たまには力抜いて下さい



結局、拓人の「もう来るな」発言にも負けず松風天馬くんと西園信助くんは明日入部試験を受けることになった。試験は放課後だろうから、明日学校が終わってすぐにダッシュすれば見られるだろう。でも、今日は午後の授業を受けてないから欠課扱いになってるだろうし、ノートを誰かに借りなきゃ。それを授業中に写して返して、あとは教室から生徒玄関までの間で生活指導担当の教師に見つからずに行ければ上出来。よし、明日は入部試験観察だ。

「姉さん、どうして今日は雷門に?」

明日の計画にふけっていると、隣からわたしにむかって質問を投げかけられた。

「雷門のサッカー部が大変だって聞いて、いてもたってもいられなかったの。あ、そうそう拓人、化身出したんだって?」
「あー…」
「それが、神童の奴覚えてないらしいんですよ」

答えにくそうに俯いた拓人の代わりに蘭くんが答えた。覚えてないって、じゃあそれはただの幻だったんじゃないの。そう言うとそれはない、と断定された。根拠はフィフスセクターの回しもんの剣城とか言う新入生が化身使いで、拓人とそいつの化身同士で戦ったのを、その場にいた全員が見たのだそう。蘭くんはわたしが覚えてる限りでは嘘をついたことなんてないから、うちの弟が化身を出したのはリアルなお話らしい。まさか都市伝説と思っていたものがこんなに身近に。
なんとも不思議なものである。

「ま、名門雷門中のメンバーが化身の一つや二つ持っててもいいんじゃない?」
「いや、流石に二つはいらない」
「そうね、あと11人全員がぼんぼん化身出して戦うのもどうかと思うし。」

一つのフィールドで化身が11匹…
思わず想像してしまったのか二人は口元を抑えて笑いを堪えているようだ。なんかもう、何の怪物大戦ですかって感じになるよね。相手も戦意喪失だろうよ。とりあえず化身使いなんて都市伝説になるくらい希少価値高いんだから、当分化身同士の戦いは見られないだろう。それに、フィフスセクターの管理はポジションや動きにまで干渉しているらしいから、よもや「化身で戦え」なんて指示は出ないだろう。拓人がフィールドで化身を使うような事態に陥ることはないということだ。

「じゃあな、神童姉弟」
「じゃあな蘭ちゃん」
「だからちゃんはやめろって…また明日」

手を振って遠ざかる蘭くんを二人でしばらく眺めたあと、拓人が家の方向に歩き出した。それをあわてて追いかける。なぜか拓人は無言で、話しかけない方がいいかと思ったわたしは黙って拓人の右手をとって握った。反応した弟の手は少しだけど震えていて、無理をしていたのは明らかだった。部員が一気に辞めたんだから、当たり前だ。
眉を下げた拓人が顔を向けてきたから、わたしは何も言わないで笑いかけた。うまく、笑えてるだろうか。











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