ビューティフルライフ パロ







「綺麗な髪してんのに、その頭勿体ないぜ?」

長かった髪を、纏めてただ切った俺の髪型をそう言って、彼は笑ったのだった。
顔に血液がたまってくるのがわかる。なんて失礼な人。

「失礼します」

俺、ルーク・フォン・ファブレは、歩くことができない。
移動の頼りは、この車椅子だけ。

「ぁ、おいっ」

後ろで声が聞こえたが構わずルークは車椅子を動かした。

「あっ!」

声を上げたのは一瞬。
次の地面に叩きつけられてルークは思わずうめき声をだした。深い溝の存在を見落としていて車椅子ごと転倒してしまったのだ。

「大丈夫かっ!」

さっきの失礼な男がルークを起こして抱き起こしてくれる。

「顔、怪我ない?」
「…っ」

さらりと前髪を手で寄せられペタペタと顔を確認された。

「あんた、髪だけじゃなくて瞳も翡翠みたいで凄く綺麗だ」

とても真面目な顔をしていうものだからルークの頬は怒りではなく照れから来る羞恥で真っ赤になった。

「…あのっ、起こしてくださってありがとうございましたっ!俺仕事に戻らないと行けないので」
「俺の名前はルカ、ねぇ、よかったら名前、教えて」
「ルーク、ルーク・フォン・ファブレ」

これが、俺たちの出会い。


「ルーク」
「今日はなにかご用ですか?」
「雑誌のコーナー教えて」
「はい、こちらになります」
「今の図書館ってこんなに便利なんだな」

お世辞にもルカは見かけは本を読むタイプには見えない。ルークと違って見た目通りのアウトドア派な感じがする。

「飲み食いしながら見るのが好きだからなかなか来ないだけ」
「本だけは、汚さないでね」
「わかってるよ、な、今日仕事終わるの何時?」
「ナンパならお断りです」
「違うってちゃんと仕事の話」

本当に?という顔をしたルークにルカは頬をかいて「二割くらいは下心」と素直に答えた。

「…後二時間くらいかな」
「じゃあ、本見ながら待ってる」
「うん、待ってて」

くすくすとルークは笑うと自分の業務に戻っていく。
自分でも驚くぐらい、仕事が終わるのが楽しみだ。

(なんの話、なのかな…)

カウンターから見えた朱毛に思いを馳せながらルークは、カウンターで小さく微笑んだ。








「カットモデル?俺が?」
「そう、どうしてもルークでやりたいんだ」
「それ、雑誌に載るんだよな、見れば分かるだろ、俺こんななんだぞ」

わなわなとルークは震えて握りこぶしを固く握る。

「俺に恥かかせたいのか?」
「違う、そんなんじゃない」
「じゃあなんだっていうんだよ!!」

薄暗い外でルークの声が響いた。
ルカは口を真一文字にしてから小さく話し出した。

「俺は別にお前が可哀想だからとか、車椅子だからとかで選んだわけじゃない…言っただろ…髪も瞳も、すごく綺麗だって…俺は俺が綺麗にしてやりたいって思ったやつしか嫌なんだ」
「ルカ…俺が車椅子で変とか可哀想とか思わないの?」
「なんで、ルークはちゃんと生活してんじゃん?可哀想なのはお前のその髪だ!ちゃんと洗ってトリートメントしてるか?」
「そんなにぐしゃぐしゃ撫でないでよ!」
「あ、わりぃ」

ルークからあわてて手を放すと、ルカはルーク次の言葉を待つ。





「ルカは一緒?」
「もちろん」
「俺でもできる?」
「ああ、誰だってできる!でも、俺にはルークじゃなきゃ嫌なんだ!!」

なんて、素直な人なんだろう。
本当に真っ直ぐでなんだか卑屈な自分がとてもバカらしく思えてくる。

「…いいよ、ルカだけだからな」
「ありがとう、ルーク…じゃあ、今度の日曜日平気?」
「平気だよ」
「じゃあ、その日に髪いじらせて」
「うん」
「どうしよう、すげぇ嬉しい!早く日曜日こねーかな」
「まだ、火曜日だよ」
「ちぇ…でも、本当に綺麗な髪だ」

車椅子のひじかけに両手をつくと、ルカはルークの額に軽いキスをする。

「なっ何するんだよっ」
「あれ、だめだったか?」
「だめもなにも、俺は女の子じゃない」
「じゃあ、嫌だったか?」
「……」

たっぷり考えた後にルークは、真っ赤になって気づく。



あれ、嫌じゃない。



「…ルーク?」
「…ルカの馬鹿…」
「うん、俺、馬鹿だから」

もう一度ふってきた、羽のような軽いキスにルークは小さく笑った。



「ルーク、そんな怖い顔するなって」
「だって」
「なんにも緊張しなくていいからさ」

鏡の前に座らせられ、ルークはカチンコチンで固まっている。

「ほら、ちゃんと前向いてくんないと手元狂う」
「…っ」

道具の種類なんてルークにはよくわからないが、ハサミとクシを使うルカの手元はまるで魔法だ。
髪の毛を切るハサミの音が響く。

(真剣な顔…)

手元と彼の顔を見ている間に髪の毛のセットはあっというまに終わってしまう。

「うし、じゃあ今度あっちな」

ルークの車椅子を押してルカは今度は別の場所へ連れていく。

「よう、ルカ」
「よっガイ…ルーク、こいつが写真とるから」
「よろしくお願いします」
「うん、よろしくな」

にっこりと笑ったガイにルークも応えた。

「じゃあ、始めようか」
「はい」

セットが乱れれば、ルカが手直しをしてくれる。
安心して俺は何枚か写真をとられる。
すると、カメラマンから二人で一緒にとってみようかという提案。
ルカはノリノリでいいぜと返事をして、あんなに嫌だと思っていた時間はあっというまに過ぎていった。


「疲れた」
「ありがとう、ルーク」
「ううん、こっちこそありがとう」
「…ご飯食べに行こう」

そう言って、ルカは車椅子を押してくれた。

「ルカ、俺の足…実は治るかもしれないって言ったらどうする?」
「嬉しいことじゃん」
「でも外国に行かなきゃいけない…俺は一人だから耐えられそうにないよ」

アルコールの入ったグラスをテーブルの上に置くとルークは息を吐いた。
必死に前向きに生きてきた。
けれど、本当の俺はずっと弱くて小さい。

「俺で良かったら一緒に行こうか?」
「一週間とかの話じゃないんだぞ」
「知ってる…じゃあ、お前がそっちに行ってる間誰がその髪弄るんだ」
「それは…」
「俺は、自分の気に入ったものを他人に触らせる程器はでかくない」

ルークの手をとってルカはその指先に軽く唇をあてる。

「一緒に行くよ、お前が嫌だって言ってもついてく」
「…ばか」

ルカの言葉に不安を拭うとルークは笑みを浮かべながら小さくそう呟いた。











「ほら、ここまで来れるか?」
「行けます!」
「はいはい、あんよが上手ですね」
「ルカっ!うるさい!」
「ほら、集中しないと転ぶぞ、ルーク」

町外れにある小さな美容室。
今日は、定休日でもないのに、クローズの看板が下げられ、中からは楽しそうな声が外まで響いていた。




END









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