「あら、アッシュ…自宅療養中じゃなかったの?」
「…レジくらいなら出来る」
「とーっとと帰れっ」
「ルカ、お前殺すぞ」
「俺はなーんにも悪くねぇ、勝手に骨折したアッシュが悪い」
「…こいつ一回殴っていいか?」

もともと短気なアッシュは松葉杖で立ち上がると、ぐいっとルカの胸ぐらを掴む。

「こんにちはーっ」
「おー、ルーク」
「って!なにしてんだよ、怪我人に!!」

明らかにルカは、アッシュに殴られそうになっているのだが、ルークはアッシュを庇ってルカを責める。

「ちょ、おま、明らかに今苛められてるの俺だろ!」
「だって!!アンタが絶対何かしたに決まってるじゃないか」
「ルークったら…」
「足、大丈夫ですか?」
「ぁ、あぁ…」

アッシュは掴んでいたルカをぱっと放した。

「無理しないでくださいね、はい、椅子どうぞ」
「お前は…?」
「俺、怪我した方の代わりでバイトに入ってる、ルークっていいます、よろしくお願いします」

にこにこと笑うルークと名乗った少年にアッシュは小さく笑みを溢す。

「そうか、頑張れよルーク」
「はいっ!ぁっ俺着替えてきます!!」

頭をペコリと下げてロッカーに駆け出したルークに、ティアもアッシュも、ルカもお腹を抱えて笑い出してしまった。

「あのこ、っふふ…きづいてないのかしらっ」
「ククッ、ルカ、おまえあんな面白いのよく見つけたな」
「だろ?あー、腹痛ぇ…けど、あいつは俺のだからお前にはやんねーよ」
「そのわりには思いっきり嫌われてた気がするんだが」
「ルークは筋金入りの鈍感なの、ルカの惨敗中ってところかしら」
「そいつはいいことを聞いた、まだちょっかいを出す余裕はありそうだ」

楽しそうに笑ったアッシュに、ルカは睨み付ける。

「お前の趣味じゃねぇだろ、ルークは」
「いや、気に入った…ああいうのもたまにはいいな」

ぺろりと舌で自身の唇を舐めたアッシュにルカはもう、引っ掻く勢いで威嚇した。

(ナチュラルに、同性同士ってことには突っ込んでいいのかしら?)

密かにティアが思っていると、着替えたルークが、アッシュに牛乳を持ってきてまた周囲の爆笑を誘っていた。

「怪我していらっしゃるのにだめですよ、俺が持ちますから」
「そうか、すまないな」

大変におもしろくないという顔をしたルカがガッチャガチャと音をたてながら食器を拭いていた。

「ルカ」
「んだよ、ガイ」
「眉間シワ寄ってる、怖いぞ」
「うっせ、ほっとけ元からこういう顔だ」
「あぁ、しかもそんなにガチャガチャしたら食器欠けるって」
「…んじゃあ、ガイやっといて先上がるわ」

ぺいっとガイにスポンジを投げるとルカはとっととロッカーへ行ってしまった。

「難しい年頃かなぁ、ティア」
「ただの焼きもちね、まぁちょっと不敏ではあるけれど」

今回はルカに味方するわとティアは息を一つ吐いて、自分の分の作業を終わらせる。

「私も明日早いの、それじゃあこれで、後はよろしくガイ」
「あ、ティア!?!」

大量の食器にこれ一人で片付けるのかと半分泣きながらガイは食器を手に取った。

「ルカ、一緒に帰りましょ」
「ん?珍しいな…いいよー可愛い女の子は大歓迎…送り狼ってのも得役かな?」
「ルークじゃなくて残念?」
「いーや、全然」

煙草をふかしながら帰っていたルカは携帯灰皿に直ぐにそれを捩じ込み答えた。

「見ただろ、アッシュが俺の反応で面白がってたの」
「嫉妬でもしていたのかと思ったのに見当外れだったわ」
「そういうふりってこと、そんなに子供じゃねーよ」

クスクスと笑ってルカは上着のポケットに手持ち無沙汰になった手を入れた。

「ねぇ、ルカ…もしルークにフラれたらどうするの?」
「ンー、考えたことなかったな」
「呆れた…」
「その時はその時…そうだな、酒飲んで寝て、パチンコやって、カラオケ行って、キャバクラ行ってたら忘れるよ、元から超一方通行だし」
「…ルークの前でもう少しそういう大人な態度とったらいいんじゃないかしら?」
「何、ティア的には100点?」
「そうね、80点よ…」

プイッとそっぽを向いたティアにルカは、小さく心配してくれて、ありがとうと言った。

「ルークもどうです?飲んでいきませんか?」
「紅茶?」
「ダージリンだ」
「いただきます」

ジェイドがカップを用意し、アッシュはそれに注ぐと二人の前に差し出した。

「いつも通りの味ですね」
「鈍ってはいないみたいだな」
「…」
「ルーク?美味しくなかったか?」
「いえ、すごく美味しいです…けど」

何とも言えずに、唸っていると助け船をだすようにジェイドは笑った。

「ルークはルカの特別を一度味わってるんですよ、アッシュ」
「そういうことか…なら仕方ない反応か、確かにあれの味を覚えたら他のは受け付けないな」
「ぇ…でもあれから一度も淹れてもらってないですよ」
「おや、感動的な出会いをした味は忘れないものですよ」

感動的だったかなと一瞬ルークは思ったが、曖昧にそこは返事をした。

「アッシュのいいところは自身の変化に変わらずいつも一定したものを提供できるところですね」
「感動は薄いかもしれんがな」

ちらりと見られてルークは顔を赤らめる。

「…噛み合わなくてもアッシュは一応は認めてますからね」
「一応な、ムラはあるが接客もあいつの方が上手い」
「貴方も少し笑えばいいんですよ」
「無理だな…」

二人の会話を聞きながら、ルークはルカを少し思いだしていた。
今日だっていつも通り仕事をしていた筈なのに、ルカと交わした言葉がとても少ない気がして、胸の辺りがスースーする。

(俺、明日お休みだし…)

お客として来たらお茶を淹れて貰えるかな?
そんな淡い期待を込めてルークはアッシュの淹れたお茶を飲み干した。

「こんにちは」
「あれ、ルーク今日はお休みでしょ?」
「アニス、だから今日はお客さん」
「そういうことか、お目当てはどっち?」
「お目当てって…」
「教えてくれたらちゃーんとルークの接待させるよ」

ウィンクをしたアニスにルークは少しだけ頬を染めて、「ルカさん、お願い」と呟いた。
その答えにアニスは少しだけびっくりするとルークを席へと案内した。

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
「カプチーノ、一つで」
「カプチーノお一つですね、承りました」

アニスが厨房に戻ると仕事用のスマイルを浮かべたルカが、やってきてルークの前で、エスプレッソの入ったカップにフォームドミルクとスチームドミルクをゆっくりと入れていく。

「中、見ててご覧」
「わぁ、すごい」

竹串でエスプレッソで絵が描かれる。

「四つ葉のクローバーだ」
「当たり」
「お客様には特別、カプチーノの他にマフィンもどうぞ」

俺の奢りですとルークにそれを差し出した。

「俺、もうすぐ上がりなんだ…ルーク時間ある?」
「はい、ありますけど」
「じゃあ、お茶しながら待ってて遊びに行こうぜ」
「ぇ…」
「嫌?」
「嫌じゃないです」
「よかった、なら待ってて」

耳元でルカは囁くとカートを押して行ってしまった。

「…っ」

ルークは笑みを溢すと幸運の葉っぱをこっそりと携帯で写真に撮って待ち受けにした。

「お待たせ」
「どこに行くんですか?」
「商店街、行こうぜ」
「ぁっ」

ぎゅっとルークの手を握るとルカはそのままぐいぐいと引っ張っていく。

「ルカさん」
「ん?」
「なんか、久しぶり」
「…確かに、そうかも…今日はルークの補充だ」

今度は腕の中に招かれてルークは苦しい苦しいとすぐ暴れた。

「…好きだ、誰より」
「っ!」

さらりと呟いてルカは笑ってすぐにいつもの調子に戻る。

「ほら、行くぜ!日が暮れるからな」
「あ、はいっ!」
「おや、ルカじゃないか」
「あれ、タマラばぁちゃん、今から行こうと思ってたんだ、例のやつ買いにきた」
「そうかい、そうかい…じゃぁ、店の方に行こうかのう」

三人で並んで歩くとなんだか不思議な感じで、ルークはなんとなく理由を聞けずにただついていった。

「ほれ、こんなんでいいかのう」
「おっ、サンキュー」
「かぼ、ちゃ?」
「そう、これでジャック・オー・ランタンを作るのさ」
「ハロウィンの?」
「正解、ばぁちゃん代金とこれ、クッキーな」

ルカは持っていた袋と代金を渡すと右手にかぼちゃ、左手にルークの手を掴むと店から出た。

「もしかして、ハロウィンの飾り付け?」
「そうそう、俺好きなんだよな、そういうイベント」
「…俺も好き」
「ん?」
「ハロウィンとかクリスマスとか、季節で変わってく町の感じとか…そういうの大好きです!」
「なら、よかった…アニスとティア以外は疎いんだよ、あの店…明日でいいから手伝って」
「でも、かぼちゃは?」
「俺が作っとく」

頭を撫でられてルークは、子供扱いするなと頬を膨らませる。

「なんなら俺も「赤ずきんちゃんはちゃんと家に帰らないと、狼に食われるぜ?」
「誰が赤ずきんですかっ!」
「なら、食ってやろうか?」
「っ!」
「嘘だって、ほら、家まで送ってくよ」

妙にドキドキさせられて、ルークはなんだか悔しいが鼻歌を歌うルカの後ろをついていくしかなかった。

「おっす」
「ルカさん、こんな感じでいいですか?」
「うん、いんじゃね?」

入り口にジャック・オー・ランタンを置いてルカはうんうんと頷いた。

「それにしても、ルカさん器用ですね」
「まぁな、毎年やってるんだ、これ」
「へー、じゃあ、来年も…ぁ」
「ルーク?」
「俺、アッシュさんが治るまでの代わりだったのすっかり忘れてました」

思わず恥ずかしそうに口を押さえたルークに、ルカは頭を撫でて小さく笑う。

「いーじゃん、別にバイト続ければ…ルークが辛くなければの話だけど」
「ルカさん」
「永久就職は俺のとこにしろよ、なっ」
「…何言ってんですか!」
「それに、言ったろ…ここの奴らはイベント毎に興味ないし、準備するの辛いんだ…ルークがいなかったらこんなに早く終わらないからな」

もうずっとここにいろ、とルカは最後にルークに呟くとこめかみにキスを送った。

「ルーク、どうかしたー?」
「あ、アニス…」
「わぁ、ここんとこ顔真っ赤だよ…熱でもある?」
「ちが、くて」

どもるルークに、アニスはははーんと目を細める。

「ルカにイヤらしいことでもされた?」
「いやらっ!違う!違うよ!!」
「だよねー、ルークがそう簡単にエッチさせてくれそうにないし」
「アニス!アニス!!」
「冗談、冗談…でも、額にキスなんていっつものことでしょ、外国育ちのルカになんて日常茶飯事のもんだろうし」

まぁ、ルークはかなりの特別だろうけどとアニスは続けて言う。

「なんか、すっごいセリフ言われた」
「で?」
「ど、ドキドキした」
「好きなの?」
「ぅ…わかんない」
(焦れったいなぁ…)

恋愛ごとが大好きなアニスにとって、もうルークの焦れったさは後ろからしばきたい気分だった。

「もう、食われちゃえば」
「アニス!?!」
「取り敢えず、ため息ついてて掃除進んでないから」
「ごめん」
「わかったら掃除する」
「はい」

アニスに怒られたルークはしゅんとなって黙ってモップを動かした。









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