新参者?大歓迎ですが。



次の日の朝、久しぶりにランニングでもするか、と思い立ったわたしは去年まで使っていたジャージとシューズを取り出して外へ出た。抜け道を通ったそこで、昨日ぶりのふわふわ頭が見えて声をかける。


「天馬くん!」
「うわあっ!?…あ、えっと、◎◎◎さん…!」
「ごめんごめん、驚かせちゃったね」


いえ!そんなことは!背筋をピンと伸ばして答える天馬くんはやっぱりなんだか堅くて、思わず苦笑いをこぼした。第一印象が最悪だったもんね、わたし。でも慣れてくれたまえ、サッカー部大好きだからよく練習とか見に行っちゃうんだぜ。
ころころと変わる表情を見て、こんな素直そうな子をあの剣城と勘違いしたわたしは。と内心自分を笑う。ちゃんちゃらおかしいね。


「それにしても天馬くん、こんなに早くからランニング?サッカー部で扱かれるんだからそんな無理しなくても…」
「へへ、なんか今日から雷門サッカー部の一員になれるんだって思ったら、いてもたってもいられなくて」


照れたように笑う天馬くんに、微笑ましいなあなんて思いながら、わたしは彼に前々からの疑問をぶつけた。


「どうしてそんなに雷門のサッカー部に憧れてるの?」


少し聞き方が無作法だったかもしれない。でも気づいた時には口に出していたからもうあとには引けない。それに、雷門までとはいかないがそれなりに強いサッカー部だってある。
落ちぶれてたっていい、それでも雷門でサッカーがしたいんですと、彼にそこまで言わせる根源とはなんなのか。


「俺、沖縄で命の恩人に出会ったんです。」


聞くところによると、工事現場で動けなくなっていた子犬を助けた時に倒れてくる木材に巻き込まれてしまい、急死に一生を得たそう。その時木材の軌道をそらしたのが、雷のマークが描かれたサッカーボールだったらしい。それで雷門って、随分とすごい勘に掛けてみたもんだ。

あれは偶然だったのかもしれないけど、俺は今でもそのことを覚えてます。どこか夢を見ているような目で語る天馬くんに、そっかと差し障りのない返事をして、続ける。


「それって、偶然なんかじゃないと思うよ」
「え?」
「天馬くんが雷門に来てくれて、こうやってわたしと話ができる事だって多分偶然なんかじゃないと思うわ…不本意だけど、フィフスセクターが雷門を潰しにかかったことも。全部全部、きっと必然。」
「…お姉さん」


決まってた事なら、それを乗り越えてみやがれっていうことでしょう?そう考えたら随分気楽に生きられると思うの。
続けた言葉のあとに、"自分は無理だけど"という言葉は口に出さず、ぐっと喉の奥に捻じ込んだ。


わたしは、何を言ってるんだ。今日から雷門の一員になる、まだよく知らない彼に、自分の言い訳を並べて何になるんだ。


「だから、今日のランニングがわたしのせいで中断されちゃったのも必然だから許してね!」


取り繕ってはみたけれど、どうだろう。もし天馬くんが三国くんみたいに人の感情への勘が鋭かったら、わたしの中の悩みはこの口から洗いざらい出させられていたと思う。でも彼は目を細めて笑うだけで何も聞いてこなかった。どうやらわたしは命拾いをしたらしい。











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