10
「わかりやすい奴だな」
「アッシュさん」
「顔にでてる、あとモップがけが疎かだ」
「すみません」
「どうかしたのか?」
柔く頭を撫でられる。
優しい手だとルークは思う。
「ちょっと、ルカさんのことで」
「ケンカでもしたのか?」
「いえ、最近何かあるみたいで、それで大変そうなのに、聞いても何なのか話してくれないんです」
「…」
「俺じゃ頼りにならないのはわかってるんですけどね、ちょっと淋しいなって」
「泣くな、ほら」
親指がルークの涙を拭い、拭いきれなかったものはアッシュがハンカチで拭いてくれる。
「アッシュさん」
「本人が喋らないなら俺が教えてやる」
「…やっぱりアッシュさんは知ってるんですね」
「は?」
「すみません、ゴミ片付けてきます」
ゴミを持って小走りにいなくなったルークにアッシュはため息をつくしかなかった。
「ルーク、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「こんなとこで座ってたらだめだよ」
「うん、アニス」
「もしかして、具合悪いんじゃないの?」
「ううん、立ちたくないだけ」
もう季節は冬だ。
こんなとこにいたら風邪を引いてしまうのにルークと来たらここにしゃがみこんでもう30分くらいになる。
「アーニスっ」
「もうピオニーさんでいい、お願いルークを温かいとこに無理矢理連れてって!」
「ルーク、流石に具合悪そうだし冬だからな、暖かいとこ行こうな」
アニスのお願いにピオニーはルークに一言断るとその体を抱き上げた。
「寒い…」
「よしよし、おじさんがこうしててやるからな」
ルークを抱いたままピオニーはアニスからブランケットを受け取りルークをくるむ。
「なんで、あんなとこでずっといたんだ?」
「考え、ごとしてました」
「アニスを心配させたらだめだぞ」
「ごめんなさい…」
小さく泣き出したルークにピオニーもアニスも驚いて優しくどうしたのか聞いた。
ポツポツと話始めたルークに二人は黙って耳を傾けた。
「なぁにそれ!失礼しちゃう、男ってみんなそうなの!?」
「言っとくが俺はそんなことしないぞ」
「違うんだ、俺が悪いの…だってルカさんの頼りになれない、俺の力不足だから」
なんでもしたい、なんでもしてあげたい、力になりたい。
でもそれは自分じゃ叶わない。
「だから、アッシュさんもジェイドさんも知ってるんだ、ルカさんのこと」
両手を強く握るとルークは、温かさに身を任せて目を閉じた。
「アッシュさん、この間はすみませんでした」
「いや、いい…それでどうする?」
「お話聞かせてください」
その日、ルークは決心してアッシュを呼び話を聞かせてもらおうと頭を下げた。
「それから最初に言っとくぞ、俺があいつの事情を知ってるのはただの腐れ縁だ、お前が心配するようなことは一つもないからな」
間髪入れずに誤解するなといったアッシュにルークは少し笑って座った。
「ジェイドがこの間、ポロッと言っていたから良いとこの坊っちゃんなのは知ってるな?」
アールグレイの紅茶を飲みながら、アッシュはルークに聞く。
「はい、聞きました」
「あいつは、あのとおり自由奔放なやつだから家が嫌いだったわけだ、あいつにとってやりたいことも好きなことも、家からしてみれば下らないことだった」
「…はい」
「考えてみろ、人の話をきくたまじゃないだろ、あれは…色々してるうちについに勘当されたらしい」
「…多分、喜びましたよね」
「だろうな…で、まぁ俺の推測だとその大っ嫌いな家から、頻繁に連絡が来るんだろ、そんなとこか」
「何となく、わかりました」
アッシュに礼をいうと、ルークも紅茶を飲み干した。
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