ある日の大事件2
「いつまでそうしてるつもりだ、ルー」
「…」
末の妹は答えない。
だっこちゃん状態でずーっとアッシュにくっついているのだ。
始めは、寛大にしていたアッシュもだんだんと苛々してくる。
こうして、問いかけてもだんまりをするものだからさらにアッシュの怒りを煽るのだった。
「ルーいい加減「アシュ兄は、嫌じゃないの?」
泣き腫らした真っ赤な目でルーファはアッシュに逆に問いかけた。
いつもなら泣いても、長女が擦るなと言い面倒を見ていたのだろうがきっと一晩中泣いていたので手がつけられなかったらしい。
「みんなと離れるの嫌じゃないの?」
正直、アッシュだって離れたくはない。
ここは、唯一、自分でいられる場所だから。
一歩外に出れば、やれ跡継ぎだの、財閥の息子だの、アッシュを見る人は皆無に等しい。
「嫌に決まってるだろう、そんなこと聞くな」
「じゃぁ、どうして」
「仕方ないことなんだ、ルー」
アッシュが小さく唇を噛む。
「また、大人の事情?そういうのよくわかんないよ」
兄の苛立つオーラを感じたのか手短く話そうとルーファは少ない語彙を必死かきあつめる。
「どうして嫌なのに行っちゃうの?兄ちゃはどうしてそんなに無理するの?…アシュ兄ちゃがいなくなったらルーたちどうしたらいいの?」
言わば、アッシュは兄であり父の存在に近い。
小さい頃からクリムゾンも、シュザンヌも家にいることが少なくずっと六人でいたせいか、ルーファには六人でいることは「絶対」で当たり前なのだ。
…ルーファの憧れは一般家庭なことをアッシュもよく知っている。
家族八人が揃って暮らすのがルーファの夢だからだ。
「にいちゃ…」
「お前の気持ちはよくわかった…けどな、ずっとくっついてるとトイレにいけないんだが?」
「はぅっ!ごご、ごめんなさいなのっ」
パッとだっこちゃんを止めてアッシュから離れるルーファ。
黙って座ったことを確認するとアッシュはトイレではなく台所に行くと何かを持って帰ってきた。
「ほら、冷やせ…せっかくのレディが台無しだと、いつもアシュリアに言われるんだろう」
目に当てられたのは布に包まれた保冷剤だ。
「にいちゃが、優しいの」
「嫌か?」
「ううん、にいちゃは元から優しいもん」
ふふとルーファは久しぶりに笑う。
「善処するつもりだ…済まないな」
それからあれだけ酷かったルーの態度も少し緩和(と言っても張り付くのは相変わらず)され、一人目との問題はとりあえず、決着が着いた。
END
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