あるのはひたすら後悔と 先ほど練習が終わり、着替えるから待っててと拓人に言い逃げされたのでサッカー棟内で待機しているなう。 さすがに更衣室内で待つのは向こうが拒否したので(ほら、年頃の男の子ってやつ?)、エントランスで。待っている間にそこにやってきたのは、さっき入部テスト開始前に会った紫の学ランの彼だった。 「…まだいたのかよ」 「まあ、というか君ここ入っていいの?一応サッカー部の所有する建物なんだけど」 「その台詞まんま返してやるよ」 う、と言葉に詰まるわたしを見上げてにやりと笑う彼は、何か企んでいるように見えた。こちらを見つめ続ける橙の瞳に何?と聞き返そうと思ったけれど、そうわたしの口が動く前に彼は信じられないことを言った。 「お前、俺がフィフスセクターのシードだって事知っててそんな態度とってんのか?」 一瞬、目の前が真っ白になった。 フィフスセクター。弟が好きだったサッカーを変えた機関。わたしが干渉するべき事じゃない、と常に頭の端に置いていた問題が、目の前の彼によって掘り返されていく。 「俺、剣城京介っつーんだけど」 聞いてねえのかよ、あのキャプテンから 剣城、その名前は雷門中サッカー部を潰しにきたという化身使いの名前。そして、弟に化身を出させるような事態に陥らせた張本人。こいつのせいで、わたしの大好きだった雷門サッカー部がバラバラにされてしまったんだ。 さっき外であった時、どうして怪しいと思わなかったのか。数時間前の自分を責める。 掘り返された感情がまたどんどんと溢れて、剣城の胸倉を掴み上げて力の限り殴ってやりたい衝動に駆られる。それを理性で繋ぎとめて実行に移さないようにはしているものの、頭の中でまわる怒りだけは行き場を失って、そこでぐるぐる回り続けている。 「そうそう、あとさっきのお前」 「…何」 「怖いねえ、…神童◎◎◎。 さっきキャプテンのボールを受けたお前…あれでお前の監視が始まるかもしれねえな?」 聖帝はお前の存在を疎ましく思われているらしいからな。 ここで、わたしを監視するならすればいいわ!でも弟たちにだけは手を出さないで!なんていう、小説で良くありがちな台詞を言えたら役者的には合格だろう。でも、そんなことを言える勇気はわたしにはない。犠牲にできるような自分は、生憎持ち合わせていない。 わたしはずるいのかもしれない。拓人にただ頑張れだのなんだの言っていたけれど、いざ自分がその立場に立つともうどうしたらいいのかわからなくて、辛い。これ以上雷門サッカー部に、拓人に、辛い思いをさせないで 「おっと、俺はそろそろ退散した方がいいかもな」 「…」 わたしは、言いたい事だけを言って建物から出て行った剣城の後を追うこともなく、更衣室のドアが開く音を背中で感じた。振り向くと鞄を持った弟がこっちを見て帰ろうと言ったから、うん、なんて返して笑った。 さっき剣城に言われた言葉は、彼らに伝えてはいけない。そう思った。 |