大人げないぜまったく!



やっぱりもともとの視力の問題からか、学ランくんと同じ位置では満足に見ることができないようなので、ばれるの覚悟で降りることにした。ほら、中学生と比べたら高校生なんてもうおばさんだからさ、ははは。


「お姉さま!」


これは予想外だった。まさか茜ちゃんがわたしのことを覚えているとは、わたしに気づくとは。当然ベンチにいた監督と音無先生と、それから初対面の女の子二人はこっちを向いてくれるわけで。


「えーと、すいません部外者また入りました」
「部外者?」


スケバンのようにスカートが長い女の子がわたしに訝しむような視線を送った。雷門って、こういう不良っぽい格好をするのが流行ってるのかしら、さっきの学ランくんといいこの子といい…。一向に黙ったままのわたしを見兼ねた音無先生が助け舟を出す。


「神童くんのお姉さんよ」
「ええっ、神童キャプテンの!?」


「…キャプテン?」


ショートカットの女の子が放った一言に、わたしは思考を止めて反応した。フィールドを見れば、新入生松風くんと対峙して「本気で合格するつもりか」と問うている弟。そのユニフォームの袖を見ると、そこには確かにキャプテンマークがついていた。何それお姉さん聞いてないわよ。
あとで問いただしてやろうと決意した瞬間、天馬くんのボールを奪うために拓人が体当たりをかます。強烈なチャージをモロに食らった天馬くんは当然ながら後ろに倒れた。
サッカー部との交流はしていたけど、入部テストを見るのは初めてだ。こんな激しい入部テストでいいんだろうか。そんなわたしの脳内とは裏腹に、天馬くんの表情は喜喜として、楽しそうだ。


「やっぱりキャプテンはすごい…!でも、諦めません!」


(「ねえさん、みててよ!」)


天馬くんの張り上げた声と表情に、少し昔のことを思い出した。まだ楽しいサッカーができていたあの頃が、フラッシュバックする。いまの管理サッカーのことを知らないきれいな目。天馬くんを直視したら目が離せなくなりそうで、フィールドから目を逸らした。


「やれるものなら、やってみろ!」
その言葉が拓人に火をつけたのか、そこからのプレーは正直、入部テストと呼べるようなものではなかった。本気とまではいかないけど、弱い奴ならいらない、と切り捨てるようなプレー。
新入生たちはサッカーの名門校、雷門の実力に圧倒されてやる気が失せたのか、五人中の三人はセンターサークルのあたりに固まって動こうとしない。諦めるのか、男のくせに情けないと怒鳴りつけてやろうかと思ったが、こんな近距離から声なんか上げたら入部試験の邪魔になってしまうだろうからやめた。
フィールドで動いているのは雷門のファーストと、新入生 松風くんと西園くんだけ。拓人が西園くんのボールを奪った所で「無理だったのかなあ」と俯く西園くんにまだ終わってないぞ、俺は諦めない、諦めなきゃ、なんとかなります!大きく叫んだ彼の目は、やっぱり苦手だ。突っ込んで二人を抜いていくも、ゴール前の拓人が再び足止めをする。

拓人、大人げない。
あれじゃあただの後輩いじめじゃないか。迎ってくる二人を容赦なく止める弟からは天馬くんが振り撒く楽しさが感じられない。たかだか入部試験でフィフスセクターの指示がきているわけがないんだから、この時くらい楽しんでもいいんじゃないか。
あんな表情をした拓人なら、わたしは見たくない。


「諦めるもんか!」


叫んだ声に見ると拓人からボールを守って西園くんにパスを出す天馬くんの姿。高く上がったボールを追いかけるように跳ねる拓人。ここで試合を止めてやろうかと思ったけどわたしはあくまで部外者。
いくら雷門が好きだからって、それは過干渉の理由にはならない。そう二度目の牽制をする。
拳を握り締めて、掌に爪が食い込むのも気にせずにただその試合のいく末を見守っていた。


「諦めなければ、願いが叶うとでも思っているのか?」
「…はい!」


息も絶え絶えに返事をした天馬くんに、拓人の目が鋭くなる。感情まかせに行動する弟の前兆。蘭くんも拓人の方を向いて目を見開いている。きっと考えていることはわたしと同じ。
止めないと。監督を見やると向こうもわたしを見ていたようで、目が合う。これって、止めてもいいってことなのかな。ダメって言われても止めないと、取り返しがつかなくなりそうだ。


「お前は何もわかっていない!」


激情のままにボールを蹴って、それは天馬くんめがけて飛んでいく。そこからはもう遠慮なんてなかった。フィールドに、しかも学生靴で入って拓人のボールを受け止める。できることなら普通の蹴りだし大丈夫だと思っていた三秒前の自分を叩いてやりたい。なにこれものすごく、痛い。


「姉さん…!?」
「……感心しないなあ、」


新入生イジメなんて、と冷静に口にしたはいいけど、正直手の痛みが尋常じゃない。拓人あんたいつの間にこんな蹴られるようになったの。
ボールを手から落としてだらんとなった掌から煙が出るのではないかと思ったがそんな事はなく、目線だけで弟を睨めつける。つい昨日天馬くんとわたしが対峙した時と同じ雰囲気が取り巻く中、それを切ったのは背後から聞こえた音だった。


「天馬!」
ベンチにいた子たちが、疲労のためか倒れた天馬くんの周りに集まって来る。それに見向きもしないでファーストのメンバーに視線を送るわたしは、薄情なのだろうか。











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