見せかけだけのレプリカ



「行くぞ!」


その掛け声でフィールドへ駆け出し、ポジションに着く11人。頭数を揃えるために新人ながらもそこに立つ天馬くんも西園くんにも、少なからず緊張が見える。初陣が負け試合だなんて、少し哀れに思えてしまう。拓人はそのことを二人に言っていないらしいから、
それが決定事項だと知らせられないまま。
二人はきっと勝つために動くだろう。でも、フィフスセクターの指示に逆らうことはいくらランクの高い雷門でも許されない。二人は、この試合のなかでこの現実を知るしかない。


雷門のキックオフで試合は始まった。倉間くんから拓人へ、拓人から浜野くんへ。パスをつないで南沢くんにボールが渡る。そのままチャージをかわし真っ直ぐにゴールへむかうも、相手方のディフェンダーにボールを奪われてしまった。そのままディフェンダーを追いかけることもせず立ち止まって振り返る彼を見て、やっぱりわざとだったんだ、そう気づく。
なんて言ったって、雷門は今日の試合無得点負けしなくてはならない。でも、そのことを観客には悟られてはいけない。ギリギリの接戦を繰り広げているように見せなくてはならないのだ。だからフォワードの南沢くんと倉間くんはディフェンダーのところまで行っては必ずボールを奪われる。どんなに小さなトラップでも、引っかからなくてはならない。それが今日の二人の仕事、義務なのだ。


「なかなかの演技だな」


そう言って鼻で笑う剣城に、眉間の皺が深くなる。
割り切るフォワード二人とは裏腹に、ミッドフィルダーの位置につく天馬君は何としてもボールを奪い前へつなごうとする。
しかしブロックに長けていない彼、その上、緊張しているとなるともうまともにボールに触ることすらできない。中盤、守備陣を抜かれ、(ディフェンダー軍にも一人の他にだれも勝つ気はないのだから当然だが)最後の砦 三国くんも、半ば諦めるように目を瞑って栄都学園にゴールを許したのだった。


栄都学園の先制点。


走って行く栄都の攻撃陣を目線で追い、フィールドを一望する。ゴールを許した三国くんは勿論、天城くん、車田くん、蘭くん、速水くんに浜野くん、倉間くんも南沢くんも、それから、拓人も。
みんな納得のいかぬまま俯いて、だれ一人としてしゃべることはない。
暗い空気が蔓延する雷門中に、たぶん点を取られたことで落ち込んでいるんだと検討を付けたのだろう天馬くんが、「大丈夫ですよ、先輩!まだまだ一点じゃないですか」と励ましの言葉をかける。その言葉すら、今は。何も知らない癖に、おめでたいよねと一掃したくなる。うん!と返す西園くんも、隣で無邪気に声援を送るマネージャーたちにも、少しの苛立ちを覚えた。それをぐっと呑み込んで、試合の再開を待った。


二点目までは向こうの優勢、つまり前半戦はこちらの劣勢でいくようだ。
それを知らない西園くんが雷門に攻め込んできた栄都のボールをカットする。それを拓人に回す。それをカットすべく前に進み立て来たのは、このあいだ帰り道で声をかけてきた、あの一筆親子の片割れだった。
試合中に手を挙げ、「神童さん!」とうれしそうに声をかける。なんだあれは。何の努力もせずに相手チームのキャプテンからボールを(しかも奪おうじゃなくて、)貰おうなんて、どうかしているんじゃないのか。親が親なら子も子だ、とはよくいったものだけどまさにその通りだと思う。その横をスルーした拓人は、その後ボールを奪われまた攻められる。
前半中にもう一点を渡さなければいけないのだ。力を抜きながらも押されなくてはならない。そして、ゴールを開けなくてはならない。
得点差は二点に広がった。


倉間くんから飛んできたボールに当たり、拓人が倒れそうになったのには、流石に立ち上がってしまった。演技だと思っていたそのパスミスはあまりにもリアルだった。演技ではなく本当に当たってしまったのかと思うくらいに。けれど後ろに倒れることなく走り出した拓人にほ、と息を吐く。そんな能力に長け始めているなんて、やるせない気持ちでいっぱいだ。


「…ようやく気づいたようだな」


振り返った先で剣城がそうつぶやいたのが聞こえた。その後すぐに背後で前半終了のホイッスルが聞こえる。隅にでも入れたくない奴が視界に入ったのは不本意だったけど、それでもフィールドから目を逸らしたかった。そうしないと拓人がつぶれそうで、ベンチに戻る今もまた、追い越しざまに栄都のキャプテンに何かを言われている。ぐっと握った手が震えていて、歯を噛み締めていた。











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