愉快な俺たちなんでも屋!



その日、ティア・グランツは確かに困っていた。
母の形見のヴァイオリンが中身をすり替えられ、見事になくなっていたのである。
誰が、どうして、何故こんなことを、理由は簡単、世界で活躍する有名音楽家を幾人も育て上げたこの大学の音楽科、校内選考で外部の大きなコンクールに出場できるようになったからだ。


校内で、唯一、ただ1人。


妬みや、ひがみはいつかは形になるだろうとは思っていたが。

(こんな形でなるなんて)

母は有名なヴァイオリニストだった。
親の七光り、そう言われ続けて漸く自分の力で勝ち取ったものだったのに。

「よう、姉ちゃん、なんかお困り?」
「誰?」
「俺はルーク」
「…関係者以外ここは立ち入り禁止よ」

朱毛の青年がニカッと笑いティアを見つめる。

「でも、なんか困ったことあるんだろ?」
「…」
「ほい、これ!もし良かったら力になるぜ」

いつでも、相談しに来いよなと名刺を渡すと口笛を吹きながら颯爽といなくなってしまった。

「なんなのかしら…何でも屋、どんな依頼もお請けいたし、ます…ルーク・ジュエ…」

案外、自分の胸中っていうのはずっと複雑で藁にもすがる思いなんだとティアはその時思った。






「こんにちは」
「いらっしゃいませ、ご依頼ですか?」
「はい、ティア・グランツと申します」
「私は代表取締役のアッシュ・フォン・ファブレと申します、どうぞ、中の方でご用件の方をうかがいましょう」

スーツをきっちりと着こなし、深紅の髪を一本に纏めた男性が少し笑みを浮かべてティアを案内した。

「お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
「それでは、早速ですがご用件の方は?」
「こちらは何でも屋とお聞きしました、名刺を頂いて…もし、よろしければ、明明後日までにヴァイオリンを取り返してほしいのです」
「ヴァイオリン…」
「はい」
「わかりました、伝えておきましょう」

依頼主の名前と、用件だけ書くとアッシュという男は丁寧にそれを内ポケットにしまった。

「あの、報酬額とかそういうのは?」
「さぁ、気分ですから…私ではなく、二人の」
「二人?」
「えぇ、私はただの窓口ですから…でも、報酬額はそんなに気にしなくてよろしいと思いますよ、それに後払いですから」

アッシュは後は連絡先だけきくと、ティアを入り口まで送った。





「おら、馬鹿ども依頼だ」
「アッシュー!俺はともかくルカくんは馬鹿じゃないぞ」
「そうだ、俺は女好きだぞ、馬鹿じゃねーよ」

仰向けに寝そべっているルカの上に、ルークが寝そべっていちゃいちゃ、全くこのキワモノ双子がとアッシュは露骨にため息を吐く。

「ほら」
「あ、この間の姉ちゃんだ」
「へー美人、でもなんで顔写真」
「ヴァイオリニスト期待の星だと、特集まで組まれていた」
「ケースのヴァイオリンがいつもと違うものだった訳ね」
「どれも一緒に思えるけどやっぱり違うんだ」
「よっし、じゃあいっちょやりますか」
「おー!」
「ルーク、アッシュとの作戦会議が終わるまでお前はここで待機な」
「了解っ!」

びっと敬礼まで決めたルークを優しく撫でて額にキスすると、ルカはアッシュと別室に移った。

「生徒プロフィールと学校見取り図だ」
「生徒プロフィールなんて個人情報だろ、いいわけ?警視総監、こんなことして」
「お前たちが言わなければいい話だ、それに警視総監なんて肩書きはお飾りみたいなものだからな」

ひゅうっと口笛をふくとルカは少しだけ考える。

「俺の感だと犯人は女」
「どうするんだ?」
「うちの可愛いルークちゃんを編入させる」
「あいつ楽器なんてできるのか?」
「さあ?ただ、ルークはああ見えて天才なんだ、変な構えがない分やるぜ?」
「努力してる奴の敵だな」

このルカの言葉通り、ルークはいとも簡単に、ピアノをひきこなすと編入試験もパスしてしまったのだった。

「潜入は成功…後は姉ちゃんの周辺探るだけ」

ルカの言っていた通り、男子生徒からのうけは良い。

(だからって、女子生徒からのうけが悪いわけじゃないしなぁ、むしろ人気…)
「ねーねー、編入生でしょ、どうしたのこんなところで」
「え、と、誰?」

ツインテールの快活そうな少女とピンクの髪を背まで伸ばした少女がルークの後ろで立っていた。

「同じ学年、専攻が一緒だったでしょ?」
「あぁ、そういえば」
「先生に学校のこと教えてやれって頼まれたから」
「俺、ルーク」
「私はアニス、こっちはアリエッタ」
「よろしく、です」

これで情報が増えるとルークは内心ガッツポーズで、二人に笑みを浮かべた。

「やっぱりティアって学区外でも有名なんだ」
「そうなんだよ、すげぇよな」
「でも、最近、元気ない、です」
「え、何で?」

キタキタキタとルークは、そのネタに食らいつく。

「楽器が急に変わってからだよね」
「へぇ…」
「誰かに盗まれたんじゃないかって」
「…でも、ティアはみんなに人気、です」
「そこなのよ、噂だと告白してフラれた男子の仕業とか、一番なんかそれっぽかったのが、ティアの演奏手伝ってるピアノの子って話…」
「へぇ、そうなんだ」

敷地内のテラスでコーヒーを飲むと、ルークは携帯を弄りさらに報告を進めた。

「ん、睨んだ通り」

有力な線から潰して行くかと、ルカはペロリと唇を舐めた。



「初めまして、ナタリアお嬢様」
「誰です」
「申し遅れました、私はルカ…ちょっとお仕事でこちらに伺っている者です」
「何のご用ですか?私は、見ての通り練習中で忙しいのですわ」

鍵盤から手を放すと鋭い目付きでルカを睨む。

「すぐに終わりますよ、貴女が、ティア・グランツ嬢の楽器を返してくだされば」
「っ!」
「おや、思いあたることがありそうですね、詳しくお話願いましょうか」

ルカはビンゴと小さく笑うとずいっとナタリアに詰め寄った。

「どこから洩れたのかしら、困ったものだわ」
「返す気あんの?」
「言われなくても、元からそのつもりでしたわ」
「へぇ…訳ありっぽいな」
「それは」
「当ててやろうか」

部屋にあった机に座るとルカは足を組んで頬杖をついた。

「あんた、あのお嬢のこと好きなんだろしかも生半可な感じじゃない」
「…こんなことをしたんだもの、ティアには嫌われてしまいましたわ」
「多分、それはないと思うけど」

すると、ルークに連れられたティアが教室の隅から出てきた。

「ティア」
「ナタリア」
「…っ、私は」
「ねぇ、次の曲も一緒に演奏してくれるわよね?」
「…えぇ」

ティアが笑みを浮かべて、ナタリアの手を取ると、後悔や、不安でいっぱいだったのだろうぼろぼろと涙を溢し始めた。

「およ、なんか丸く納まったっぽい?」
「ぽいな」
「…解決してくださって、ありがとうございました、もうここまでで大丈夫です」
「姉ちゃん、困りごとなくなってよかったな」

ルークは鼻をかいて得意そうに胸をはった。

「あの、報酬は」
「別にいらねーよ、殆ど金かかってねーし」
「姉ちゃん達の活躍が俺らへの報酬ってとこで、頑張ってな」
「解決したし、俺ら行くわ」
「ありがとうございました」


ペコリと頭を下げたティアにいいってことよと笑うと、何でも屋の二人は颯爽と部屋から飛び出した。


「で、なんであの、姉ちゃんが楽器盗んだんだ?」
「ヴァイオリンの演奏に自分のピアノがついていかなくて周囲の悪口と、ティアがみんなに好かれていくから嫉妬したんだろ」
「ルカくん、頭イイー」
「お前が馬鹿なんだよ」

可愛い、可愛いとルークの頭を撫でるとルカはその手をとって満足気に歩きだした。



END








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