「なんで、俺の担当が貴方なんですか」
「当然、俺が見つけたバイトくんだからな」

制服に着替えてルークは、ため息をつく。

「基本、組を組んで接客してるんだ…俺らで言えば、お前が注文取ってきて厨房に持ってくる、俺がお茶を淹れてる間にケーキとか持ってくる…そんな感じか、大体」
「はい」
「中国茶なんかもやってるからお茶淹れる方が難しいな」
「中国茶?」
「飲んだことないか?まぁ、お子ちゃまだし仕方ないよなー」

ぐちゃぐちゃと頭を撫でてくる手を叩き落としてルークは頬を膨らませる。

「お子ちゃまで失礼しましたっ!」
「こらこら、ルカからかうのもいい加減にしてやれよ」
「ガイさん」

優しく微笑んで、たしなめる彼はここのお店で洋菓子を作っているパティシエ。
こんな人が作るから、モンブランだってあんなに美味しかったんだと、ルークはガイを見て納得した。

「ルーク、今日作ったの試食してみないか?」
「え、いいんですか!?」
「みんなから試食して貰ってるんだ、今日はルーク」
「ありがとうございます、いただきまーすっ!」

一口パクりと口に入れてルークはほっとため息をついた。
ふわふわのスポンジに、甘めの苺。

「苺、甘い…なんか初めてな感じ」
「俺、なんで市販で売ってるショートケーキの苺は酸っぱいのか凄く疑問に思っててさ」
「もしかして、ガイさん苺だけ食べるタイプですか?」
「そう!あの苺の酸っぱさは衝撃的だったなぁ」
「俺もなんです!苺はメインだからって最後に残して楽しみに口に入れたら酸っぱくて母親のチョコレートのケーキにかぶりつきました」

嬉しそうに頬ばっているルークに、ガイはこっそりと打ち明けるように小声にした。

「このケーキは、ルカがいたから出来たんだ」
「ぇ、ルカさんが?」
「二人で色んな種類の苺毎回食べて完成させたんだ」

続けてガイはルークにだけ聞こえるように言葉を続ける。

「あいつはさ、嫌がらせしてるように見えるけど、それはルークの事が好きだからなんだよ」
「何言ってっ!俺は昨日ルカさんと会ったばかりですよ?」
「あぁ見えて、人見知りなんだ…一度打ち明けた人じゃないと絶対にすりよって行かない…だから本当に昨日はびっくりしたよ」
「俺は、いいおもちゃを見つけたという目で見られてる気がするんですが」
「…まぁ、少しだけ多目に見てやって、あれでも悪気はないからさ」

昨日淹れてくれたお茶は確かにものすごく美味しかったし、これからパートナーなのだから少しのことは多目に見ようと、ルークはいつの間にかジェイドと話し込んでいるルカをそっと確認して微笑した。

「新しい、バイト?あぁ、アッシュの代わりの…よろしくね、私はティア・グランツ…近くの女子高に通ってるの」
「よろしくっ」
「それにしても貴方、ルカに目をつけられるなんて運が悪かったわね」
「あ、はははっ…でもさ、お茶すごく、美味しかったんだ」

ルークは同じくバイト仲間であるティアに微笑んで答えた。

「珍しい、ほぼ初対面のルカをそんな風に褒める人」
「え、そうなのか?」
「ルカのお茶は美味しいけれど、気分にムラがあるからいつも一定のものじゃないのよ」
「言ってくれるなー、ティア」
「ぐぇっ」

ルークの首を片腕抱くように軽くしめつけて、現れたルカにティアは「あら、本当のことじゃない?」と付け加えてクスリと笑う。

「よっぽど、この子のこと引き止めたかったのね」
「いいだろ、実力だよ」
「お客様は選ばないで引き止めなさいよ」
「相変わらず、厳しい奴」

ルカにいいようにされているルークは二人の会話が理解できずにただ頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

「いーい、ルーク」
「アニス?」
「簡単に言えばー、ルカは自分が最高のお茶を出したいと思った人にしか出せないってわけ」

店主ジェイドの姪である彼女は、手伝いという形でこのお店で働いているらしく、まだ中学生。

「どう、わかった?」
「うん、わかったよ、アニス」

腕をほどいて、くるりと振り向いたルークにルカは一瞬たじろぐ。

「おっお客さん選ぶなんて最低です、ルカさん!!」

拳を握って叫ぶように力を込めて言ったルークにみんな一瞬で固まって、次の瞬間響いたのは笑い声。

「あはははっ、ルークってば面白い!最高!!」
「ふふ、どんな子なのかしらって思ってたけど、仲良くなれそうだわ」
「そうきたか、この野郎」

俺の緊張を返せと聞こえた気がしたが、ルークは笑ってくれたアニスとティアに夢中で気づかない。

「私、おじさんのとこ行ってくる…この話しなくちゃ」
「てめっ、ジェイドは止めろっ!」
「嫌っこんなに面白いのにっ」
「え、え?」
「いいのよ、ルーク、貴方は気にしなくて、それよりもう少しでお客さんが来るわ、準備は大丈夫?」
「うん!俺頑張るよ」
「えぇ、頑張ってね」

アニスとルカの追いかけっこをしり目にティアは、ルークの肩を軽く叩いた。
その時、カランと開いた扉の音に、二人は微笑んでいらっしゃいませと口にした。








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