に零れた言葉
思い浮かんだ姿は、親友の姿……

「………」

もう、いいや
死んでしまえば、どうせ忘れられる
そう考えてるのに、諦めきれなくて

(馬鹿だな…俺、こんなに望んでも……来るはずないじゃないか……)

体を無理矢理動かしベッドから降りる
だけどふらついて倒れる

ドサッ…

痛い……はずだった
だけど、咄嗟につむった目を開くと下に土門がいた

「ども…ん………ッ」

「大丈夫か?一之瀬…」

「……なんで…?」

入院したこと教えてないはず
俺は、わけがわからず思考を巡らせる

「お前、何年一緒にいたと思うんだ?全部お見通しだ」

そういいながら土門は、俺を抱き寄せた

「……っ…土門……」

涙を拭っても、溢れてくる
泣き顔なんて見られたくないのに、止まらない

「俺……死にたくない…っ…」

……本音だった
これは変えることの出来ない未来
頭では分かってる
だけど、それでも抗いたかった

「一之瀬……」

土門も俺を抱きしめたまま泣いていた
このまま時間が止まってしまえばいいのに
そう、有り得るはずのないことを願ってしまう

しばらくして、落ち着いた俺達はベッドに並んで座る

「……ごめん、土門」

あんなに盛大に泣いてしまったのが恥ずかしくて、視線は床を見ながら言う

「いいって、一之瀬の泣き顔見れたし…それに、珍しく本音を言ったしな」

「……」

「一之瀬…」

「ん?」

「こんな時に言うのもあれだけどさ…」

土門が俺を見ながら話す
そして俺の左手を優しく握った

「……土門?」

「でも、後悔するのは嫌だから…」

スッ…

薬指を、何かに通された感覚

「……一之瀬、好きだ」

「……!」

俺は、土門の言葉に驚いた

(ああ…まったく…土門には驚かされてばっかりだな)

薬指にはめられていた指輪を見ながら思う

「……プロポーズかよ」

俺が笑いながら言う
すると、土門が顔を近づけてきた

「そうだな…一之瀬、愛してる。お前は最高の親友だ」

耳元でそう言われた

「……俺も好きだよ…。愛してる…」

また涙がこぼれる
だけど今度は悲しいからじゃなく、嬉しいからの溢れた涙

(俺にとっても、お前は本当に世界で一番の親友だよ)



その日は、特別に土門を病院に泊めてもらえた

「土門、狭い」

「仕方ないだろ、ベッド一つなんだから。……俺はやっぱり椅子で寝るか?」

「それは駄目!!」

「…はいはい」

土門は呆れたようにそういうと、俺の横で寝る体勢になる

「…久しぶりだな、一緒に寝るの」

「そうだな」

「あーあ、秋もいれば一緒に寝られたのに」

「それはマズイだろ!ってか、この狭いベッドでか?」

「その場合は土門は椅子で」

「どーせ俺はオマケだ」

土門はすねたようにいってくる
アハハ、と笑いつつ冗談だよって言ってやる

「一哉…」

「な、なんだよ」

顔をみあわせた状態で名前を呼ばれて、あまりにも慣れないことでドキッとした

ぐいっと引かれれば
土門の腕の中におさまってしまう

「なんかこれ、落ち着く」

「……なんだよそれ」

苦笑しつつ土門の言葉にツッコむ

…………

………………

………………………

しばらく静寂が続き、小さな寝息が聞こえてきた

(寝るの早いな……)

俺はそっと、土門の腕から抜けて上半身だけ起き上がる

「………」

そして土門の方を見る

(お前には、感謝することいっぱいあったな)

心配かけてごめん
わがまま多くてごめん

色々謝りたいことは有ったけど、とりあえず今だから素直に言える

「ありがとう……」

俺は土門にキスをした

いつも側にいてくれて
文句を言いつつ、わがまま聞いてくれて

最後に会いに来てくれた
何回言っても足りないくらい感謝してる

俺は指輪を外し、土門に握らせる

「…本当に…ありがとう」

親友と言ってくれてありがとう
こんな俺でも好きだと言ってくれてありがとう

俺は病室を抜け出した



向かった場所は屋上で、夜空が綺麗だった

「……やっぱり、届かないな」

俺は星を掴もうとするけど当たり前に届かない

(カウントダウンはあと、どれくらいだろうか……)

俺は、出入口付近の壁に背中を預け座り込む

「………」

まるで走馬灯のように、記憶が鮮明に思い出された
次々に思いだされる記憶に、懐かしいな…などと思ってしまう

「土門……」

不意に名前を呼んでいた
ああ、本当俺は土門が好きだな

「………俺の分まで、幸せになってくれよ……?」

虚空に向かって呟いた
最期の心からの言葉だった




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