ヒーローにはなれません



今朝は目覚まし時計のスヌーズ機能で目が覚めて、すぐに洗面所へ直行。トイレに行って顔を洗って、掛けてあった制服に着替えて寝起きで開きにくい瞼を持ち上げてコンタクトレンズを装備。くせのついた髪をそれなりにまとめて、ダイニングに降りて用意されたご飯を食べる。その後拓人と少し話してから学校へ向かった。
いつもどおり。

授業を終えて昼休み、お弁当を食べた後、いつもどおりの時間は終わった。同じクラスのサッカー部の男子が興奮したように教室に入って来て、そして言ったのだ。
「化身使いが現れた」、と。
化身、そんなことあるはずない。あれはただの都市伝説だ。そう心の中でつぶやいた。しかしその後に続いた男子の言葉には流石に反応した。

「そこの雷門中の新入生がサッカー部を潰しにかかったらしいんだ、そこで、」

「二年生の神童拓人、神のタクトも、
化身を」

そこまで聞いてわたしは立ち上がった。拓人に何かがあった。雷門サッカー部に何かが起きた。それだけでもう充分だった。目の前の友人が驚いてわたしを見上げ、話していた男子とその周りに集まったクラスメイト達には目もくれず、わたしは教室を飛び出した。友人がわたしに「◎◎◎!後五分で授業始まるよ!?」と声を掛けてくれたけれど、お願い、今だけは無視をさせて。

雷門に、早く行かなくちゃ。

去年ランニングをしていたときよりも、早く地面を蹴ってサッカー棟を目指す。雷門はもう下校時刻だったから、外で教職員にあわなかったのは幸いだった。
自動ドアを抜けてミーティング室に入ろうと再び走ろうとして、やめた。

「…水森くん?」

そこに、チームのメンバーである水森くんが荷物を持っていたから。まるで、いまからここを出て行きます、とでも言うように。

「神童のお姉さん…」
「どうしたの、いまから部活、でしょ?」
「…俺、サッカー部辞めるんです。お姉さんにも、お世話になりました」

じゃ、と手を上げてわたしの横をすり抜けていく水森くんに、声をかけることができなかった。一つは息が上がってうまく言葉が出せなかったのと、もう一つは鼻の奥がツンとして、泣きそうになったから。嗚咽がもれない様に袖で口を抑えて、それからまた走り出した。道中、わたしに気づいたマネージャーの女の子達が頭を下げて外に出て行ったのを見た。
その後一乃くんと青山くんにぶつかりそうになって、あっちが悪いわけじゃないのに謝られて逃げる様に行ってしまったから、ああこの子達もやめちゃうんだ、と、また泣きそうになった。

自動ドアが開いてミーティング室の中とわたしの姿がお互いに露わになる。

「…姉さん」、中心に座り込んでいた拓人がこっちを見てそうつぶやいた。蘭くんや三国くんも、その場にいたみんなが目を見開いたけど、的のわたしはドアが開いたと同時に一番に視界に入った、制服姿の彼らに目を向ける。新調したてなのかまだ硬い布に、長めの袖や裾から、新入生だろうと見当が付いた。拓人がわたしを呼んで立ち上がった音はしたけれど、そんなの今のわたしには関係なかった。
そして

「君が、サッカー部を潰しに来た新入生なの」










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