死にたがりに祝福を1
あの日。
俺は確かに空を飛んだ。
学校の、屋上から。
「ルーク、貴方の守護天使様は貴方と同じとっても綺麗な髪の色をしているのよ」
亡くなった母の言葉に合わせるように、ふわりと、あの時確かに白い羽が見えた。
「トゥエ レイ ズェ クロア リョトゥエ ズェ」
「…うるさい」
「随分な言いぐさだな、おい」
「誰、…」
「勝手に死なれたら困るんだよ、全く」
「緋色の髪の天使…」
「この死にたがり」
そっちこそ、随分な言いぐさだ。
そう答えようと思ったのにまるで夢だったかのように場面が移り変わった。
「ルーク!」
「アッシュ…」
「馬鹿、何してたんだお前!」
「…悪い、フェンス壊れてたの気づかなかった」
凄い形相で、いつもならきっちり着こんだスーツが乱れる程走ってきてくれたいとこの兄に、死にたかったんだとは言えなかった。
「大きな怪我が無くてよかった…だが、暫く病院生活だからな」
「うん」
また来るとアッシュは病室から出ていった。
「死にたがり」
「…さっきの、天使」
「ほら、繋がった、見なくていいものまで見えるようになっちまった」
「何だよ、わけわかんねぇことばっかり」
「死にたがりのルーク」
「だから、何だよ!悪いか!!俺はどうせ一人なんだ!死んだっていいだろ!!」
暴れ出したルークを、真っ白な羽を広げた緋色の髪の天使が、手足を握り馬乗りに押さえつけた。
「お前は死ねねーよ」
「ふざけ、んなっ」
「誰がふざけるかよ、ガキ…お前は死ねない」
「だって、生きてたって、おれの、かぞくはっ誰もいないじゃないかっ!とぅさんもっかぁさんもっおれは、ひとりぼっちなのにっ」
「その両親がお前に残したのが俺」
「…っ」
「ルーク、祝福だ…お前が必要とする限り、祝福が続いて永久に護り続ける」
「俺は、そんなものいらない」
「嘘だな、なら俺の存在は今すぐ消える…消えねーってことはお前が必要としてるからだ」
今度は強く抱きしめられた。
ぼろぼろと涙が溢れるのが止められそうにない。
すがって、大声で、ルークは泣いていた。
「俺の名前はルカ、お前の守護天使だ、ルーク…」
確かな感触、確かな熱。
ルークは、久しぶりに安心感を覚える。
「ルカ」
「独りじゃねぇから、お前が必要とする限り俺は隣にいる、だから今は寝ろよ」
「…約束、絶対いてくれよ」
「呼んだら、夢の中でも一緒にいてやるさ」
もう一度、寝ろよと、頭から瞼を綴じるように撫でて促されると魔法にかかったように、ルークは確かに呼吸をしながら眠りについた。
END
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