アンダンテ4


「アッシュ」
「賊だがな、マルクトからの差し金だと簡単に吐いた」
「変ですわ」
「あぁ、マルクトとは友好関係を築き始めたばかりだ…まさか、ピオニー陛下がむざむざ友好関係を崩すようなことはしないだろう」

はぁ、とアッシュはため息を吐いた。

「俺が国王になったことが気に入らない奴の仕業だろうな、マルクトには悪いことをした」
「アッシュ…」
「ピオニー陛下も入らしている、説明しておこう」

アッシュはナタリアを連れ、各国の代表が控えている部屋へ急ぐ。

「ナタリア、彼の具合は?」
「傷は深めで術だけでは治せませんでしたわ」
「ルークが看てるのか?」
「えぇ」
「そうか…」
「あら、アッシュ嫉妬ですの?」
「馬鹿言うな、行くぞ」

ルークと自分しかいないはずの歳の近い赤い髪と翡翠の瞳の王族の証。

(何者なんだ…)

一瞬険しい顔をしてアッシュはノックをすると来賓の部屋の扉を開けた。



「あの、ルーク」
「なんだよ?」
「ううん、なんでもない」

揺り籠のように優しい腕に包まれて、ルークはその胸にすがるようにしている。
「成人の儀、めちゃくちゃになっちまったな」
「堅苦しいだけだろ、あんなの」
「でも、正装かっこいいよ」
「またいくらでも着るんだ、いくらでも見れるだろ」

くすくすと二人で笑いあっていると控えめなノックが部屋に響いた。

「はい」
「俺だ、ルーク」
「なんだ、アッシュか入れよ」

すると、いつものように一人だけではなく、アッシュは数名の兵士を連れている。

「おい、アッシュなんの冗談だよ」
「用があるのはそちらの御仁だ」

ルカはこっちのアッシュは、大違いだなと思った。
ルークを見つめた眼はとても優しかったから。
自分はどの世界のアッシュからも冷たい眼をされるのだ。

「ルークを助けてくれたことは礼を言うが、それとこれとは別だ悪いが身柄を拘束させてもらう」
「どういうことだよ!アッシュ!」
「入国手続きもなければ、戸籍登録もないんだ、おかしいと考えるのが普通だろ…それに、今日のあの襲撃は手引きした奴がいるはずだ」

その言葉にルークは拳を握る。
アッシュの言い方が、まるであいつがそうだと言わんばかりで…治まったイライラがまたふつふつと沸き上がってくるのを感じずにはいられない。

「ふざけんなよ!さっきのあいつの様子見てただろ!そんなことするような奴に見えたか!?」
「お前は甘すぎる」
「アッシュ、いい加減に「ルーク!!大丈夫だよ!!」

兵士に取り押さえられながらルカは必死に叫ぶ。

「ルカ」
「俺は、手引きなんてしてない!疑いが晴れればいいんだから、大丈夫!」
「彼の方がよっぽどわかっているようだな」

「連れていけ」とアッシュが言うと、ルカはまた「大丈夫だから」と笑って連行された。

「アッシュ、あいつに何かあったら俺はてめぇのこと一生恨むからな」
「好きにしろ」

成す術のないルークはファブレ邸に帰ると荒々しくドアを締め城から出ていった。

「アッシュこれはあんまりじゃありませんの?」
「…信用してばかりはいられないだろう」

ルークと対照的なアッシュにナタリアは小さく目を伏せた。
アッシュの考え方は仕方のないことだとは思う。

(でも、私は、なんだか貴方が空回りしてるように見えますわ)

ルークを守りたいが故に。







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