心機一転、さてどうなる



「おつかれさま…」
「…そちらこそ、おつかれさまです…」


ぽかんと見てくる葵ちゃんを横に座った。放課後再びダッシュで雷門へ向かったものの、先日教育指導担当の先生+担任も交えてのお叱りは長かった。それはもう気が遠くなるくらい(実際最中は遠くなるどころか持っていかれそうになった)に。いや、逃げてたわたしが悪いんだけど。ふとフィールドを見ると雷門のファーストユニフォームを着た天馬くんと西園くんの姿。他の選手達は全員ベンチの周りに集まっているのに、二人は練習を続けている。もう練習は終わりなんじゃないのか。日が傾いて空は橙になっている。


「ファーストなんだね、天馬くん達」
「人数が足りないですから」
「超不本意だけどな」


わたしに続いて蘭くんと倉間くんが答える。この二人はどうやら天馬くんたちを快く思っていないんだろう。滲み出るイライラオーラは隠しているつもりでもわかる。確かに、ここに熱いだけのサッカーなんてない。そうやって諦める感情が彼らを嫌う要素になっているのだ。


「ふうん…ね、あの子達は上手い?」
「……サッカーが?」
「うん。」


ちょっと考えるそぶりを見せて(聞き方がよくなかった、ごめん)悩む。同じポジションだからきっと見ていたはず。そう思ったわたしの思考は、浜野くんの「わかんない」発言で停止した。わかんないってどういうことなの……


「ふたりとも、パスミスでほとんどボール触ってないからなー」
「どういうことだよ」
「そういうことだよ」


じゃああの二人は今日の部活時間を何に使っていたんだ。先輩たちのプレーを見ておおおってなってたとでもいうのか。
…天馬くん達ならありうるかもしれない。
でもそこを配慮してどうにかするのがキャプテンの仕事じゃないのか。見ると、なにか考えているようなそぶりを見せている。これは無理だ。今の拓人には新入生の事なんて考えられそうもない。でもまあ、天馬くん達には緊張もあっただろうから自分でなんとかしてもらおう。放任放任。


そう考えていると茜ちゃんがこっちを見て一枚写真を撮ったのであ、と思いだす。制服の話だ。


「茜ちゃん茜ちゃん、制服貸してくれない?」
「…はい?」


ほら、この制服だと目立つじゃない?とスカートを持ち上げながら言うと、隣にいた音無先生が反応した。


「ああ、それなら私に言ってくれれば用意したのに」
「本当ですか!」
「ええ、事務室から…制服見本のでいいなら」
「全然構わないですよー」


見本だろうとなんだろうと構わない。とりあえずサッカー棟の前で待機している時注がれる視線がなくなれば。あと再三言うけどここの制服はかわいい。…実は後者の方が本音だったりする、なんて言えない。


「明日また私に声かけてくれれば持って来るわ。あ、明日もくるようならだけど」


むしろわたしが来ていいのかって感じだけど…と内心苦笑いをしながらも返事をしたところで、じゃあ今日の練習はここまで!と先生の溌剌とした声がグラウンドに響いた。隣にいた水鳥ちゃんがふー、と息を吐いたのでそっちを見た。


「ところで、水鳥ちゃんは二年生からマネージャー?」
「え?あたしはそういう面倒なことはしねーの、天馬の私設応援団ってとこ?」
「応援団?チアじゃないの?」


応援と聞いて真っ先に昨年度までの部活を思い出した。なんだかもうこんなにかわいい子達が集まったんだからチアでもやったらいいんじゃないかな。できる限りなら教えられるし…と考えてその提案はやめた。チアはなんだかんだでものすごくハードだ。練習で怪我をしたりする女の子達を見るのは辛い。


それにしても明日が楽しみだとうきうきしていたわたしは、見られているような気がして振り返る。そこには部活時間にもかかわらずユニフォームを着ていない剣城が口角を上げて立っていた。
目が合うと彼はわたしの横を通って校門の方に歩いていった。


「これ以上関わらない方が身のためだぜ」


そう吐き捨てて。











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