線香花火


「雨かよ、つまんねー…」

久しぶりに、ルークと遊ぶ約束をしていたのに、もう一人のルーク…ルカは溜め息まじりに愚痴を溢す。

「仕方ないだろ、梅雨なんだから」
「何だよ、お前は楽しみじゃなかったのかよ」
「そんなこと言ってない!俺だって楽しみにしてたんだから!!」

バチカルで毎年行われる今日の夏祭りは、雨天のため延期になったのだ。

「髪の毛鬱陶しいだろ、結ぶからこっち来て」

すこぶる機嫌の悪そうなルカを呼ぶと短髪ルークは長い赤毛を結き始める。

「何かしよーぜ、ルーク」
「ちゃんと考えてるから夜まで我慢しろって」

夜までを強調したルークにルカはニヤリと微笑んだ。

「エッチなことか?」
「何言ってんだよ、そんなわけなっあっ!」

座っていたベッドに押し倒されてルークは短い声をあげる。

「やだってば!もう!!今したらもう遊べないんだからなぁ〜〜〜っ!!!」

ベチッと頭を叩かれてルカは渋々押し倒したルークを、引っ張って起こした。

「キスくらいはいいだろ」
「ん、許す」

濡れた、甘い音を交しながら唇をはみあう。
もう少し…、薄く開いたルークの口に舌を探るように入れると、それ以上はダメというように肩を押される。

(ちぇ……)

つまんねーと思いながら放すといい子、いい子するように撫でられた。

「夜、楽しみにしてて」
「お預けにした分、させてくれんの?」

ルカの含みをもった言い方にルークの拳が飛んできたのは言うまでもない。








「夜になったら晴れやがった」
「まぁまぁ、でも水溜まりもできてるから祭りなんて行ったら泥だらけだよ」
「…それもそうだけどよ」

納得いかぬぇーとくすぶってるルカを連れてルークはファブレ邸の温室に向かう。
小さな川、それに草花、木まであるそこは、温室というよりは庭に近い。

「で、こんなとこで何するってんだよ」
「これだよ、これ」

闇に目もやっと慣れてきた頃、ルークが取り出したのは手持ちの花火だった。

「俺、打ち上げよりこっちの方好きだぜ」
「へぇ…ルカは華やかで大きい方が好きだと思ってた」
「悪くはねぇけどなぁ…ルークと二人でいられるならこっちの方がいい」

思わず、きゅぅっくるようなセリフを言われてルークは暗闇で良かったと思うほど真っ赤になる。

「も、何言ってんのさ、やるよ!」

シューっと音をたて七色に光るものや、勢いよくバチバチと火花が散るものを二人でやっていくと沢山あった花火はあっという間になくなっていった。

「ルーク、見てみろよ」
「はいはい、遊ばないの」

勢いよく噴き出す花火が軌跡を描いてハートや星の形を残していく。

「もうそれで花火終わり」
「えーマジ?」
「うん、ぁ、線香花火ならあるよ」

取り出すとルカの顔がみるみる不機嫌になるのをルークは知らない。

「ルークもさ、もしかしてそれが落ちないで消えたら願い事が叶うとか信じてんのかよ?」
「え、うーん…いいジンクスだとは思うけど…」

曖昧なルークに、ルカは肩を掴んで瞳を合わせる。
これくらい近ければ、暗がりでもわかる範囲だ。

「る、ルカ」
「そんなのに願うくらいだったら、俺に言えよ…俺がルークの願い全部叶えてやるから」

なんて強かな存在だろうとルークは思う。

「…一緒にいて…これからも、死ぬまで離れないで、愛しあって…ルカと幸せでいたい…かな」
「ルーク…、なんだよ欲がねぇな」

何年経とうが、どんな存在になろうが、あの時の罪は消えない。
自分はずるいのかもしれない…だけど許されるなら、願っていいのなら…自分はそう願う。

「ルカ…」
「俺がお前を幸せにしてやる、まかせろよ…」
「る、か…」
「もう、花火は終わりでいいだろ」
「うん…」

儚く散ることのない花がゆっくりと開花しようとしていた。

「んんぅっ…」
「ルーク―…」
「優しく、して」
「わかってるって…」

いつの間にか、月が温室まで照らし互いに夢中になる二人を優しく包む。
ルークの手から滑り落ちた火の着くのことのない線香花火は、落ちた地面で夏を彩ることはなく、ゆっくりと湿気っていった。



END



―――――
夏祭り企画に出していただいたルクルクです。
お題配布元:確かに恋だった様より


[*prev] [next#]








[*prev] [next#]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -