夏祭りの惨劇 part2




また、この季節がやってきた。
夏祭りの誘惑に、ファブレ家は今日も新たな混乱が起こることを彼らはまだ知らない。













「金魚金魚金魚金魚金魚金魚金魚金魚金魚金魚金魚金魚」
「ルーク、落ち着け!」

長男が次男をしっかりと掴まえる中で、三男と妹たちは射的に興じる。

「ちぇ、当たんねぇな」
「もう、ルク兄ちゃん、しっかりなの!」
「意外と難しいんだぜ?」
「次はルーの番」

そうして挑戦をしていくも次々と外していく。

「ふえぇ、ルカあのくまちゃん欲しかったよ」
「任せろ、私が取ってやる」

愛しそうに、ルカの手の甲にアシュリアは口付けると親父に金を渡す。

「先から頑張ってるみたいだな、弾、オマケしてやるからな」

どうせ、当たらないというふうに喋る店の親父。
アシュリアのルージュの引かれた唇が美しい弧を描いたのを、金魚すくいに心を奪われてるルーク以外は忘れないだろう。

「その言葉、後悔するがいい」

なにか、姉がいつもと違う。

「そーいえば、お姉ちゃん占いで前世、貴族の令嬢なんだよね」
「うん、なんか男らしく育てられたって…ほら、昔の貴族ってスポーツ感覚で狩猟したじゃない?」
「だから、お姉ちゃん射的は『パン!!!!』

音がして、棚、横一線の景品が全て倒れる。

「は?」

呆気にとられてるのはルクだけじゃない。

「ふっ、私に不可能は無い!!!!」

スパパパパパン!!!!
と、景品に当たる音はするが弾道が見えない。

「そういえば、占い師の人言ってた」
「前世のお姉ちゃんの通り名、魔弾の令嬢」
「ま、魔弾?」

そのうち、棚の景品はすべて倒れ、落ちた。
親父は真っ青になって、すべての景品を袋に詰める。

「親父、運が悪かったな、私にハンデを与えたこと次の祭まで後悔するがいい」

素晴らしい威圧、殺傷能力はないはずの射的の鉄砲が凶器に見える。
向けられた親父は縮こまるしかない。

「放してー!放してー!!今年はうなぎもあるー!!うなぎー!うなぎ!!!」

突然、ブツブツ呟いてたルークが騒ぎだした。

「うなぎなんて夜店で釣るな!!そのくらい夜店で釣らなくても買ってやる!!」
「ふざけんな!!これだから金持ちはー!!!」

突然、聞こえた大声にそれまで親父を威圧していた、アシュリアがくるぅりと振り返る。

「兄上、うるせぇ」
「ひぃっ!」

ルクの頬を掠め、飛んでいった弾は手から逃げ出してルークを追い出したアッシュの胯間に弾がめり込む。
前のめりに倒れたアッシュを見て、周りにいたなんの関係もない男性通行人が胯間を押さえる。

「アシュにぃ、動かないよ」

景品を抱えたルク美が、そこにあった木の棒で長男をつつくがぴくりとも動かない。
しばらくするとルークが店の前から放心していたルクの前に戻ってくる。

「るーくちゃん」
「ん、なに?」
「ルーク、お金ないの、お願いあれやりたいからお金、だ・し・て?」

しまいにはほっぺにちゅーつきで頼まれ、ルクが堕ちないわけもなく。

「わかったよ、行こうルー兄」
「やったー!!」

この満面の笑みを浮かべた兄に一体誰が勝てようか。

「あ!ルク!!
亀もあるよ、亀…ちょっとスッポンみたいだけど小さいと食べられないよな、きっと…やっぱり、狙うなら、うなぎだよね、たった400円そこらでうなぎが釣れるなんて、ガソリンが高いこのご時世…川で釣ったり海で釣ったりするより移動費はかからないから安いよね、養殖でもやっぱりうなぎって高いし、夜店だからって馬鹿にできないよね、見ると結構新鮮度高いし、店のおじさんに聞いたら自分でとってきたって言うし、天然うなぎなんてすげぇじゃん、うなぎまだあるっていうしここで全部釣れば…ルクちゃん、うなぎ食べ放題だよ!!」

一息で言い放った兄。
頭の中では高速でそろばんを弾いているのだろう。
ちなみに、ルークはそろばんが得意。

「ふふ、うふふ、待っててうなぎちゃん、ルークが全部釣ってあげるから」

さっきのアシュリアといい勝負のルークに、身の危険を感じたのか、うなぎは水槽でばちゃばちゃと跳ねた。

「ルーク、釣りますっ」

あの目の輝きはきっと誰も忘れることはない。
金魚ならまだしもうなぎが空を飛ぶなんて。
悪夢の再来、わかっていたのにルクはこめかみを押さえる。

「ルク、大丈夫か?」

町内の取り組みで店を出しているガイが、大変そうな三男に話かけてきた。

「あーガイ、悪いんだけどチョコバナナ買ってきてルーたちにくわえさせてアシュ姉に与えてきて」
「ぇ、あ、あぁ」

言うとおりに動き出した彼に任せればもう大丈夫だろう…それでもダメなら、もうガイが生け贄だ。
長男はもう動く気配はないし、次男は次々とうなぎを空に泳がせてるし、ルクはもう、気の済むまで放って置こうとフランクフルトを一つ買うと丁度よく開いていたベンチに腰かけた。




三男が壊れるまであと数分。



END





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