あの日言えなかった言葉 下




「ティアちゃん」
「あら、どうしたの、ルーク」
「あのね、あのね…はい、これ」

息を切らせたルークが差し出したのは色鮮やかな銀杏の葉っぱ。

「綺麗」
「あのね、なんだかよくわからないんだけどティアちゃんに渡してって言われたの」
「ありがとう…そうだ、ルークよかったら家に来ない?ルカも一緒に」
「うん!行くー!!ルカちゃんも呼んでくるね」
「校門で待ってるわ」

ルークに手を引かれてやってきたルカが軽くよぉと声をかけると、ティアは小さく笑って行きましょうと促した。

「わぁ…ティアちゃん、あれ読んでもいい?」
「えぇ、いいわよ」
「ありがとう!」

古い、けれど立派な洋館。
ティアの家につき、いれてもらったお茶を飲みながらルカは聞く。

「で、どうした?」
「え?」
「何か有るんじゃないのか?」
「庭の銀杏の木がすっかり葉さえつけなくなってしまったの…枯れたというには余りに突然のことで、彼が今日、秋の妖精の話をしていたでしょう…それで」
「ティアはさ、笑わないよな」

静かにカップを置くと、本を楽しんでいるルークを尻目にルカは笑みを溢す。

「みんながルークを冷やかして笑ってもティアは笑わなかった…よかったら理由教えてよ」
「…もしかしたら私はルークと同じ立場だったかもしれないの、見えたのよ、昔は」

今はもう見えないけれど、とティアはつけくわえて膝の上で手を組んだ。

「人と妖精の区別がつかなくて…そんな私を両親は責めたりしなかったわ、けれど世間はそうはいかないからあんなに優しかった彼らを私は拒絶してしまった」

見えたら変なの、見えたらダメなの、だからもう出てこないで。
そう言ってしまったことを、深く後悔している。

「私はルークの様にみんなに変だと言われて我慢することができなかったの…」
「ティアちゃん、あのね…」

今まで本に夢中だったルークが新たな本を抱きしめながらテーブルの近くに寄ってきた。

「お庭の銀杏さんが枝だけになったのは…ティアちゃんのお顔が最近とっても優しいから、安心したんだって」
「…怒って、ないの?」
「怒ってるの?…ううん、怒ってないって」
「今ならわかるのに、貴方たちのこときちんと見たいのにどうして見えないの…どっちにいるかさえもわからないなんて」
「見えるよ」
「…自分で閉じた目だろ、ちゃん開ければ見えるって」

ルカに大丈夫だとぽんぽんと肩を叩かれティアは涙を拭うと顔を上げる。

「…」
「大丈夫、ゆっくり見て」

涙でなく、ゆらゆらと空間が揺らぎ、そこだけ色が変わってティアには懐かしい姿がそこに現れる。

「ごめん、なさいっ」

やっと絞りでた声に、銀杏の妖精…初老の女性はにっこりと微笑んでティアの頭を撫でた。

「ティアちゃんのお家、他にもいっぱいいるのー!」

色んな所に手を伸ばしてルークは喜んでいて、ルカはゆっくりと眼帯を外して部屋の中を見るとぼやぼやと空間がいくつもゆかんでいるのが見えた。

「ルークの家よりは少ないけど、確かに多いな」
「貴方も見えるの?」
「や、俺にはまだゆがんでぼやぼやしたものが見えるだけー、ティアはもう見えるんだろ」
「えぇ、不思議ね…こんなに近くにいたなんて、せっかく貴方たちのおかげでもう一度彼らに会えたんだもの、大事にするわ」

嬉しそうな顔をするティアにルークとルカは小さくピースをして笑いあった。



END









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