精霊を捕まえて!
「で、そのセイレーンとやらを探しにいくと」
たまにルークから出かけようと言われればこれだとルカは小さくため息を吐く。
「うん、アッシュに頼まれたの…でもルカちゃんとお出かけしたかったのは本当だよ、嘘じゃない」
「知ってるよ、ルークは嘘つけないからな」
「なんか、ごめんね…」
しゅんと落ち込んだルークにルカは苦笑して頭を撫でる。
「いいよ、ちゃっちゃと解決して遊ぼうな」
「うん!」
ルークは大きく頷くとポケットからシルバーのアクセサリーを差し出した。
「昔からシルバーにはお守りの役割もあるんだよ、持っててきっとルカちゃんの役に立つから」
「おう、さんきゅ」
手っ取り早く二手に別れて、ルークとルカはセイレーンを探す。
美しい声と歌に誘われて行方不明になる、男性たち。
「全く、厄介だな」
ルークとは岩場からルカは海辺をたどる。
磯の香りと波の音の中に微かに女性の声が聞こえる。
(まさかな…)
セイレーンは歌で誘うんだとルークに教えられたルカはその声を追って走りだした。
「見つけた、セイレーン!」
「ふん、取り替えっ子が何しにきた」
「また、昔みたいに人拐って、妖精界で精霊もだめだって決まっただろ!!」
「ええい!うるさいぞ」
セイレーンは自分の歌で虜にした男たちを操り、ルークを襲わせる。
「いや!」
相手は生身の人間なので傷つける訳にもいかず、ルークはただ逃げるだけ。
「ルーク!!」
「ルカちゃん!!」
「また一匹増えたか」
クスクスとセイレーンは笑い、ルカに向かって歌を歌う。
「ルカちゃん、聴いちゃだめ!」
ルークが叫ぶも、ルカの瞳がどこか光なく虚ろになった。
「ほう、朱毛に翡翠と青の瞳…美しい男子じゃ」
「ちょっと!ルカちゃんに何するんだよ!!触っちゃだめー!!」
「悔しいか、取り替えっ子…」
セイレーンがルカに触れようとした瞬間だった。
ルカが、セイレーンの手首を掴み足払いをかけると岩の床に取り押さえる。
「残念だったな、お前の声よりルークの声の方がずっといいよ」
「ルカちゃん!」
「ルーク、一発くらい殴っても死なないから目覚ましてやれ」
「わかった!」
そぉいっ!と自分を掴んでいた男に一発くらわせると、カバンからミネラルウォーターを取り出すと中身をぶっかけてやった。
「あ、あれ…」
「みんな、逃げてください!」
ルークが凛とした声で叫ぶと皆、事態は飲み込めないものの一斉に逃げ出す。
「ルーク、こいつ磯臭い、早くなんとかして」
「な、なんじゃと、小わっぱ!くそ、放せ!!」
「もう、アッシュが来るよ」
ルークの声とともに、暗がりの方から、部下を連れアッシュが現れた。
「すまなかった」
「全くだよ、さっさと連れてけ」
「それにしてもつくづく、不思議な男だな、セイレーンの歌にも惑わされないとは」
「いや、熟女趣味とかないし、俺が好きなのはルークだけだから」
呆れたようにルカがアッシュに言えばワナワナ震えながらルークが飛び込んできた。
「うぉっ!」
「うー、うー!」
「何、俺がセイレーンに連れてかれると思った?…大丈夫だよ、俺にはお前だけ、な」
「うん」
「それにしても、精霊って触れるのな」
今まで見えたり、見えなかったりしてきたが、実際触ったのは始めてだ。
「そのシルバーのペンダントのせいだ、俺が直接作ってまじないをかけてある」
「アッシュ、もしかしてそれのせいか」
「恐らくはな」
「へぇ、便利だな」
「お前にやろうか」
「俺、ピアスがいい、ルークと一個ずつ」
「アッシュ!それがいいー!ルカちゃんとお揃い!」
アッシュは何か言いたげだったが、お揃いお揃いと嬉しそうにするルークに苦笑して口をつぐんだ。
「今回の件の礼に後で贈ろう」
「さんきゅー」
「それじゃあ、そろそろ!またね、アッシュ」
「あぁ、またな」
手を振る二人にアッシュも応え、妖精界へと帰っていく。
ルカの存在にさらに興味をもちながら…。
END
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