「一名様ですか?」
「はい」
「畏まりました、席までご案内致します」

少し寒そうな気品のよい女性に、ルークはカウンターではなく、日の当たるぽかぽかとした席に案内した。

「此方がメニューになります、本日のオススメは此方の方です、もし宜しかったらどうぞ」
「ありがとう、貴方見ない顔ね?」
「今日からバイトさせていただいます、ルークと申します」
「そうなの、注文が決まったら呼びますわ」
「はい、失礼します」

ゆっくりと注文を見た後に、女性はルークを呼ぶと本日のオススメのケーキと珈琲を注文した。

「オーダー入ります、本日のオススメとケーキと珈琲一つです」
「了解」

ルークの注文に合わせてルカが颯爽とフロアに出ていき、ルークはガイが綺麗にセットしたケーキをトレイに乗せた。

「これを敷いたら、フォークを置くんだよな?」
「そう、お待たせしましたって、頑張れよルーク」
「うん」

よしと、気合いを入れるとルークはフロアへともう一度向かった。

「ナタリアが、タルト以外を注文するなんて珍しいな」
「ルークといったかしら、あの子がオススメと言ったから注文したの、凄く目が輝いてて…よっぽど美味しいのかと思って」
「俺の見立てどう思う?」

珈琲を出しながらにっこりとルカは笑う。

「貴方にしては上出来ですわ…だってあの子、私を日の当たる席に案内したの、よく見ているわ、私少し寒くて日の当たる席がよかったんですもの」
「ナタリアに好かれるなんてやっぱり俺の見込んだ通りだな」

ケーキを持ってきたルークは一瞬だけ止まってしまう。
二人の笑い合う光景のお似合いなこと。
そんなことを、頭の隅で思いながら、ナプキンを敷いてフォークを置くと「本日のオススメのケーキです」とナタリアの前にケーキを置いた。

「どうぞ」
「ありがとう、聞いてくださる、ルーク?貴方を見つけたってすごく自慢されてたのよ」
「それは…成り行きというかなんていうか」
「俺に見初められて嬉しかったろー?」
「嬉しくないですっ!」

がっ!とルカの足を踏むとルークはナタリアに一礼をしてから厨房へと戻っていく。

「いってぇ…」
「あらあら嫌われたわね」
「いやいや、これから頑張って口説くよ」
「頑張りなさいね、なかなかいない逸材よ、きっと」

ナタリアに言われてルカは勿論と笑うと厨房で頬を膨らませているルークのところへ戻っていった。

(やば…っ!)

つる、とティーカップが手から滑り落ちてカシャンっと音が響く。

「ルーク」

静かなジェイドの声に怒られると思ったルークは直ぐに頭を下げた。

「すみません!」
「…その分だとケガはないみたいですね」
「へ?」
「怒られると思いましたか?」
「はい…正直に言えば」
「形あるものは壊れる、貴方が嫌々仕事をして破損させたわけじゃない…それを怒る理由はありませんよ、それに」
「それによくピオニーさんが大暴れしてよく食器ダメにしちゃうもんねっ!はい、箒とちりとり!」

ジェイドの言葉に続けるようにアニスは、ちりとりをルークに手渡した。

「ピオニー?」
「ジェイドの親友ってとこだな!」
「へ、?」
「ルーク!!何もされてねぇーよなっ!今そこでピオニー入ってくの見た!!」
「…まったく、騒がしいのが次から次へと…ルーク、まずその、金髪で色の黒いおじさんが、お店に来ては店内を荒らしていく、困った私の親友でピオニーといいます」
「こんにちは、バイトのルーク・フォン・ファブレで「俺の恋人予定だ」
「誰が!!!」

まだ、制服にも着替えず私服姿のままのルカがルークをぎゅっと抱きしめてさらりと爆弾発言をする。

「よろしくな、ルーク!まぁ、カップ一個くらい気にすんな、俺なんて数えきれない程割ってるしな!」
「お前、それ全然フォローしてねーぞ、ピオニー」
「ルカは俺をちゃんとさん付けで呼べ」
「やーなこった!!」
「さぁ、ピオニー私と仕事の話です、皆さんは各自の仕事に戻る、ルークは気を落とさないで次は気をつけなさい」

まだ、ルークにちょっかいをかけたがるピオニーの首根っこを引きずってジェイドは厨房から出ていった。

「アニスちゃん、これ捨ててくるね」
「ごめんな、アニス」
「いいよ、その代わり貸し一つね」
「わかったよ」

アニスを見送って、ルークは肩口に顔を埋めてるルカに「いつまでそうしているつもりですか」と声をかける。

「んー、ルークが俺のこと好きになってくれるまでずっとかな」
「だから」

振り向いたルークにルカは真剣な顔をして手を掴む。

「カップ、落としたんだ…本当にケガない?」
「血も、出てないです!」
「でもここ薄皮剥げてる」
「薄皮くらい平気だってぁ…」
「薄皮でもケガはケガ…消毒、な」

ちゅっとその場所に唇をよせるとルカは、ルークの手を放してロッカーに向かった。
入れ違いで着替えたティアが厨房に入ってくる。

「ルーク、今日も頑張りましょうね…顔、赤いわよ、平気?」
「ティア…」
「お客様が来るまでに落ち着いてね」
「うん…」

暫く、顔の火照りはとれそうになかった。








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