言い訳なら願い下げです



試合ははっきり言って一方的だった。
だいたい、無名のサッカー部がその名門校と試合をする(あちらさんが試合を受けると言ったのも謎だが)というのはおかしな話だった。
でも、そんな一方的な試合だったのにもかかわらず、両チームともに楽しそうだった。何というか、毎日仕事ばかりの父親と久しぶりに遊園地に行く子供の様だった。
わたしに告白をした彼以外は。
最後の砦だ、と言わんばかりの眼光に押される事もなく、雷門のフォワード2人はシュートを蹴り込む。

「引退試合で、俺絶対に相手チームに点、入れさせないから」

たぶん彼を動かしているのは、プレッシャーを与えているのは。以前に彼自身が言ったこの一言だろう。蹴りこまれたシュートは一つ残らずゴールに入り、すでに点差は4点になっていた。
わたしはチアリーディングのメインである笑顔も忘れ、ただその試合の展開だけを目で追っていた。

点差は縮まるどころかさらに開き、試合は終了した。
つまるところ、彼は一点も止められなかったのだ。雷門と握手を交わしこちらへ向かってきた彼はわたしの手をつかんでずんずん歩き出す。ちょっと、他校でそんな出歩いてもいいのか。

「…止められなかった」
「…」
「一点も!止められなかったんだ…!」

何かがきれたように彼はわたしに怒鳴る。ふと見れば、彼は顔をくしゃくしゃにさせてこらえていた。ああ、これは弟が泣きそうになる顔と似ている。そんな顔をしてる時は抱きしめてあげたい衝動に駆られてその通りにするはずなんだけれど、なぜか今はそんな気持ちになれなかった。

「…ごめん、こんなはずじゃなかったんだ」

彼は言う。とても消極的で、悔しさとか悲しさが滲む言い訳を

「俺、一年の時から決めてたんだ。雷門のシュートを止められるくらい強くなって告白しようって。その事が俺、先に出ちゃってそっちばっかり考えちゃって、練習もロクにできなくて…」

「でもあなたは負けたわ」

わたしはこんな言い訳を聞くためにミーティングを中断してまでついてきた訳じゃない。この後早々と部活メンバーと別れて弟と合流して久しぶりの姉弟帰宅をする予定なのだ。待っていてくれるかもしれないけど、もしそれがなくて一人帰宅するようなさみしい気持ちはできれば味わいたくない。早急にこの状態から抜け出せ、わたし。

話を終わらせるためにわたしが弟の言葉を借りるなら、
好きなだけじゃなにも変わらないこともある
だ。わたしをときめかせてくれた彼の目は伏せられて見えないから、今なら言える。
と口を開いた瞬間、目の前の彼に突き飛ばされて後ろの木にぶつかる。何、と反論することはできなかった。塞がれたのだ、声を、彼の、口で。
全てがスローモーションに見えた。顔が離れる。

「俺の話、聞いてくれないの」

そんな言葉、普通の女の子が近距離で言われたらそれは落ちるだろう。でも、今のわたしはそんなこと考えられない。わたしはそんな経験がない。
初めてだったのに。こんな無理矢理取られてしまうものなんだ。悲しいやら苦しいやら、なんかいっぱいこみ上げてきて、泣きそうになったけど泣いたら負けな気がして泣けなくて、でも逃げられなくて。こうなったらこの男子を、引っ叩いてでもここから出たい、そう思った瞬間

「何やってんだ」

別の第三者の声が響いた。ああ、もう、いるかどうかもわからないけど神様、本当にありがとう。











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