ある日の大事件3
「おにいちゃん」
「どうした、ルカ」
「今日、一緒に寝てもい?」
思わず、噴き出す長男。
どこからかアシュリアの矢が飛んでこないかとキョロキョロすれば、どうやらその気配は無いようだ。
「急にどうしたんだ」
「だって、なんか、おにいちゃんが、いなくなるって、いうから」
少し途切れ途切れなのは、必死に泣くのをこらえているからだろう。
流石のアッシュも妹たちの涙には敵わない。
特に滅多なことでは泣かないルカに泣かれたらルー以上に、どうしたらいいのか長男はわからないのだ。
「今夜だけだぞ」
「うん」
いつかの時もこうだったなとルカを抱き上げて、アッシュは寝室に向かう。
ぎゅっとつかまると、すりすりと長男の頭に頬をすりよせる次女。
「ほら、到着だ」
即座に電気を消してアッシュはルカに背を向けて寝る。
ただなんとなくだった。
こうしとけば、ルカが寝てしまえばリビングにでも行けばいいのだから、そんな安易な気持ちだった。
「ルカ…?」
「行っちゃ、やだよ」
背中にぴったりと張り付いて一言呟く。
「覚えてる?近所の子にいじめられてたらにいちゃが助けてくれたこと」
「そんなことも、あったな」
「初めて、補助輪無しで自転車に乗れた時も…きっとルカが言葉を話した時だって、みんなお兄ちゃんが一緒だった」
確かに言うとおりだとアッシュは思う。
普段が普段だし、性格上、口に出しては言わないが、妹、弟は自分が守るべきものであり、初めてを手助けするのも勤めだった。
「だから、ルカもお兄ちゃんの初めて、お、応援したかったけど…でもっ、やっぱり、できなぃのっ!」
「ルカ…」
「っ、おにいちゃ、みたく できなぃ!」
兄の将来を邪魔したくないのと、行かないでと言いたい気持ちがごちゃごちゃになったルカはもう泣くばかりだった。
「おまえたちを悲しませたいわけじゃないんだ、本当に済まない」
話を聞くたびにアッシュの中でぐらぐらと気持ちが揺れる。
ルカから背を向けないで抱きしめた。
「なつか、し…」
うっすら覚えてる。
眉間に皺を寄せた誰かが泣いている小さな自分にガラガラを与えながら、揺り篭のよう揺れてあやしているのだ。
「にい、ちゃ…」
「寝たのか…」
一筋、小さな道を作った涙を拭うとアッシュもそのまま目を閉じた。
END
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