眠り姫には口づけで



「ルカちゃん、起きて!」
「なんだ、って、ルーク、今日、学校休みだろ…」
「もー!るーかーちゃん!」

寝起き悪いー!と遠くで聞こえ、ルカはかぶり直した布団の中でよくよく考える。
今日は学校は休みで、ルークとは前の日に昼に会う約束をして。

「で、なんでルークがここにいるんだ」
「だから、何回も起こしてるのに!」

当のルークは手のひらサイズになってふよふよと浮いていて。

「随分ちっちゃくなったな」
「ルカちゃん、あのね、この部屋ルークの部屋だよ」
「そういえば、なんでルークの部屋」
「はい、鑑」
「うん、って、はあぁあ!!?」

俺が、ルークになって…。
ルークになって…。

「夢?」
「夢だと思う?」

手のひらに乗るルークの温かさと重さに、夢じゃないんだなとルカの思考ががフル回転する。

「夢じゃないな」
「うん」
「でも何がどうなってんの?」
「すごく簡単に説明すると、妖精さんが悪戯して、ルカちゃんの魂をルークの体に入れて、俺を追い出して、ルカちゃんの体を持っていったの」
「そいつはまた難儀な」
「取り返しに行かないと、大変なことになっちゃう!ルカちゃんはローレライの目の持ち主なんだよ!!」
「つっても、どうするんだ?」

いつも通り冷静になると、ルカはルークに聞いた。

「それはね、妖精界に行く!」
「あー…追うってこと?」
「うん、今のルカちゃんは俺の体に入ってるんだよ、感じてみて」
「確かにさっきから妙に視界がキラキラしてるっつーか」
「それそれ!大丈夫!場所は他の妖精さんが教えてくれるから行こう!!」
「この格好でか」
「ちゃーんと、着替える!」
「はいよ」
「ルカちゃん…あんまり、体見ちゃだめなんだからね」
「そいつは残念」
「もう、ルカちゃんのえっち!」

体を持っていかれたっていうのに、自分でもびっくりするくらい落ち着いていて、ルカは静かに笑うと着替えてルークに言われた通り、バッグを肩にかけてリビングに向かった。

「うわっ」
「どうしたの?」
「随分いるんだな」
「アッシュが心配してよこすんだよー!後はお友達とか入り口もあるからだと思うよ」
「なんか、疲れるなぁ」
「器と中身が違うんだもの、早く体取り戻そ!ちょっと眩しいと思うから目つぶってて俺があっちに連れてってあげる」

ルークに言われた通り目をつぶってルカは立つ。

「ルカちゃん、そのまま一歩踏み出して」

耳の近く、頬にルークの温かさを感じてルカは一歩踏み出した。

「いいよー」
「うわぁ、すげぇ、でっけぇキノコ」

目をつぶっててもわかるくらいの眩しい光を抜けると、風が頬をなでて、草木にキノコが揺れた。

「ここが妖精界か」

まぁ、ある意味メルヘンっちゃ、メルヘンかと妙に納得してしまう。

「さて、俺の体持ってた奴はどいつだ、んにゃろー」

人の休み邪魔しやがってとルカは頭をかいた。
すると、キノコの近くでくすくすと笑う声が聞こえる。

「ルカちゃん」
「おうよ」

ルークの体に入った今となっては、妖精もくっきり見える。
むんずと掴まえると、ルカはとびっきりの悪い顔で笑った。

「おい、俺と同じような奴通っただろ?どっちに行きやがった」
「知らないねぇ、泉だったかな?森だったかな?」

どうやら言う気はないらしい。
ならばとこれ見よがしに、金平糖を取り出すとそれをひょいっと口に入れる。

「金平糖!」

なぜか、奴らは大抵、金平糖やら砂糖菓子に弱い。

「ほしかったら、案内しろ…それとも、お前らの前で全部食ってやろうか」

いったいどちらが悪いのやら。
金平糖がほしい妖精たちは素直にあっちだよと案内し始める。

「ルカちゃん、大丈夫?」
「ん?」
「さっきから目ごしごししてるし、なんか息切れしてるから」
「ルークの世界は俺には眩しすぎる」
「そう?でも、アッシュはもっと眩しいし、ルカちゃんはそれよりもっと眩しいよ」
「俺は、発光体か」

走るのが辛くなってきて、ルカは大きく息をつく。

「ルーク」
「なに?」
「お前、体力無さすぎ」
「だって、体育は得意じゃないの」
「家で菓子と茶ばっかり飲んで食ってるからだな」

グイッと頬を拭うとルカは、引きこもり習慣を直さないととまた駆け出した。


「こぉおぉらあああぁ!!!シルフーーー!!!」

開けた場所にでると、泉がキラキラと輝く。
ルークの声が凛と響くと、木々がぶわわわっと揺れて笑い声が聞こえる。

「ルカちゃん返さないと、もうプリン買ってあげないんだからなーー!!!」
「は、プリン?」

おいおい、プリンで釣れるのかよと、笑い声はまるで相談でもするようなヒソヒソという声に変わっていた。

「案外来るの早かったよね」
「あれ、返さないとプリンもうくれないってプリンないのは嫌だなぁ」
「つか、もう、飽きた」

人の体持っていって飽きただとこの野郎と正直怒鳴りたい気分だったが、せっかくルークのおかげで上手くいきかけてるのだ水をさしてはいけない成り行きを見守る。

「返して!」
「はーい」

シルフが挙手をすると、ぶわぁっと風が待って、自分の体が横たわっているのが見えた。

「うぉ」
「ね、ルカちゃんキラキラしてるでしょ」
「なんか、気持ち悪いな」
「そんなことないよ!ルカちゃんのキラキラ温かくて大好き」
「ありがとうな…うん、でも、寝てる自分をまじまじと見るっつーのもなかなか…」

やっぱり気持ち悪ぃと小さく呟く。
それにしても、どうやって戻るんだどルークに目をやれば、ルークも伝わったのか首を傾げる。

「おい、お前ら、どうやって戻るんだよ」
「どうって、口移し」
「口移しー」
「魂は口移しで戻すんだよう」

三人が、口移しを連呼する。
自分の顔にキス…考えただけで身震いがしたがそれしかないと言われると腹を括るしかないようだ。

「え、と…なんか恥ずかしいんだけど」
「む、ルカちゃんよりずっと恥ずかしいもん」
「あー!もうどうにでもなれ」

ルカはそれは勢いよく口づけると閉じていた目を開いた。
すると、自分の顔じゃなくルークの顔がアップでうつる。

「ン…っ」
「…」
「おはよー」
「あのなぁ、俺は別に寝てたわけじゃ…、はぁ…おはよ、ルーク」
「ふふ、なんだか眠り姫みたいだったね、ルカちゃん」
「姫とか、止めてくれよ…」

自分にキスするのを思いだしたルカは鳥肌を消すように腕をさすった。

「帰ろうぜ」
「うん」

ルークは、多分シルフであろう、ぼやぼやしたものを叱るとルカの手を握る。
帰り道の風景はとても静かで…ルカはルークの手を握ると小さく笑った。



END









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