アンダンテ3


「成人の儀か、」

客室で起きたルカは、パタパタと騒がしいファブレ家に微笑む。
今日はこの世界のルークの成人の儀。

(俺には無縁のことだな)

消えてしまう身だった、自分がまさか、この儀式を見れるなんて。

「よう」
「って、何してるんだよ、準備は?」
「ちゃんとするって、なんとなく正装する前に会っておきたかったんだよ」
「…、ルーク」
「ん?」
「成人、おめでとう」

ちゅ、と背伸びして頬にキスを贈るとサッと顔を赤くして、ルカはルークの腕の中に閉じ込められる。

「あんま、可愛いことすんなって」

理性でぐっとルークは堪えると、くしゃくしゃとルカの頭を撫でて「また、式でな」というと部屋から出ていった。

(俺ってば、何してんだろ…!!)

残された部屋で真っ赤になってルカは自分の顔を覆う。

なんで、キスなんか。

「そ、そうだよ、祝福の証だよ、うん」

例えばキスが挨拶のような、母が子に与えるような、そんなものだとルカは完結させた。
自分の中の思いに気づかないふりをして。











「今、ここに―…」

成人の儀は滞りなく進んでいく。
来賓の席を用意されたルカはじっとその様子を見ていた。
奥には、アッシュが見えた。
自分の知っているアッシュとは違う、優しい目をしてルークに拍手を送り祝福していた。

「ぇ…」

どこかにピンとはりつめた気配を感じた。
祝い事中に似つかわしくない鋭い、鋭い…。

「ルーク!危ない!!!」

自分でも驚くほど体が動いた。

「ああぁっああぁ!!」
「ぐっああぁっ!!」

両手で刃を受け止めたルカは余りの激痛に、声帯からは絞りでるような声が出た。

「早く、捕らえろ!!」

アッシュが兵士に叫ぶのが遠くに聞こえた。

「ルーク、早く逃げ、て」
「馬鹿野郎!」

すきだらけの暗殺者の脇腹に蹴りをかまして転ばし、すかさず武器も遠くへ蹴り飛ばして、ルークはルカを連れて城の中へと入っていく。

「ルーク、その方を早く此方へ」
「悪い、ナタリア」
「今、術を…」

ナタリアからかけられたキュアが、細胞を活性化させルカの手を癒していく。

「これが今の限界ですわ」
「傷深いのか?」
「えぇ、大分よくなったと思いますけど」

メイドが慌ててガーゼや包帯、消毒液などを持ってやってくる。

「…ルーク」
「手、貸せ」

どうやら、ナタリアの術のおかげで傷は浅くなったようだが、付着した血が痛々しい。

「…」

濡らしたタオルで血を拭うとルークは手当てをしていくった。

「あの、ルーク?」
「お前は何してんだよ、馬鹿野郎」
「っ、俺はっ!」
「もう、傷つく必要なんてないだろう!!!」
「ぁ」
「頼むから、もう大丈夫なんて言うな…辛いなら辛い、痛いなら痛いって言ってくれ」

額を合わせられ、ルカの目の前に辛そうなルークの表情が飛び込む。
じんじんと傷が熱くなって自然と涙が溢れてきた。

「ルーク、いた、ぃ」
「うんっ」
「いたいよぉ」
「ごめん、ごめんなルーク、庇ってくれてありがとうな」

本当の名前を呼ばれ、もう肩に顔を埋めて泣いてしまう。
その姿を見たナタリアは、そっと部屋からメイドを連れだし扉を閉めた。









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